逐語訳でも完訳でもない。
原文:http://www.slashfilm.com/zootopia-writers-interview/
インタビュイー:
ジャレド・ブッシュ(共同監督、ストーリー、脚本)
フィル・ジョンストン(ストーリー、脚本)
クラーク・スペンサー(プロデューサー)
インタビュアー:
ピーター・サイレッタ
――制作過程について伺いたいです。といっても、これまで他のインタビューで似たような質問を訊かれて、同じ答えを何度も繰り返してこられたのでしょうけれど……
ブッシュ: いや、今回は新しい答えを用意してるよ!
――(笑)是非おねがいします。冗談はさておき、企画がどうのような経緯で練られていったのか非常に興味があります。どういった感じで立ち上げられたのでしょう? また、どういう風に発展していったのでしょう?
ブッシュ: 一番初めは監督のバイロンのアイディアだった。バイロンは動物映画が――しゃべる動物の出てくる映画が大好きでね。特に『ロビン・フッド』。
バイロンは最初から動物の世界に住むキツネとウサギのキャラクターを出そうと考えていた。
僕が企画に参加したときは、スパイ映画になる予定だった。最初の十分間は哺乳類たちの世界で展開して、やがて舞台がいろんなイカれたことが起こる南国の島へと移る。そこから、もっとスパイ映画色が強まっていく。
――つまり、最初の構想にズートピアという街は入っていなかったわけですね。
ブッシュ:そういうことだね。
ところが、僕が参加した初日にバイロンのもとへ意見を聞きに行くと「スパイ映画はもうやめだ」と言われた。
「じゃあ、どういう映画にするんです?」と僕は彼に尋ねた。
「僕にもまだよくわからない。たぶんキツネとウサギが出てきて、ある街に行くんだよ」と返ってきた。
――スパイ映画のほうにはキツネとウサギは出てこなかったわけですか?
ブッシュ:そうだね。かなり違うタイプの話になる予定だった。謎解きミステリーという枠組みを、次の物語にも残すつもりだった。
プロジェクトが進行するにつれて、キツネを主人公にしてウサギを対置させる形で置こうと決めた。
キツネの背景となるバックストーリーを色んなバージョンで書いた。今の『ズートピア』とはかなり違うバックストーリーをね。
しかし、物語とは、その映画が何を観客に伝えたいかにかかってくる。
僕たちは「動物たちは互いに先入観を抱いている」というアイディアを中心に据えて、それを軸にすべてを肉付けしていった。
――私がこの映画で好きな要素の一つに世界観があります。まるで本当に存在するかのように感じられるし、行ってみたいとも思わせられる。
どういった経緯でズートピアという街が設定されたのでしょうか?
世界観から作り上げたのか、キャラクター先行だったのか、ストーリー先行だったのか……?
ブッシュ:
この映画は他のとはちょっと異なるやり方でできている。
僕らはまず何ヶ月もかけて膨大な量のリサーチを行った。
世界観を構築するまでの間、とりあえずストーリーを考えるのはやめておいたんだ。
世界観さえ出来上がれば、自然と物語も湧いてくる。
リサーチを通して、地球上の90%の動物は被捕食者だと知った。被捕食者と捕食者で9:1なんだ。興味深い比率だ。
次に動物たちがどのようにしてお互い関り合いを持っているのかということを追求しだした。リサーチが物語を大きく動かしたんだ。
この段階で”ロビン・フッド”を降ろして別のキャラを主人公に据えることにした。シニカルで毒舌なキツネよりも、チャーミングな皮肉屋でかつ皆に好かれそうなキャラが世界観に相応しそうだったからね。
そして、ウサギならもうちょっと前向きなキャラで行けるんじゃないかということになった。主人公の変更が決まったあとでも、リサーチによってだいぶキャラに変更が加えられたけどね。
スペンサー:リサーチが終わると、街がどういう外観をしているのか、ストーリーはどうなるべきなのか、動物たちをどうやって作り上げればよいのか、どういう技術が必要なのか等々の多種多様な問題が一斉に吹き上がった。
そうして、ストーリーを作り始めると実際に必要なこと――どんなキャラクターやどんなタイプの動物が物語に必要かわかってきたんだ。
ジョンストン:個人的に言わせてもらえば、物語先行でキャラクターを動かすのは難しいことだと思うね。
いったんそのキャラクターについて知ってしまえば、特定の状況下でどういう態度をとり、どういう反応を返すか容易に想像できる。出来合いのプロットをキャラに押し付けるのは破滅への第一歩だよ。
だから僕はまずキャラクターを固めることにした。彼らがどういう欠点を抱えて、どういう乗り越えるべき障害を持っているのかを考えて、それらをできるだけ彼らにとってハードなものにした。
――本作はとてもクレバーに構築されています。すべてのキャラクターに細部があり、すべての背景にも細部があり、多くの引用やオマージュが織りこんである。
そこでなんですが、30回観るまで気づかないような隠しネタについてお聞かせ願えませんか。
ジョンストン:イースターエッグであれ、映画のテーマであれ、あんまり観客の思考を誘導するようなことは言いたくないんだけどね……。
まあ、隠しギャグはとにかく大量に仕込んでるよ。
ブッシュ:
この作品に関わるスタッフはどの部署の人間であろうと、よってたかってネタを仕込みたがる。共同監督として、そういう行為を許していいのかって?
