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二月に読んでおもしろかった新刊マンガまとめ

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これまでのあらすじ

 なにもかもめんどくさくなっていたが、滝本誠トークショーを聴いてハッピーを得、やる気が出た。

完結情報(不完全版)

『彼方のアストラ』、『ムシヌユン』、『一人交換日記』、『てーきゅう』、『あれよ星屑』、『嘘食い』、『斑丸ケイオス』などが完結*1。『ストレンジ・プラス』、『ディエンビエンフー TRUE END』は次巻で完結。


今月の十選

『あんたさぁ、』(ルネッサンス吉田、単発長編、ビッグコミックスペシャル)



・今月のベスト姉漫画。理解不能な対象としての姉が最高密度で描かれている。姉のコンデンスミルク。
・あとがきで「今回は自分と違う人間を描こうとしたけど、結局自分になってしまった」的なことを述懐していましたけれど、さよう、ルネッサンス吉田先生はずっと同じまんがを繰り返し描きつづけているといえます。そして繰り返すごとに洗練と先鋭の度がましていく。今回はもうガチッガチですわ。ダイヤモンドですわ。強くなければダイヤモンドではない。
・文学作品の引用、過剰で晦渋なモノローグ、不安定な自意識、売春、虐待的近親相姦、絶望的な男性嫌悪と自己嫌悪、希死念慮、相互的な人物観察、主人公が作家などなど要素要素(一言でまとめると非人間感)はこれまでのルネッサンス吉田作品にも頻出してきたものばかりですが、ともすれば暴走しがちだった過去作に比べ、今回はとにかく緩急のコントロールが最上等。ただひたすら読んでいて心地が良いです。
・ただ手をつなぐ、同じ小舟に乗る、それだけでギリギリ生きられてしまうというのは希望のようでもあり、罪なようでもあります。


『いざなうもの』(谷口ジロー、短編集、ビッグコミックスペシャル)

谷口ジローの遺作。最後の最後まで天才だった。
・やはり表題作でしょう。ここまで完璧な「未完の絶筆原稿」は見たことがない。話の佳境でペン入れが途切れ、枯淡な線だけの世界へと切り替わる瞬間に、得も言われぬ開放感をおぼえます。この体験は唯一無二でしょう。本年度のベスト短編候補。



『ヴラド・ドラクラ』1巻(大窪晶与、ハルタコミックス)

・吸血鬼ネタのせいで何かと東西のフィクションで異能をふるわされつづてきたワラキア公ヴラドさんを生身の、一個の歴史上の人物として扱って真っ当な歴史ドラマをやろうという試み。コロンブスの卵だ。
・当時のワラキアにおける複雑怪奇な権力構造(臣下であるはずの貴族が言うことをきかないどころかカジュアルに反乱を起こしてくる)や王権の脆弱さ、不安定な国際関係を権謀術数でハックしつつ力を蓄えていく若きヴラドさんにドキドキします。
・ステージをクリアしていくごとに心強い仲間が増えていくのも王道といった感じ。ハルタはまた良い歴史マンガを産んだようです。
 

『とんがり帽子のアトリエ』3巻(白浜鴎、モーニングコミックス)

・ここまで真摯に「魔法とは何か」について考えた漫画があっただろうか。その問いかけを高度にジュヴナイルと融合させたファンタジーがあっただろうか。


『骸積みのボルテ』1巻(まつだこうた、バーズコミックス)

骸積みのボルテ (1) (バーズコミックス)

骸積みのボルテ (1) (バーズコミックス)

・まつだこうた先生ネヴァーダイ。姉・ケモ・チェビー・サガフロ2シュトヘルが全部盛りにされていて先生の意気込みと好みがうかがえる。
・もともと割りと技巧的なヒトではあったけれど、今回はずばぬけてトリッキーな作劇をしかけていて、今のところ成功している印象。ブレークスルーの可能性を秘めた期待作。


BEAST COMPLEX』(板垣巴留、短編集、少年チャンピオン・コミックス)

