シーズンですね。今年はやたらアニメ映画を観た気がしました。なんででしょうね。まあいいか。
ベスト24と言っても、今年観た新作アニメ映画が全部で24本というだけです。
『ズートピア』と『聲の形』と『ファインディング・ドリー』は三回くらい観たと思います。あとは全部一回ずつでの印象です。
ではまいりましょう。
神
長編のベストの前に短篇のベストの紹介を。
神『ひな鳥の冒険』(アラン・バリラーロ監督、ピクサー)
『ファインディング・ドリー』の併映短篇。シギのひな鳥が自力で餌を取れるようになるまでを描く。
とにかく、神、としかいいようがない。浜辺の砂の一粒一粒、小鳥の眼に揺れる光のひとつひとつ、画面に映るすべてに奇跡が宿っている。あらゆる瞬間が現実以上に生きている。無機物から生命が発生したというのも、この短篇を観たなら信じられる。
ベスト5
☆『ズートピア』(リッチ・ムーア&バイロン・ハワード監督、ディズニー)
擬人化された動物たちの街で発生した連続失踪事件を、理想主義的なウサギの警官が厭世的な詐欺師のキツネをバディに捜査するクライム・サスペンス。
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言いたいことはだいたいブログ記事のほうで言ったんで、いまさら特につけくわえることもありません。3DCG、アニメーション、ストーリーテリング、映画、おおよそ技術と名のつくものの粋であり、ディズニーアニメ史に残る傑作です。
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2『聲の形』(山田尚子監督、京都アニメーション)
元いじめっ子兼元いじめられっ子の高校生が、昔いじめていた聾の少女に再会してさあどうすんの、っていう青春ドラマ。大今良時の漫画原作。
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これもだいたい言いたいことはブログのほうで言ったような気がする(けど感想的な部分はあんま出してない気もする)。
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なんだかんだで一番好きなのは、動作のディティールなのかもしれません。
小学生時代の植野が遊具を伝わせる指。
将也を追い出した結絃がパイプ椅子に腰掛けながらぼんやりと雑誌のページをいじる指。
画面が豊かである事実そのものが、作品のテーマにかかわってきます。
3『この世界の片隅に』(片渕須直監督)
戦時中に広島から呉に嫁いできた若い女性が、だんだんとどん詰まりになっていく日本をかろやかにでも必死に生き抜いていくさまを描く戦時下日常ドラマ。こうの史代の漫画原作。
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戦争の暴力、と聞くと、まあ『プライベート・ライアン』の冒頭みたいに弾丸がガンガンとんできて冗談みたいに兵士が死んでいく戦場を人は連想しがちなものですが、近代戦が総力戦である以上、後方にも暴力は波及してくるわけですよね。それも『アドルフに告ぐ』の峠草平みたいな、いかにも波乱万丈の人生を送っている人間でなくったって、さしあたって思想を表明せず日々洗濯して買い物して掃除して裁縫してメシ作って愛を営んでいる主婦だって、ちゃんと区別なく戦争から殺しにこられます。
わかりやすいのは空襲ですよね。空が蹂躙される。焼夷弾が降ってくる。みんなの家が燃える。家が燃える、というのは映画では大変なことです。家族、ふるさと、アイデンティティの帰属先、それがいっぺんに失くなってしまうのですから。
でも、空襲や爆弾ばかりが脅威であるとはかぎらない。怪我や病気、物資の不足、官憲による統制、出征した家族の戦死、それらは主人公のすずに襲い掛かってくる暴力ですが、彼女以外だって、たとえば娼館で働く女性は色街から一生出られない。昭和二十年ですよ。すげえ時代だな、と思います。
現代と比べるとそりゃあすさまじいというか凄惨な状況なわけですけれど、それでも人間はそこそこに生きている。二重に、すげえ時代だな、と思います。話がちょっと変わりますけど、わたしはミステリ作家や文豪が戦時中につけてた日記やエッセイを読むのが好きで、といってもごくたまに読むくらいですけど、そんなたまの機会に毎回、みんなそこそこに生きていたことに驚かされます。みんな普通に泣いたり笑ったりくだんないことやってたり悪態をついたり怒ったり食べたり死んだりしていて、まあでもよくそういうことを戦争中にできるな、と思う。戦争中に小説とか読んでる場合じゃねえだろう。そう思うんだけど、でも読む人は空襲受けようがなんだろうが読む。どころか、戦地に行っても読んでる。なんか岡本かの子とかスタンダールとか読んでる。読んで、つまんねえよな、とか日記に書く。人が死んでるんですよ。人がわりとイレギュラーな形で死んでるのに、小説を読んでつまんないとか感じて書く。感じられて、書ける。生きてます。大変なことです。
