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2017年上半期の映画ベスト20とベストな犬

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トップテン

1.『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ監督、アメリカ)

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 佐々木敦は腐す意味で「オシャレなアメリカ文学みたい」と評したけれど、逆にオシャレなアメリカ文学みたいな映画以外にこの世に何があるっていうんだろうか。
 わたしたちはオシャレなアメリカ文学みたいな家族に囲まれたオシャレなアメリカ文学みたいな青春時代をオシャレなアメリカ文学みたいなカットバックやヴォイス・オーヴァーで振り返りたかったし、そもそも憧れるためにアメリカ映画を観るのであって、そこにオシャレがなければ憧れもないんじゃないの。
 それはそれとして、オシャレであるかどうかは別にして、個人的にああいう語り口に弱いのはたしかです。ああいうの、というのはつまり、不意に入ったナレーションで登場人物が未来の自分自身の死について語るようなやつ。フィクションでしかつけないウソです。
 すがすがしいルックのわりには終わりはわりと「けっきょく人間無理なことは無理なんだよ」的なビターさで、そのへんは存外『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の手厳しさに似ている。ある種の前向きさも含めて。
 あと、カリフォルニアが舞台ってだけで陽光で勝てるからいいですよね。
 

2.『お嬢さん』(パク・チャヌク監督、韓国)

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 劇場版ウテナ。松田青子もそう言っている。
 サラ・ウォーターズ原作でパク・チャヌクが撮る、と聞いたときは、どう考えても変な映画しかできないけど大丈夫か? と危惧したものだけれど、実際とてつもなくへんてこな映画ができちゃって微笑ましいことです。
 基本、フェティッシュですね、フェティシズムですね。こまやかなものも、おおざっぱなものもぜんぶひっくるめて。
 前者の最高峰は風呂に入ったお嬢様の歯を侍女である主人公がヤスリで削るシーンで、あの耽美さは誰にも真似はできない。
 

3.『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅政明監督、日本)

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 中村悠一のキャラデザと森見登美彦の物語が湯浅政明の特質に最高にマッチしているのは『四畳半神話大系』ですでに証明されていたわけであって、そういう意味では安心して観られるファンタジー。快楽しかない。

4.『哭声/コクソン』(ナ・ホンジン監督、韓国)

 もちろん真っ裸で生肉を食う國村隼のビジュアルもちょうおもしろいんですが、それがけして出落ちに終わらなくて『お嬢さん』とおなじくエクストリームな新天地へ観客をいざなってくれる。方向はぜんぜん違うけど。
 最初は韓国映画によくあるど田舎刑事ものっぽいかんじではじまるんですけど、途中から白石晃士みたいな呪術師合戦(「殺を打つ」というとてもいいワードが出てくる)となり、最後は不吉なリドルストーリーで終わるんで、やっぱキリスト教をバックグラウンドに持ってる国は強いなあ、とおもいます。

5.『アイ・イン・ザ・スカイ』(ギャビン・フッド監督、イギリス)

 サスペンス映画としては今年一番じゃないかなってくらい、とにかくサスサスしてる。中東のテロリストたちを見張る現場が直接的なスパイサスペンスである一方で、それを見守る政治家たちがテロリストを爆撃するしないの判断にきゅうきゅうとするところもまたサスペンスであって、まあ、色んなレイヤーで色んな種類のサスペンスがたのしめてお得感あります。
 そういう緊張感を支えるうえで古典的な「見る-見られる」のドキドキ演出が作劇に一本筋を通していて、とても骨太なエンタメにしあがっています。

6.『美しい星』(吉田大八監督、日本)

 話自体は箸にも棒にもかからないんだけど、だからこそというべきか、オーバーな演出がうまくハマっている。モブにちゃんと表情があって動いている映画はいい映画ですよね。 

7.『グリーン・ルーム』(ジェレミー・ソルニエ監督、アメリカ)

 密室に閉じこめられた若者たちに満腔の殺意をもってハゲどもが襲い掛かってくる尺にしてだいたい90分のよくあるサバイバルスリラーかと思いきや、そこは『ブルー・リベンジ』のジェレミー・ソルニエ、クライマックスがおそろしくフレッシュ。
 イヌの使い方もちゃんとこころえている。

8.『沈黙/サイレンス』(マーティン・スコセッシ監督、アメリカ)

 「なぜそうまでして信仰を貫かなくてはいけないのか」というのはアメリカ映画の永遠のテーマで、その根底にはイエス・キリストの生涯がある。
  人間が自分なりに信仰を発見していくのはいいものです。ガーフィールドが神の声を聴くシーンはなんどみてもいい。

9.『セールスマン』(アスガー・ファルハディ監督、イラン)

 構成やモチーフ(ドアや密室)の使い方は『別離』や『ある過去の行方』とぶっちゃけ大差ないんだけど、作を重ねるごとに洗練されてきているとおもう。
 キャラクターごとの情報コントロールの繊細さは高度に発達した日米のエンタメ業界にも観られないレベルであって、アメリカあたりでちょっとミステリ映画撮ってもらいたいものだけれど、監督のキャラ的に無理かなあ。