・理想的なファンタジーの描き手の条件はなにか。まあ、いくつかあるんでしょうけれども、普遍的な情感によりそいつつも、細部においてはその世界でしかありえない表現や感覚をロジカルに切り取ることができる、というのは個人的には確実にその一つに挙がります。
 板垣(巴)先生にもともとその才覚があることは、『ビースターズ』ですでに証明済みだったわけですが、短編だとさらに際立ちますね。*2
 どの収録作もシンプルでさらりとしたプロットなんですが、たとえば「孤独な男がミステリアスな女性に出会って一夜を共にする」なんて使い古された話がその形式を維持したまま、ちゃんと「被食者の男と捕食者の女」でしかありえない言語表現によって支えられている。
 このセンスですよ。


三ツ星カラーズ』5巻(カツヲ、電撃コミックスNEXT)

・カラーズには過去がない。だから後悔もない。ゆえにうつくしい。
・その人は、チェスタトン読書会のアフターで『三ツ星カラーズ』はチェスタトンであると唱えた。
・きみはKindle時代にはKindle時代の幸福を発見するだろう。途中からいつまでも読みつづけられるような気がしてくるまんが体験もそのひとつで、ページをめくって唐突に奥付が表示されたときの衝撃と喪失感は下手な叙述トリックより世界が反転する。指先で尺を無意識に感覚する紙の時代にはありえない体験だ。
 わからない? 『三ツ星カラーズ』の五巻を読めばわかる。


『一人交換日記』2巻(永田カピ、ビッグコミックスペシャル、完結)

・『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』から続くつらい系エッセイまんがの傑作。永田先生は愛されないすべての人間たちの原罪を背負ったキリストみたいな方です。
・自分を語ることばのチョイスからしてクレバーな人だなというのはわかっていたんですが、そういう人が「周囲のひとをネタにしてまんがを書くことの罪」に気づいて、それに向き合ってしまうのがほんとうにエグい。
・乱高下していく不安定な感情の波をここまで明晰につまびらかに掬い取ってことばに、絵にできるのはすごい。そのセンスを孤独な自身との徹底的な対峙に振ってしまわざるを得ないのは時代が産んだ不幸と申しますか、しかし、おかげでわたしたちはこの名品を読めるわけで、なんとも複雑です。マンガ界はこの人にちゃんとしたまんがを描かせてあげて、つぐなうべき。
・っていうか、巻末でわりに抜けのいいウェルメイドなフィクションも書けるのだなということもわかる。
・『みちくさ日記』とかと並んで売り物にできるギリギリのラインだな……と思っていたら軽々とヤバさのハードルを越えてくるやつが現れた。フィクションですが『アスペルカノジョ』も商業連載化されるようで、時はまさに大メンタルヘルス時代です。


HUNTER×HUNTER』35巻(冨樫義博ジャンプコミックス

・やるぜ新章、行くぜ新大陸ッ! とぶちあげられたときにまさか豪華客船内で疑心暗鬼の王位継承念獣デスゲームがはじまるとは誰が予想したでしょうか。冨樫先生はこの幕間をいつまで続けるつもりでしょうか。先生がご存命中に暗黒大陸へ到達できるのでしょうか。
 疑念は尽きませんが、ただひとつ、べらぼうにおもしろいという事実がすべてを免除するのです。


『スナックバス江』1巻(フォビドゥン澁川、ヤングジャンプコミックス)

スナックバス江 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

スナックバス江 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

・コマ単位でのちゃぶ台返しと集中線芸で読者を幻惑しておいて伏線回収でオチを華麗にしめる、登場人物の面相と意地がきたないまんが。面相は過去作に比べて比較的汚くはなくはある。



オンゴーイング

乙嫁語り』10巻(森薫ハルタコミックス)

乙嫁語り 10巻 (ハルタコミックス)

乙嫁語り 10巻 (ハルタコミックス)

・本筋といえばすべてが本筋なわけですけれど、ようやくといいますか満を持して幹の部分に戻ってきた。あとは横綱相撲ですよ。



あれよ星屑』7巻(山田参助、ビームコミックス、完結)

・おたくはすべての発端が最後に回想される形式に弱い。



『剣姫、咲く』3巻(山高守人、角川コミックス・エース)