全然話ズレちゃいましたけど、だから、簡単に死ねる時代に生きてるってすごいんだなあ、という映画です。
4『ファインディング・ドリー』(アンドリュー・スタントン監督、ピクサー)
『ファインディング・ニモ』の続編。健忘症のナンヨウハギ、ドリーが両親の存在を思い出し、再会すべく旅に出る。
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基本的に世間に出しちゃいけないレベルでダメな人に対してやさしい映画に弱いんですけど、これもそういう類で、映画館で泣きました。今年の映画で、他に泣いたのは『マダム・フローレンス!』くらいですね。
ドリーは『ファインディング・ニモ』のころから病的なまでに忘れっぽいキャラとして描かれてきました。その忘れっぽさはすさまじく、何かを話している最中に数秒前に話していたことを忘れて混乱してしまうほどです。まず、一人(魚だけど)でまともな社会生活を営める人(魚だけど)ではありません。
でも、そういうあなたでも、あなたとして、ちゃんと生きていいんだよ、と『ファインディング・ドリー』では言ってくれる。
理想主義的だけど、絵空事ではないレベルでの地に足のついた(もちろん魚ですから抽象的な感じではるんですけど)処方を用意してくれていて、物語もそのために作りこまれている。『ズートピア』同様、『ドリー』がひとやまいくらの教条的な訓話に堕していないのは、テーマを伝えるために物語面で妥協をしていないからだと思う。ただ『ドリー』の場合は、ちょっとテーマにひっぱられすぎているのは否めないかなあ、とも。
監督が大御所のスタントンだとピクサーご自慢のブレイン・トラストが十全に機能しないんですかね。
5『劇場版 探偵オペラミルキィホームズ 〜逆襲のミルキィホームズ〜』(森脇真琴監督、J.C.STAFF)
TVアニメ『探偵オペラ・ミルキィホームズ』の劇場版。あらすじはよく憶えてないけど、またトイズがなくなって気がする。
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思えば、といって思いさえすればなんでも放言してかまわないのではないのだろうけれど、『探偵オペラミルキィホームズ』はシリーズを通じてずっっっっっっと、探偵小説における「探偵」の存在についてラジカルな問いを投げかけてきたアニメだった。問いとは、究極的に、「探偵とは『推理する能力』がなくても、なお探偵でいられるのか?」ということだ。
この麻耶雄嵩ばりの探偵論物語に、劇場版では回答が出る。
先んじて言ってしまえば、探偵とは、能力ではない。資格でもない。まして職業などでは絶対にない。
態度なのだ。
自分が探偵である、という心意気さえあれば、世界は自然にあなたを探偵にしてくれる。
私がなにを言ってるのかわからない向きは、是非『劇場版 探偵オペラミルキィホームズ』をご覧になってほしい。それでもわからないなら、それでいい。ミルキイホームズが真犯人を指摘するときに頬を伝うであろうその涙が本物でさえあるのなら、他に何も要らない。*1
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以下それ以外。
基本的には楽しめた順で並べています。降るにつれて雑になっていくのはそのせいです。まあ、作品同士でそんなに差はないですが。観ればだいたい面白いです。
『君の名は。』(新海誠監督、コミックス・ウェーブ・フィルム)
あらすじは全国民が知ってるだろうし省略します。
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ぼくの周囲ではロジックで物事を見る人が多いせいか評判悪かったんですが、まあでもエモいからいいじゃん、感情でつながってるからつながってるじゃん、RADWIMPSでアガるからいいじゃん、でいいじゃん、じゃないですか。
ところで、
なんでみんなRADWIMPSを憎むのでしょう?
なんでみんな中高生のころにRADWIMPSを聴いていた記憶を嘘にしたがるのでしょう?