10.『ラビング 愛という名の二人』(ジェフ・ニコルズ監督、アメリカ)

 ジェフ・ニコルズは今年はDVDスルーで『ミッドナイト・スペシャル』も出ましたね。そちらもなかなかいいかんじです。
 しかし、どちらかというと『ラビング』か。ジョエル・エドガートンをはじめとした役者陣のたたずまい(べんりなことばだ)もよろしいんですが、演出面でも非常に(アメリカ映画的な意味*1で)筋が通っていて、安心して観られる一本です。 
 

+10

11.『レゴ(R)バットマン ザ・ムービー』(クリス・マッケイ監督、アメリカ)

 DC映画のなかではいちばん好き。バットマンの重要要素のひとつである「孤独」についてとことんつきつめた作品でもある。

12.『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(ケネス・ロナーガン監督、アメリカ)

 観た直後はそんなでもないんだけれど、日が経つにつれてあれこれ考えてしまう系。やはり最後のキャッチボール。

13.『帝一の國』(永井聡監督、日本)

 こういう観客をバカにしていないコメディがちゃんと評価されてちゃんと興収を稼いでいるのは健全でいいなあとおもいます。

14.『ハクソー・リッジ』(メル・ギブソン監督、アメリカ)

 三幕構成というか実質四幕なんだけれど、最近の映画でここまでちゃんとパッキリ構成を割っているのもめずらしい。

15.『ナイスガイズ!』(シェーン・ブラック監督、アメリカ)

 コメディセンスがツボに入った。ちょっと長いけどね。事件に巻き込まれるガキが無能でない点で珍しいハリウッド映画。

16. 『はじまりへの旅』(マット・ロス監督、アメリカ)

 家族映画。ラストカットがとにかくいい。

17.『パトリオット・デイ』(ピーター・バーグ監督、アメリカ)

 銃撃戦がいいと聞いて観に行ったらたしかに銃撃戦がよく、その他の点でもソリッドな出来。

18.『メッセージ』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、アメリカ)

 SF映画でこのルックが実現できればまあ勝ち戦ですよね。しかしヴィルヌーヴっておもしろいはおもしろいんだけど、いつもアメリカでの評価から-10点されたくらいな印象なのはどうしてなのか。

19.『夜明けを告げるルーのうた』(湯浅政明監督、日本)

 映像ドラッグという観点からはちょっと惜しいところを残した。

20.『ジョイ』(デイヴィッド・O・ラッセル監督、アメリカ)

 O・ラッセルのなかではいちばん好きかも。


その他良作メンション:

『22年目の告白 私が殺人犯です』(入江悠)、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』(ジェームズ・ガン)、『テキサスタワー』(キース・メイトランド)、『くすぐり』(デイヴィッド・ファリアー、ダイアン・リーヴス)、『この世に私の居場所なんてない』(メイコン・ブレア)、『スモール・クライム』(E・L・カッツ)、『ジョシーとさよならの週末』(ジェフ・ベイナ)、『ノー・エスケープ』(ホナス・キュアロン)、『人生タクシー』(ジャファール・パナヒ)、『スウィート17モンスター』(ケリー・フレモン・クレイグ)、『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス)、『フリー・ファイヤー』(ベン・ウィートリー)、『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル)、『エリザのために』(クリスティアン・ムンジウ)、『こころに剣士を』(クラウス・ハロ)、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ティム・バートン)、『ワイルド 私の中の獣』(ニコレッテ・クレビッツ)、『無垢の祈り』(亀井亨)、『王様のためのホログラム』(トム・ティクヴァ)、『モアナと伝説の海』(ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー)、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(ジャン=マルク・ヴァレ)、『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』(パブロ・ラライン)


ベスト・ドッグ

1.『ノー・エスケープ』のベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア
 国境でメキシコからの不法移民をハントするじじいに飼われている忠実なトラッカー。ジジイとの別れのシーンは涙なしでは見れず、観客はみな凶悪なメキシコ不法移民への怒りをあらたにするだろう。


2.『ワイルド 私の中の獣』のオオカミ
 職場でのストレスからメンタルの狂った女に拉致監禁されるかわいそうなオオカミ。換金された部屋で暴れてウンコを垂れ流すオオカミと女との駆け引きが見もの。


3.『コクソン』の黒いイヌ
 韓国の名も無き村へやってきた謎の異邦人、國村隼の飼い犬。連続殺人事件を調べに来た刑事を撃退するなどの活躍を見せるも、最期は逆ギレした刑事に撲殺される。以て瞑すべし。


4.『夜明けを告げるルーのうた』のワン魚
 捨て犬が人魚に噛まれて半イヌ半魚になっちゃった。劇場でこれのワッペンがついたペンケース買いました。


5.『グリーン・ルーム』のシェパード
 ネオナチのパトリック・スチュワートに使嗾されて主人公たちをおいつめるイヌ使いの飼い犬。なぜか劇中でイヌ使いのイヌに対する愛情がこまかに描写されたりもする。

*1:家というモチーフに家族の絆を託すところとか


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