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2019年の新作映画ベスト25と、その他について

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 でももう楽しめねえ
 音楽を聴かなくなった
 友だちと会わなくなった
 笑わなくなった
 わがままになった自分を
 責めても仕方ないから
 次の手で攻めるだけ
 俺は自殺しないんだ

  ーー「KURT」SALU

proxia.hateblo.jp
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2016年に観た新作映画ベスト25とその他 - 名馬であれば馬のうち
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ベスト10

1.『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック、米)

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 今年はストーリーやコンセプトより佇まいを好きになる映画が多かった気がします。で、その佇まいという点において『マリッジ・ストーリー』は完璧だった。
 ノア・バームバック作品は特に『フランシス・ハ』以降は(『デ・パルマ』を含めて)なべて傑作なんですけど、個人的好きな理由は「ダメ人間の話だから」だったんですよね。
 なのでバームバックのダメ人間趣味の窮極として『ミストレス・アメリカ』が作家ベストに挙げられるべきだと考えていたんですけれど、『マリッジ・ストーリー』でそこがちょっと変わったように思われる。
 もちろん、世間的にバームバックが振れ幅の少ない作家としてみなされていることにあんまり反駁する気もなくて、『マリッジ・ストーリー』もデビュー以降のゆるやかでプログレッシブな変化の範疇内で語られることはたしかだし、演出面においても前作『マイヤーウィッツ家の人々〔改訂版〕』とモロに地続きではあります。
 技巧的といえば前から技巧的だったんだけれど、それしてもこっち方面でこんなに巧みだったかな、と思わされるところが本作には色々あって、たとえばカリフォルニアを訪れたアダム・ドライバースカーレット・ヨハンソンの、それ自体はほのぼとしてさえいる何気ない描写が、離婚調停の場面では相当な悪意のもと互いの人格を貶めるための材料として”解釈”されるという、悲劇的あると同時に相当にイカす業前を決めてきたりして、ただでさえ画面的に豊穣な映画がどんどん耕されていく。


 そして、アダム・ドライバー。バームバック作品出演四作目にしてついに主演をつとめたアダム・ドライバー
 2019年は改めてアダム・ドライバーはすごいな、と思い知らされた年でした。
 なにかアダム・ドライバーが映って何かしら苦悩しているだけでその映画が成立してしまうように見えてしまう。そういう領域にまで達してしまう俳優は少ないです。たいてい役者の魅力というのは演出でどうにかなってる場合が多いと思うのですけれど、『マリッジ・ストーリー』ような四方に隙きのない完璧な作品から『スカイウォーカーの夜明け』のようなとっちらかった作品、『ザ・レポート』のような毒にも薬にもならない社会派、サブに回った『ブラック・クランズマン』まで一様に成り立たせているのは俳優本人の力以外に説明がつかない。ヤバいな、と思い始めたのは『パターソン』くらいからですけど、2019年は特にすごかった。アダム・ドライバーはすごいんです。
『マリッジ・ストーリー』における佇まいを象徴する存在なんじゃないかな。

2.『スパイダーマン:スパイダーバース』(ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン監督、米)

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 これもわかりやすく佇まいの映画ですよね。スパイダーグウェンが飛び回るところだけでじんときます。
 注ぎ込まれたリソースがほんとうにやばくて、各バースのスパイダーマンごとでフレーム数が違う、とか、バカなんじゃないんでしょうか。よく製作費が9000万ドルぽっちで済んだな。
 ストーリー的にもよくできていて(フィル・ロードが関わっているので当たり前なんですが)、ちゃんと「スパイダーマン」に求められる物語様式に向き合いつつも、新鮮な作劇に仕上がっている。クモに噛まれてベンおじさんが死んで大いなる力には大いなる責任が展開のオリジンにはもう観客飽き飽きだよってことで今やってるトム・ホランド版ではその手間をすっとばす大正解の判断をしたわけですが、やはりスパイダーマンをやる以上、最終的には「おじさん」的な存在とその喪失の重力に引き寄せられてしまう。そこのあたりスパイダーバースはベンおじさんオリジンと「代わりのおじさん喪失」話を何重にも誠実かつおもしろくこなしたわけで、その点だけとってもなかなか常人にはできないことです。
 あとマーベルのクレジット後演出はあんまり好きじゃない(本編が終わったらさっさと席を立ちたい派)んですが、本作のはすごくよかった。