変質したのは野田洋次郎ではなく、あなたなのでは?
心が身体を追い越してきたのでは?
銀河何個分かの果てに出逢えたその手を壊さずにどう握ったらいい?
あと観たらみんな必ずゆきちゃん先生の話をしますね。ぼくは、ゆきちゃん先生の鬱はまだ治ってない派です。
『ソング・オブ・ザ・シー』(トム・ムーア監督、カートゥーン・サルーン)
あざらしの妖精ケルピーのお母さんと人間のおとうさんとのあいだに生まれた兄妹の話。家族の話。
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『ブレンダンとケルズの秘密』のトム・ムーアの映画を観ない、とは選択というよりむしろ敗北主義的な自殺に近くて、公開されたからには観に行かねばならないわけです。観るわけです。当然のごとくすばらしいわけです。
『ケルズの書』のカリグラフィーを下敷きにした『ケルズの秘密』のスタイリッシュさはさすがにちょっと薄れていたものの、そのぶんアニメーションの快楽が前面に押し出されていた印象(魔女の頭が膨張するシーンとかちょっと宮﨑駿っぽかった)。
でもまあ、なによりキャラクターのかわいさですよね。ヒロインのシアーシャは跳ねた前髪を直す仕草がいちいちかわいいし、主人公ベンの親友であるイヌ(オールド・イングリッシュ・シープドッグ)もでかくてかわいいし、アザラシたちも最高にキュート。人がアザラシに、アザラシが人にメタモルフォーゼする瞬間はたぶん手塚治虫に観せたら失禁しながら号泣してスケッチとるレベルですよ。
お話も、きょうだい、父子、母子、祖母と孫、少年と犬といった複合的な家族の関係をあますところなく優しくたおやかに掬い取った物語で、ご家族誰もが愉しめること間違い無し。
『KING OF PRISM by PrettyRhythm』
あらすじ:これがプリズムショーかあ〜〜〜〜〜〜。
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感想:これがプリズムショーかあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
話としては至極どうでもいい(どうでもよくないんだと主張する勢力も存在しますが、彼らを招き入れてはなりません。悪魔のささやきであり、聞いたが最期で死にます)んですが、映画館で得られる体験としては突出してユニークであり、圧倒的。自分がなにをされているのか、なにを見せられているのか、なにを感じさせられているのか理解できないまま、自失と涜神の六十分が過ぎていく。
観終わった直後はこの看過しえない体験をノーマライズしようと、自分を説得にかかることでしょう。
あれは話としてはなんてことないんだ。ああいう仕掛けのアニメはキンプリがはじめてなわけじゃない。ただ、みんなが狂っている狂っているといっているからそう思い込んでしまっただけ。
やがて人はキャラや設定の話に逃げます。
あのキャラは変だよね、設定どうなってるんだよ、あのシーンはおかしかったよね。バカだったよね、そうバカな映画だった。ははは。
全部うそです。逃避です。
現実を直視なさい。
キンプリはアニメではない。
キンプリは映画ではない。
キンプリは聖書ではない。
キンプリはあなたが精通したときに左手に握りしめていた安いエロ雑誌ではない。
キンプリはワンショット六十分の映像ドラッグです。
脳へダイレクトアタックする人造ウィルスです。それは伝染し、拡散され、やがて地上を覆い尽くします。逃げ場はありません。体験は有限ですが、滅びは永遠です。
あとに残るのは、廃墟となった京都イオンシネマの七番スクリーンだけなのです。
観るもののいなくなった大画面に、七夕の夜のプリズムショーが無限にリピートされます。
一日二十四回、精確に繰り返されます。その光景は、二十四コマで二十四回繰り返される映画一秒あたりの死に一致します。「ということは、映画というメディアはキンプリを上映するために生まれたのか?」
その問いかけに答える人間は、もう地上のどこにも存在しません。
あとに残るのは、廃墟となった京都イオンシネマの七番スクリーンだけなのです。
観るもののいなくなった大画面に、七夕の夜のプリズムショーが、一日に二十四回、一秒に二十四コマ……。
『アノマリサ』(チャーリー・カウフマン&デューク・ジョンソン監督)