まあ許容したほうが士気は上がるよね。
どんな場面であれ、映画をいったん停止させて眺めてみれば、脚本にないジョークが十個は見つかるはずだ。
スタッフのテンションが上がりまくった結果さ。
スペンサー:
スタッフには彼らの「持ち分」がある。
たとえば、劇中登場する看板なんかは脚本家や監督から口を出していない。だからこそ面白いんだ。
もちろん、“プレイダ”や”ベアーバリー”といった看板を作る上では法務部を通しているがね。
こういうネタはあまりにささやかなので、一回観ただけじゃわからないかもしれない。これみよがしなジョークではないからね。
二回、三回、あるいは四回観ないと見つけられないはずだ。もう何百回と観てるはずの僕らですらスタッフの「サイン」を全部発見できているか自信ないよ。
そういうものがあるというのは、愉しいことだよね。
僕達が背の高いキャラに注意を惹かれているあいだ、そのキャラの足元ではネズミが「(パソコンの)マウス・ショップ」の前に立っている。そういう、物語を決定づけないような小さなピースをチームの間で「愉しいこと」として共有するんだ。
ズートピアの世界は、僕らがキャラたちと一緒に愉しむ遊び場なんだよ。
ジョンストン:
請けあってもいい。まだ映画の中に僕らが見つけてないものがまだ残っているはずだ。
ブッシュ:そうだね。
――あなた方が生み出した膨大なアイディアのになかには、ストーリーや世界観にそぐわないという理由で切り捨てられたものもあると聞きます。そうしたアイディアのなかで、自分が入れたかったのに外されてしまったものはありますか?
[ブッシュとスペンサーがジョンストンを見る]
ジョンストン:何? 僕の「お尻ジョーク」のこと?
ブッシュ:まあね。
ジョンストン:「お尻ジョーク」ね。トレーニング・キャンプでジュディが障害物の壁を乗り越えようとして失敗し、落ちてしまう。その落下先にフリードキンという警官が居合わせていて、落下してきたジュディにぶつかって地面の氷に穴をあけてしまう。
僕らはこのアイディアについて三時間費やして議論したよ。
[インタビュアー笑う]
ブッシュ:使わなかった場所もいっぱいあったな。もともとニックは「ワイルド・タイムズ」という名の遊興場を経営している設定だったんだ。動物たちが動物に回帰できる場所さ。捕食者が被捕食者のコスプレをした別の捕食者をおいかけて遊んだりできる。*1
そうやってストレスを解消するわけ。「ワイルド・タイムズ」にはニック考案の安っぽくて楽しげな遊び道具がたくさん設置されていて、まるでカーニバルみたいだった。
大好きな設定だったんだけど、主軸がジュディの物語にシフトしていくにつれて不要になっていってしまった。
スペンサー:制作していくうえでツラいのは、こうした面白そうな場所を映画に出すのを諦めなければならないことだ。
ツンドラタウンやサハラスクウェアやバニーバローといった場所を実際に出すと決まっても、ちゃんと物語に沿った形で利用しなきゃいけない。
特定のエリアに五分使いましょう、というのは簡単だ。しかし、たとえそのエリアを探検するのが楽しかったとしても、そのことでストーリーの焦点がずれてしまう恐れがある。
どんなに魅力的な世界を構築したとしても、ストーリーを語るに正しい滞在時間のバランスを見つけないことには意味がないんだ。
――もし続編が作られるとしたら、今回出なかった場所を訪れる機会も持てるでしょうか?
スペンサー:今回カットされたシーンやモノはアートブックやDVDに収録されるはずだ。繰り返すけれど、物語が進行する以上、アイディアが切り捨てられていくのも必然なんだ。
ブッシュ:僕の家の壁には使われなかったアイディアを書いた紙がたくさんピンで貼り付けてあるよ。毎晩、二時間くらいその壁を眺めてる。
――本日はありがとうございました。
*1:http://www.matthiaslechner.com/zootopia.html で「ワイルド・タイムズ」がどういう施設だったか、どんな遊び道具があったかを確認できる