3.『僕たちのラストステージ』(ジョン・S・ベアード、英米カナダ)

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 すれ違いと同期の映画やホモソーシャルの亀裂と惜別の映画が好みで、本作にはこの二つがたっぷり含まれていました。
 どっからどう見てもイギリスのインディペンデント映画だなというルックで、だからこそサイレント時代のハリウッドと斜陽の人気コンビによく合うのかもしれない。
 

4.『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(レミ・シャイエ、仏デンマーク

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 三年くらい前に東京の日本橋のTOHOでやっていたアニメアワードフェスティバルのコンペ作品として劇場にかかっていたんだけど、そのときは満員で入れませんでした。で、三年後の2019年になって出町座の小さなスクリーンで観て、ああ、あのときは銃乱射してでも観るべきだったんだな、と後悔したものです。
 丸っこいキャラデザから『ケルツの秘密』や『ソング・オブ・ザ・シー』のスタジオサルーン作品みたいなかわいらしい感じなのかな、とおもってたらまあぜんぜんハードなんですね。そして、「かわいらしい」というより「うつくしい」という印象が強く残ります。
 そのビューティフルっぷりはキャラの動かし方でもあるし、シンプルなストーリーを指してもいるし、背景美術の話でもあるし、静謐さに満ちた演出の話でもある。
 スパイダーバースは本来調和のとれない要素をむりやり調和させたという点で見事だったのですが、本作はむしろ調和のためにすべてを捧げたような逸品であり、私たちはただその世界に身を委ねるだけで心地よくなれるのです。

5.『サスペリア』(ルカ・グァダニーノ、米イタリア)

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 オチそれでいいの? とか、ティルダ・スウィントンを三役に分けた意図はわかったけど、だから何? とか、そもそも原作ほぼ意味ないじゃん、とかまあ言いたいことはいろいろありますが、佇まいに振っている、という意味ではこれほど傑出している作品は2019年でも屈指だったと思います。
 手足のながい人たちが一心不乱に踊っている*1、魔女たちがなにやらあやしげな談合を催している、壁を光が泳いでいる、人がスローモーションで破裂している、よくわからない高速カットバック、そういう積み重ねられていく不穏さが自分のなかで最高さの結晶として形づくられていきます。

6.『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ、米)

 オチの部分にかんしてはおっさんの駄々っ子ですね、でおしまい*2なんですが、とにかくディカプリオとブラピがいい。
 特にディカプリオ。
 冷静に考えれば、あの一場面の演技を立派にやりとおしたところで、ただでさえ地位の低い当時のドラマのワンエピソードのワンシーンでしかないわけだし、落ち目の俳優人生がどうこうなるわけでもないんですが、だからこそ、それさえこなせないほどどん底にもがいていたディカプリオが感極まるというのがよくわかってしまう。
 ブラピもブラピも出ている場面はぜんぶ良くて、なんならただハリウッドの街を車で流しているだけでも感動的なまでに美しい。

7.『隣の影』(ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン、アイスランドデンマークポーランド・ドイツ)

 ご近所戦争もの。こういう細か〜〜〜い人間のイヤさを描く話は好きですね。特に主人公がおかした”罪”のイヤさ加減が絶妙です。
 ネタバレになるので詳しくは言えませんが、最初の段階では「まあそれはアウトでしょ」とおもっていたのが、あとで事情を聞くと第三者的には「ん〜〜〜ま〜〜〜〜気色悪いことは悪いけど、ギリギリかな〜〜〜〜」くらいになるのがまたいい。
 対照的に飼い猫のネコの「復習」に走るおばあちゃんのエクストリームさにはただただ呆然とするしかない。あれはビビるでしょう。
 