ビジネス書で一山当てた男が講演先のホテルで「運命の女」に出会う。他の人間たちが全員同じ顔見え、同じ声に聞こえていた男の眼には、その女性、リサだけは違う顔、違う声を持っているように見えた……。『脳内ニューヨーク』のチャーリー・カウフマン監督作。
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人形をコマ撮りする、いわゆるストップ・モーションと呼ばれる手法で作られた作品。『ウォレスとグルミット』とか『コララインとボタンの魔女』を想像していただけるとわかりやすいでしょうか。
人形アニメ部分を担当したデューク・ジョンソンはデューク・ジョンソンで、アメリカTVコメディ界の仕掛け人ダン・ハーモンとの絡みでなかなか興味の尽きない人ではあるのですが、『アノマリサ』はやはりチャーリー・カウフマンの映画と言ったほうがいい。
おもいだしてください。『マルコヴィッチの穴』のチャーリー・カウフマンです。『エターナル・サンシャイン』のチャーリー・カウフマンです。『存在の耐えられない軽さ』のフィリップ・カウフマンではありません。チャーリー・”『脳内ニューヨーク』”・カウフマンです。
チャーリーは基本、実写の人ですので、ストップ・モーションという手法をただのんべんだらりと消費しません。人形を用いることで「世界が偽物に見える主人公の視点」に一定の没入感を与えます。
どういうことかといえば、登場人物たちの頭に不自然な線が走ってるわけですよ。後頭部をぐるりとまわって両の目尻をつなぐように。最初観ているうちは、未熟な技術のせいでパーツとパーツの継ぎ目があらわになってしまっているんだな、と思いますが、あんな高度に繊細なアニメーションを達成できるスタッフが、こんな初歩的なポカをやらかすはずがない。もちろん、仕掛けが眠っているわけです。
この不自然な継ぎ目以外にも『アノマリサ』はテクニカルな仕掛けに満ちています。
主人公(デイヴィッド・シューリス)とヒロイン(ジェニファー・ジェイソン・リー)以外の人物の声は、すべてトム・ヌーナンが担当し、それらのキャラは男女の区別なく顔の造作もみんな同一です。
他にも夢とも現実ともつかない幻想的なシーンに放り出される、世界や建物が変容する、(人形アニメなのに)人形がフィーチャーされる、やたらアダルトなシーンが出てくる……つきなみな言い方をすればカフカ的な現実に、チャーリー・カウフマンファン的にはいつものチャーリー・カウフマン的な現実に、観客は主人公を通してどんどん侵食されていきます。そういう現実崩壊感覚が、そもそもが不自然さだらけであるストップモーションの手触りによくマッチしている。
最終的には、愛の話です。ハードでにがい、愛の話です。
色んな意味で、大人向けのアニメですね。
『ペット』(クリス・ルノー&ヤーロー・チーニー監督、イルミネーション・エンターテイメント)
ジャック・ラッセル・テリアのマックス🐶は飼い主の女性がだーい好き❤。しかし、ある日、デュークという名のデカくてイヤミな雑種犬👿が現れ、幸せだった日常は思わぬ方向に転がり始める……。
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『怪盗グルー』フランチャイズの大成功により、売上的にはディズニー/ピクサーに互する有力スタジオに成り上がったイルミネーションですが、内容はといえばピクサーの模倣から逃れきれていませんでした。
そんなイルミネーションに対する私の見る目が変わったのは、『ミニオンズ』からでしょうか。*2ピクサーのお家芸である「深くてイイ話」を諦め、ほとんど露悪スレスレのスラップスティックギャグ路線へ舵を切ったのです。その結果『ミニオンズ』は映画史上でも稀に見るイギリス国辱映画として批評的に敗北しますが、ともかくこれ以降のイルミネーションが吹っ切れたことはたしかです。
全然的はずれなことを言いますが、ピクサーがドラえもんだとすれば、イルミネーションはクレヨンしんちゃんでしょうか。
で、『ペット』ね。『ペット』ですよ。かわいいよね。かわいい動物がいっぱい出てきてカーワイー*ଘ(੭*ˊᵕˋ)੭* ੈ✩‧₊みたいな……すいません、ウソつきました。そんなにかわいくないです。ひょうたんみたいな顔の主人公、ブサイクの極みのような雑種、ほとんど円形のめつきわるいネコ、劇中で可愛いキャラとされているウサギでさえなんというか……何? ノリをまいてないおにぎりってなんて呼ぶんだっけ? おむすび?