剣姫、咲く (3) (角川コミックス・エース)

剣姫、咲く (3) (角川コミックス・エース)

・戸狩のターン。
・あたらしい強キャラが大量投入されるとなんとなく打ち切りのにおいを感じてしまうんですが、大丈夫ですよね? 「剣道マンガは続かない」のジンクスはこれに限ってないですよね? なんとか言ってよ、カドカワ



『僕はまだ野球を知らない』2巻(西餅、モーニングKC)

・「チームメイト同士のぶつかりあい」は高校野球ものでよく描かれるイベントですが、西餅先生に手になると、かくも理知的でさわやかに。このすがすがしさをミス・ブレナンは好ましくおもいます。



金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』2巻(船津紳平、週刊少年マガジンコミックス)

・ついに禁断の『悲恋湖』へ……。
・犯人と探偵の手に汗握るコミュニケーション、という点では前にも言ったかもだけど、倒叙の快楽に通じるところがある。



Dr.STONE』4巻(原作・稲垣理一郎、漫画・Boichiジャンプコミックス

・トーナメントがはじまりました。ジャンプだなあ。
・目先のクエストを明確に立てつつ、同時にマクロな対立構図も盛り上げていく腕力はあきらかにジャンプ五十年の歴史によって培われたものの反映であり、大手の強さをこういうところで実感する。



『いのまま』(オカヤイヅミ、芳文社コミックス、エッセイ集)

いのまま (芳文社コミックス)

いのまま (芳文社コミックス)

・エッセイ要素と料理要素を塩梅してまんがにするのが抜群にうまい。正道な食エッセイまんがのようでいて、このレベルで達成できている作品のなんと稀有なことか。



銀河英雄伝説』9巻(原作・田中芳樹、漫画・藤崎竜ヤングジャンプコミックス)

・アムリッツァ星域会戦。
・「正史」で無能バカとされたひとたちの再評価が目立つコミカライズですが、フォークはフォークでした。まあ変えようがないし、変えたら複雑になりすぎるし。



『BEASTERS』7巻(板垣巴留少年チャンピオン・コミックス)

・イケメン新入部員はともかく、ここで警備員役にメスのヘビを投入できるクソ度胸がすごい。



『決闘裁判』2巻(宮下裕樹ヤングマガジンコミックス)

・一癖ある系の悪役キャラが出てきましたが、彼の仕掛けた悪事の「事実はここまでこいつの仕業でした」の開示がテンポ含めて完璧。明かされるごとにやばさが増幅していく感覚。キャラ造形のうまさとは、こういうものですね。



『はじめアルゴリズム』2巻(笠原和人、モーニングコミックス)

・ライバルと挫折者が出てくるとやはりまんがとしての熱量が格段に上がります。



ストレンジ・プラス』19巻(美川べるのゼロサムコミックス)

・定番ネタをこなしつつもチャレンジすることを諦めない美川べるの先生の姿勢には進化の袋小路に立たされた人類として見習うべきところがあります。いや、みかべる先生も人類ですが。
・しかし次巻で完結するっていっても初期のシリアス伏線とかもうほとんどなかったことにされてるし……



『彼方のアストラ』5巻(篠原健太ジャンプコミックス、完結)

・シンプルかつ古典的なSFのアイディアにキャラ個別のストーリーを巧みにからめる。伏線とは物語をなめらかにするためにあるのだと教えられます。


『ナポレオン〜覇道進撃〜』14巻(長谷川哲也ヤングキングコミックス)

・ロシア地獄のはじまりはじまり
・これまでは噛み合わなくてもなんとかなっていた歯車が、いよいよ噛み合わなくてダメになるばかりで、英雄や組織が崩壊するときとはこういうものかというダイナミズム。



『蟇の血』(近藤ようこ、ビームコミックス、単発長編)

蟇の血 (ビームコミックス)

蟇の血 (ビームコミックス)

田中貢太郎の同名ホラー小説の漫画家。惚れた女を取り戻すためによくわからんけど怖い屋敷に突入する学生の話。
・最近の近藤ようこってそういう、オルフェウス的というか、冥界下り的な話が多い気がする。昔からか?