8.『天気の子』(新海誠、日本)

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 わたしは2000年代にまつわるものすべて、ゼロ年代といった呼称を含むすべてを焼却することに人生を捧げており、近々その功により教皇聖下から叙勲される気配すらある身なので、本来ならゼロ年代の亡霊たちのフラグシップのような新海誠をその年のベストに入れるような愚は犯さないはずでした。
 だが、『天気の子』はそんなわたしさえもゼロ年代の亡霊にすぎなかったのだと証明してしまった……。その敗北の記録として、ここにあげておきます。
 あと東京が滅ぶとすなおに気持ちいい。

9.『ちいさな独裁者』(ロベルト・シュヴェンケ、ドイツ)

 ナチスコメディに外れなしということで『ジョジョ・ラビット』には今から大いに期待しているわけですが、一方で『ちいさな独裁者』はほぼノーマークでした。だって『ダイバージェント』の監督ですよ? シュヴェンケ監督分は未見ですけれども、だってあなた、『ダイバージェント』の監督っていったらニール・バーガーと同格ってことですよ? いや、『幻影師アイゼンハイム』はいうほど嫌いではありませんが……。
 しかし観てみたらやはりいいわけですね。戦争もののコメディというのは本来悲劇的なものとして描かれる戦争や死を笑いの対象としてのアングルから撮るわけで、ある種の思い切りのよさが必要とされるわけですが、『ちいさな独裁者』はそのあたりにためらいがない。まったくない。特に収容所のシークエンスのクライマックスの強引で唐突なあっけなさを観たときはこれこれこういうのだよ、とうれしくなりました。
 収容所から後はやや蛇足感が残りますが、それでも今年随一のコメディであることは間違いがない。
 

10.『宮本から君へ』(真利子哲也、日本)

 やはり暴力……暴力はすべてを解決する……。
 2019年の映画において90年代の新井英樹のマンガを原作に立てるにあたってはさまざまな障害を抱えるわけですが、『宮本から君へ』はそこのあたりをうまくいなしつつ、真利子哲也の暴力性と新井英樹の熱量のいいとこどりをしたアホみたいな快作にしあがりました。

11〜25

11.『ゴッズ・オウン・カントリー』(フランシス・リー、英)

 105分間ずっとケンカックスしてる。扉づかいがいい映画は名作の法則。

12.『愛がなんだ』(今泉力哉、日本)

 視線と”空気”と居心地の映画で、それだけともいえるけれども、逆に映画にそれ以外何があるっていうんです?

13.『よこがお』(深田晃司、日仏)

 時系列のいじり方がとにかく技巧的。このわざとらしいくらいの人工性が深田晃司の妙味だと思います。

14.『海獣の子ども』(渡辺歩、日本)

 五十嵐大介に対する解釈が完全に一致してしまった。

15.『ジョン・ウィック:パラベラム』(チャド・スタエルスキ、米)

 ジョン・ウィックさんモテモテ映画。
 みなさんはニュヨークの路上できゃりーぱみゅぱみゅ流しながらスシを握っているハゲの凄腕暗殺者は好きですか? わたしは大好きです。
 あとついに人間がイヌを殺す映画じゃなくて、イヌが人間に殺す映画になった。

16.『君と、波に乗れたら』(湯浅政明、日本)

 あらすじはいかにもプログラムピクチャー的なのに、「好きにやった」と言っていた『ルーのうた』よりよほど好きにやっているように見える。ディティールがやはりいいんですよね。

17.『ボーダー 二つの世界』(アリ・アッバシ、スウェーデン

 二つの世界にアイデンティティを引き裂かれそうになる主人公に現実世界のさまざまなイシューが表象されつつも、やはりダークなファンタジーとして一級というバランス。
 原作になったヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短篇集もハヤカワから出ているのでオススメ。おばあちゃん版『ファイトクラブ』みたいな話もあるよ。

18『ルディ・レイ・ムーア』(クレイグ・ブリュワー、米)