どいつもこいつも握りつぶしたくなるような憎ッたらしいツラしてんスよ。
そいつらがマアひどい目にあったり、ひどい目にあわせたりする。そういうギャグがいちいち極まっている。もちろん擬人化されているんですが、そのへんの動物アニメよりも、ああ、こいつら畜生なんだなあ感が強い。
ただギャグがちょっと面白いってだけなら『コウノトリ大作戦!』とそんなに変わらない好きさ(あれ? けっこう好きだぞ?)なんですが、この映画を一段上に押し上げたのはなんといってもポメラニアンを演じる沢城みゆき。
このポメラニアンがね、頭おかしいんですよ。主人公のこと大好きで大好きでしょうがない夢見る乙女です。が、テレビで毎日観ているテレノヴェラ(スパニッシュ系の昼メロ)に影響されて、愛する主人公が窮地に陥ったと知るや情熱的に物事を解決しにかかる。愛ゆえに強い。愛ゆえに最強。暴力で愛を通そうとすらします。
挙動もいちいち完璧で、チョコマカ動いて躁気味に喋る。自分の内部の論理で納得して素早く行動する。そこへきてCV.沢城みゆきとくれば、全人類の普遍的な記憶として蘇るのが、『マイ・リトル・ポニー』の主人公トワイライト・スパークル。シーズン2の第3話『トワイライトがピンチ!(Lesson Zero)』ですよ。キチトワイですよ。切羽詰まって煮詰まった感のあるときの沢城みゆき演技を正味一時間くらいのあいだ堪能できる。それだけで『ペット』は吹き替えで観る価値がある。
とまあさんざん他人に伝わらない形で褒めましたが、大筋のストーリーは『トイ・ストーリー』のパクリです。その点だけとれば劣化コピーといってもいいと思います。ですが、『白雪姫』以降のディズニー/ピクサー二重帝国のウェルメイドな「良きアニメ」的な作劇に対して、ワーナーアニメのルーニー・テューンズに代表される「わるいアニメ」の道統がイルミネーションにはたしかに受け継がれている。
現在のアメリカアニメ映画界の最前線を張っている作品のひとつであることは間違いありません。イルミネーションの次の作品は『シング/SING』。見逃すなかれ。
『モンスター・ホテル2』(ゲンディ・タルタコフスキー監督、ソニー・ピクチャーズ)
人間と結婚して一児のママとなったドラキュラ娘、メイヴィス。彼女はクレイジーなモンスターが集うモンスター・ホテルで子育てをつづけるべきか、夫の故郷である人間界で「まともな」子どもを育てるべきか悩み出す。
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前作のヒロイン、それもどう観たってティーンエイジャーみたいな見た目だったヒロイン(ドラキュラなんで数百才オーダーだけど)が開始一分で人妻となり、五分で妊娠し、十五分で五歳児の母親になる衝撃。こんな子供向けアニメ映画は初めてやで。
そして、新ジャンル、腹ボテこうもり。
まあ内容は前作にひきつづきシングルファーザーである父と娘の和解といいますか。前作と違うのはお互い子を持つ親になったことですね。子持ちの親子同士の相克を描くアニメ映画はめずらしい。ソニーなりに苦心して独自の路線を見出そうとしているのがうかがえます。ギャグもストーリーもそこそこにバランスがよろしくて、なによりキャラデザがあいかわらずキュート。愛嬌だけでいったら今年トップクラスかもしれません。
この作品の持つもう一つのアングルは、テレビアニメ界の逆襲、でしょうか。監督は、『デクスターズ・ラボ』や『サムライ・ジャック』といったカートゥーン・ネットワークで育った人間にとっては涙の出るほど懐かしいタイトルを生み出した英雄、ゲンディ・タルタコフスキー。第一作から継続しての起用です。大物とはいえ、テレビアニメとアニメ映画で(すくなくとも監督クラスの)人材の住み分けがハッキリしているアメリカアニメ界では、めずらしい抜擢でした。
たとえそれがアダム・サンドラー映画であったとしても、タルタコフスキーが長編を撮る、というのは米国アニメ界における事件なわけで、とりあえず観る義務が生じます。*3
現在でもアメリカTVアニメ界の主流は2D*4なわけですが、そういうところの第一線級を走り続けてきたひとが3Dを舞台にするとどういう風にアニメーションをアニメートしていくのか。そういう興味で観てるとやはり『ドリー』や『ペット』と何かひとつひとつの所作やショットが違う気がする。気がするだけかもしれないというか、むしろ作家性に還元されるべき差異なのかもしれませんが、なんだか新鮮に観える。
とくにクライマックスのバトルシーン。テンポや構図が『パワーパフガールズ』っぽくて、眼福。
『同級生』(中村章子監督、A-1 Pictures)
男子高校生二人が恋愛関係になるんだけど、ふたりのあいだにエロカッコイイ教師がからんできてたいへ〜ん💦みたいな感じだった気がするけど、あってる?