ハクメイとミコチ』6巻(樫木祐人ハルタコミックス)

・出たの1月ですね。もう月にこだわるのはやめます。年内に出ればすべて新刊だ。
・キャラの種を十分播いて育てたのであとは収穫するだけモードに入りました。強い。これが強い。
・38話のファッションショー回のラストページのフィニッシング・ストローク。40話のアナグマ姉弟回の関係性。



ディエンビエンフー TRUE END』2巻(西島大介、アクションコミックス)

・ティムとはなんだったのか。
・3巻でたたまなきゃいけないとはいえ、この虚ろなあっけなさばかり目立つスピード感はどうなんだろう、と思いますが、ページ単位では(特にアクションシーンは)最高なままなのでおもしろかった枠です。


可能性を感じる第一巻

『どるから』1巻(原作・石井和義、漫画・ハナムラ、バンブーコミックス)

どるから (1) (バンブーコミックス)

どるから (1) (バンブーコミックス)

・2月のダークホース。
石井和義元受刑者が釈放直後にトラックに轢かれて死亡。同時期に自殺した空手女子高生の身体に転生し、傾いた道場の経営を立て直していくお話。
・石井式格闘技ジム経営術(そりゃ知りたい人はには便利だろうけど……)で経済的に無双していく展開……かとおもいきや、途中から「半端な実力でプロ格闘家になってしまった人間のリアル」が描かれてそれがすごいエモい。そいつの心を石井館長 in 高校生がへし折る瞬間の演出も決まってる。



ひねもすのたり日記』1巻(ちばてつやビッグコミックスペシャル)

ちばてつやの回想録的なやつ。ちばてつやは回想録をわりと出してる作家のようなので、満州脱出の凄絶さやら全盛期にヤバいクスリを打ちながら仕事してたエピソードやら手塚治虫の死がきっかけで立ち上げられたゴルフ会やらはファンにはおなじみなんでしょうか、わたしは初耳なので新鮮でした。
・雰囲気的には水木しげるが亡くなる直前に描いていたエッセイまんがと重なりますね(水木しげるの訃報が入ったときの話もある)。功成り名遂げた大作家がひょうひょうと日々と過去を受け流しながら、卓抜した漫画力でさらりと語っていきます。すごみがある。



『トマトイプーのリコピン』1巻(大石浩二ジャンプコミックス

・サンリオ風のタッチでエグいギャグをやる。それはただの『ジュエルペット』では、だとか、『おねがいマイメロディ』では、だとかいうものいいは一切受け付けません。まあ実際方向性が違う。
・時事ネタの取り込み方に頭一つ抜けた手管を感じる
・一話を試し読みで読んだときはそんなでもなかったんですけど、単行本でまとめて読んでみるとなかなか。天丼も十回やればおもしろくなるんで継続は大事だなと思います。



『バカレイドッグス』1巻(原作・矢木純、漫画・青木優、ヤンマガKCスペシャル)

バカレイドッグス(1) (ヤングマガジンコミックス)

バカレイドッグス(1) (ヤングマガジンコミックス)

・裏社会でワケアリの患者たちをサスペンスフルに手術して助ける闇医者兄弟の話。巻数単位での構成がわりとスマートで、「『主人公イズいい人』なわけじゃないですよー」で落としてダークさを演出した直後に似たような展開を振ってさらにひとひねりを加え、読者を翻弄します。とはいっても、医者兄弟を完全な悪漢には振れない空気ができあがってしまったので、ここからどう攻めるのか。



『GREAT OLD 〜ドラゴンの作り方』1巻(伊科田海、少年チャンピオン・コミックス)

・いわゆる魔法学校もの的な展開をにおわしておいてか〜ら〜の〜?
秋田書店じるしといいますか、全体的に大振り気味なのが不安の種ですが、次巻が気になる漫画であることはまちがいありません。

*1:腐女子のつづ井さん』や『月曜日の友だち』もだけど、Kindle版は来月配信なのでカウントしない

*2:ビースターズ』の購買にたまごを売っているめんどりの話みたいな


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