 ひさしぶりのクレイグ・ブリュワーエディ・マーフィ主演? とふしぎがりつつも見たら、ハッピーな『エド・ウッド』であり『ディザスター・アーティスト』で、『エド・ウッド』の系譜としての『ディザスター・アーティスト』に失望していた自分的にはドンピシャでした。

19.『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(ファビオ・グラッサドニア&アントニオ・ピアッツァ、イタリア)

 エモ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。

20.『エイス・グレード』(ボー・バーナム、米)

 「なんとなくその場にはいはするけれど、グループの輪のギリギリ境界線に立っているぐらいのきまずさ」をすくいきった稀有な青春映画。

21.『劇場版バーニング』(イ・チャンドン、韓)

 イ・チャンドンの映画はいい。今回もいい具合の不穏さ。

22.『ドント・ウォーリー』(ガス・ヴァン・サント、米)

 『ジョーカー』や『ゴールデンリバー』もけして悪い映画ではないというかむしろ好きなのですが、今年のホアキン・フェニックスではこっちかな。[ こういうゆるやかなウィズネスによわい。

23.『アイリッシュマン』(マーティン・スコセッシ、米)

 長いけど、やっぱりいいよ。長いんだけどね。”ワンス・アポン・ア・タイム・イン〜”感は『〜イン・ハリウッド』よりもあった。『〜イン・アメリカ』のほうに近いという意味で、ですが。

24.『ドクター・スリープ』(マイク・フラナガン、米)

 キングもキューブリックもリスペクトしてますけど、でも結局撮るのは”俺”ですよ? とでもいわんばかりの不敵さを見せるマイク・フラナガン。これこそおれたちのマイク・フラナガン
 

25.『ひとよ』(白石和彌、日)

 人間という名のブラックボックス&おまえひとりで納得されてもな〜〜〜〜系映画。


犬映画オブジイヤー

*本年度の犬映画オブジイヤーは、わたしが『ドッグマン』を見逃すという前代未聞の不祥事を起こしたため、中止とさせていただきます。

 

ドキュメンタリー映画10選

『ビハインド・ザ・カーブ:地球平面説』
アメリカン・ファクトリー』
『FYRE:夢に終わった最高のパーティ』
『コカインを探せ!』
『マックイーン:モードの反逆児』
『本当の僕を教えて』
『《外套》をつくる』
『あるスパイの転落死』
『グレートハック SNS史上最大のスキャンダル』
『メディアが沈黙する日』

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観たアニメ映画全ランク

1.『スパイダーマン:スパイダーバース』
2.『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
3.『天気の子』
4.『海獣の子供
5.『きみと、波にのれたら』
6.『トイ・ストーリー4』(ジョシュ・クーリー監督)
7.『空の青さを知る人よ』(長井龍雪監督)
8.『プロメア』(今石洋之監督)
9.『失くした身体』(ジェレミー・クラバン監督)
10.『ひつじのショーン UFOフィーバー!』(リチャード・フェラン&ウィル・ベッカー監督)
11.『羅小黒戦記』(MTJJ監督)
12.『レゴ(R)ムービー2』(マイク・ミッチェル監督)
13.『アヴリルの奇妙な世界』(クリスチャン・デスマール&フランク・エキンジ監督)
14.『劇場版ガンダム Gのレコンギスタ I 行け!コア・ファイター』(富野由悠季監督)
15.『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』(ディーン・デュボア監督)
16.『アナと雪の女王2』(クリス・バックジェニファー・リー監督)
17.『名探偵コナン 紺青の拳』(永岡智佳監督)
18.『ディリリとパリの時間旅行』(ミッシェル・オスロ監督)
19.『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(まんきゅう監督)
20.『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(山崎貴&八木竜一&花房真監督)
21.『ロイヤルコーギー レックスの大冒険』(ヴィンセント・ケステルート&ベン・スタッセン監督)
22.『HELLO WORLD』(伊藤智彦監督)

*1:これ系ではギャスパー・ノエの『クライマックス』もよかった

*2:タランティーノの個人的な駄々っ子に他人が文化論的観点から付き合う必要はまったくないと思う


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