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原作のストーリーほとんど忘れた状態で鑑賞して、今となっては映画のストーリーもほとんど忘れてしまっていますね。ちゃんと明日美子的な透明なエロスが再現されていて良かったなあ、という感触だけが残っています。
これを書くために予告編を観ていてちょっと思い出しかけましたが、二人の距離感の表現がすばらしいですよね。間合いのとり方、肉体的な接触の詰め方、ショットの切り方、なんかね、いいなあと。
『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015)(水島努監督、アクタス)
学校のお取り潰しを回避すべく、高校生戦車乗りたちが大学生戦車乗りたちと戦う。
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今年になって観ました。バカスカ撃ち合う戦車を観てて、楽しくならないわけがない。たまらなく巨大な自走砲の砲身をリアルな存在として信じられたなら、それで十分なんじゃないでしょうか。
関係ないですが、一週間くらい前にアンチョビは頭悪いから大学進学できなさそうでかわいそうだなあ、という話を他人にしたらその人から、まあ意外と勉強はできそうだし、第一戦車推薦があるだろうから進学するくらいは大丈夫だろう的なことで説得されました。よかったなあ、アンチョビ。
『アーロと少年』(ピーター・ソーン監督、ピクサー)
建築や耕作といった文明生活を営む恐竜たちの世界で、自分のミスで父を失った少年恐竜が、野蛮な「動物」である人間の子供と出会うロード・ムーヴィ。
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巷では「ついにピクサーが駄作を作った」と騒がれていたようですが、本当にこの作品を観て言っているようならその目ン玉の方がクソでできているのでしょう。たしかにピクサー作品としては、ストーリーの力強さに欠けるのは否めませんが、そのぶん表現にポイントを振っています。テクスチャのリアルさと官能は『ファインディング・ドリー』までを含めたピクサー史上最高クラスでしょう。
古き良き西部劇へのリスペクトにあふれた雄大な自然美です。
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『コウノトリ大作戦!』(ニコラス・ストーラー&ダグ・スウィートランド監督、ワーナー・ブロス・アニメーション)
かつて世界中に赤ちゃんを配達していたコウノトリたち。現在では赤ちゃんの配送をやめ、普通の宅配会社として営業している。しかしある男の子のねがいによって産まれてしまった赤ちゃんが、大騒動をひきおこす。
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配給会社としてはともかく、制作会社としては『レゴ・ムービー』によって一躍アメリカ・アニメ映画戦国時代に版図を築き上げたWAGですが、この『コウノトリ大作戦!』で『レゴ』の成功がフロックでなかったことを見事証明しました。
この作品も『ペット』的なスラップスティックギャグ寄りのカラーなわけですが、やはり「第二のピクサー」への野心が捨てきれないのか、とってつけたような人情ドラマも展開されます。とってつけたような、といってもそこは2016年のとってつけですから、そこそこバランスがとれていて、物語的にも強度がある。だからフツーに観られるし、フツーに感動できる。
ですが、この作品はなんといってもギャグでしょう。オオカミたちの集団メタモルフォーゼ芸や、ペンギンたちとのサイレント格闘シーンは出色の切れ味で、瞬間最大風速的には本年度最高のギャグアニメ映画といってもよいかもしれません。
WAGはこの調子でどんどんオリジナル企画を出していけばいいと思います。が、次の四年で制作予定だという『レゴ・ムービー』の続編を含めた五本、どれもレゴだったりスクゥードゥービーだったりと既存のIPの使い回しになるっぽい。五本のうち唯一オリジナル企画はイエティを題材にした『smallfoot』のみ。
ヴァラエティ誌の報道を読むと、原案は『怪盗グルーの月泥棒』でストーリーを担当したセルジオ・パブロス、脚本は『フィリップ、君を愛している!』や『フォーカス』といった実写方面で活躍するジョン・レクーアとグレン・フィカーラのコンビ、監督はディズニー出身で『クルードさんちのはじめての冒険』(ドリームワークス)で作監を務めたライアン・オルリン。ずいぶん寄せ集め感の強い面子ですが、むしろ新進の気概をこそ買うべきでしょうか。
『レッド・タートル ある島の物語』(マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督、プリマ・リネア・プロダクションズ)
無人島に一人取り残された男が、たまたま見かけた赤い亀をひっくりかえして殺したら、なんか美人の嫁ができてかわいい子供にも恵まれました、というお話。ほんとうにそういう話。
- 作者:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット,池澤夏樹
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今年のアカデミー賞長編アニメーション部門ノミネート最有力作品です。全編がサイレント。アート映画ですね。抜けるような南洋の空と清澄な海、たおやかな木々、そして亀たちといった自然の空気感がスクリーンを通して強烈ににおってくる。そうした自然は美麗であると同時に脅威でもあって、ある瞬間に猛然と襲い掛かってきたり、かとおもえば気まぐれに恵みを与えてくれたりもします。一種のサバイバル物語といえばそうなんですが、多数の漂流もの映画とおなじく、人生が濃密に凝縮された寓話でもあります。
他のサバイバルものと一線を画しているのは、後半からの展開でしょう。孤独に生きのびるだけだと思われていた主人公に、たまさかのプレゼントが贈られます。そこからは、もう、本当に人生ですね。
鈴木敏夫がプロデューサーとして、高畑勲がアーティスティック・プロデューサーとして関わっている、といえば(それが日本向けプロモーションの一環とはいえ)ある程度の傾向は事前に予想できるのではないでしょうか。
『カンフー・パンダ3』(ジェニファー・ユウ監督、ドリームワークス)
ウーグウェイ導師のライバルであったカイが「魂の国」(死後の世界的な場所)から蘇った。力を渇望する彼は中国全土のマスターたちの能力を奪い、ウーグウェイに対する復讐のためにポーたちを襲う。一方、ポーのもとに自分の父親を名乗るパンダが現れて……。
『2』で主人公ポーのアイデンティティ問題を解決したのでもうそういうのはやんないのかなー、と思ってたけど、よく考えたら過去の問題が全部明らかになっていたわけではありませんでしたね。
今回は親子テーマ。どっちかというと親寄りの描写が多いですね。ポーの前に実の父親が現れるんですが、育ての親であるラーメン屋の鳥がポーを取られるんじゃないかとやきもきしたり、逆に生みの親のほうが距離のとり方に失敗したり。子どもであるポー自身については板挟み的な状況にあまり思い悩んだりはしません。
生みの父親と育ての親が直接対話するシーンは白眉ですね。
親も一個の人間だから間違ったりもするんだよ、と濱口竜介の『ハッピーアワー』と似たようなセリフも出てきますが、『ハッピーアワー』が人間を突き放すためのセリフであったのに対して、『3』はむしろ親である人々に対するいたわりというか、おもいやりから出ています。
ここまで親向けに振って大丈夫かな、と心配してしまうほどのバランス。
子どもたちにはおなじみカンフー描写でサービスします。
今回はスケールといいカメラワークといい、ちょっとドラゴンボールっぽくすらありますね。これはこれでいい。
『マイ・リトル・ポニー:エクエストリア・ガールズ - フレンドシップ・ゲーム』(アイシ・ルーデル監督、DHX&ハズブロ)
人気テレビシリーズ映画版第三弾。今度は運動会でフレンドシップ・イズ・マジック。
おまえらには一生わからないだろうし、こっちもわかってもらおうとは思わない。
あと Netflixは神。
『父を探して』(アレ・アブレウ監督)
昨年度のアカデミー賞ノミネート作品。ブラジルの作品ですね。抽象的でカラフルなタッチのアートアニメ。
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きちんと観ればとてもすばらしい作品だと思います。きちんと観られれば。
不幸なことに、私は上映時間の半分くらい寝てしまっていたので。
『預言者』(ロジャー・アレーズ監督、ヴェンタナローザ他)
レバノン人作家ジブランの大ベストセラーのアニメ映画化。父親を失って唖になってしまった少女、アルミトラと政治犯として軟禁状態にある詩人ムスタファとの交流、そしてムスタファの含蓄ある幻想詩世界を描く。
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いちおう長編アニメではあるのですが、詩人ムスタファが折々で詩を紡ぐと、アラーズとは別の監督によるファンタジックなシークエンスがはじまり、美しい言葉に乗せて蠱惑的な映像詩が展開されます。
どのパートもすばらしいのですが、やはりベストは『ソング・オブ・ザ・シー』のトム・ムーア担当パート。愛についての詩に沿って、グラフィカルに完成された短篇が流れます。
監督のロジャー・アレーズは、90年代にディズニー第二次黄金期を支えたレジェンド。『ライオンキング』を共同監督したロブ・ミンコフも最近ドリームワークスで『天才ピーボ博士』という良質の作品を残しましたね。
『きんいろモザイク Pretty Days!』(天衝監督、Studio五組)
あらすじ:綾ちゃんがしのに愛されようとがんばる!
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宗教映画の傑作。
なぜ俺は神から愛されないのかと悩むカルト宗教の信者の寓話。さも悩みを解消するために端緒になりそうな感じで思い出される過去のエピソードが、結局悩みの原因が発生するより前の出来事なため、思い出したところで何も慰めにもならないという脚本上の欠陥を抱えるものの、物語的にも観客的にも問題とされないためオッケーみたいな。
神の愛は一方的で気まぐれだが、信者は気持ちの持ちようでポジティブに生きられる。そういうお話。まあ現代のヨブ記みたいなもんです。ヨブは途中でキレるけど。
今年はこれと『フリップフラッパーズ』で鬼才、綾奈ゆにこ先生を知りました。いまさらでしょうが。
『名探偵コナン 純黒の悪夢』(静野孔文監督、TMS)
もちろんコナンが事件を解決しようとがんばる。
劇場版 名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)(通常盤)[Blu-ray]
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人間記憶装置に対するなんだその雑な条件付けは、だとか、いくらなんでも黒の組織潜入に捜査官いすぎだろ、ほとんど潜入捜査官じゃん、だとか、ウォッカとジンがドイツで黒の組織に潜入したスパイを処理したあと「日本に飛ぶぞ」と言うシーンで、こいつら、この服装のまま飛行機乗るんだろうなあ、と想像したりだとか。
あと、そうですね潜入捜査官の一人がカナダのタワーで観光ガイドみたいなことやってたんだけど、黒の組織にしろカナダの諜報機関にしろ、そんなところで仕事させて何を期待していたのか……。あと裏切り者とはいえガイドツアーの真っ最中に殺すなんてめんどくさいことしなくても……。
だとか。
随所にしこまれたおかしみを味わうだけで時間があっという間にすぎていく、優良なコメディであります。
次作は『福家警部補』シリーズの大倉崇裕先生が脚本を担当されるそうで、まじめに期待してます。
『アングリーバード』(クリス・ケイティス&ファーガル・レイリー監督、ロヴィオ・アニメーション&ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス)
怒りっぽい鳥が島を侵略してきたブタどもに対して怒りを爆発させる。
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移民問題の露骨な寓話(原作であるスマホゲームからまんま持ってきた)なのはともかくとして、全体的にダルい。とはいえ、クライマックスであるアングリーバーズ発射シーンは『この世界の片隅に』ほどではないにしろ破壊のスペクタクルに満ちていた。
『バットマン:キリング・ジョーク』
名作アメコミの映画化。あいかわらずひどいことをするジョーカーを、バットマンがしばこうとがんばる。
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原作の性差別的な部分を糊塗しようとして前より性差別的になってしまう悲劇。そこをのぞけば、そこそこ原作に忠実な映画化。