イヌを愛する者には誰でも大きな力を授けられるというのは本当だ。――イロコイ族の言い伝え*1
ンフ〜ン〜〜〜♪ メディックァ〜♪ ンフ〜(『ANUBIS: Zone of the Enders』のOPで流れる例の曲)*2
ヴィデオゲームにおける傑作の条件とは……なにか?
感動的なストーリー? 魅力的なキャラクター? 壮大な世界観? 深く没入させるナラティブ? ユニークで革新的なゲームメカニクス? 無限に遊べるリプレイ性? MODの受け入れによる自由な拡張可能性? metacritic の点数? 息を呑むようなリアリティ? 現実よりも美麗なグラフィック? 快楽? クリックにより、あるいは課金によって得られる絶大な快楽?
いいえ、これらはどれも私たちをゲームにのめりこませてくれはするものの、”傑作”を”傑作”にはしません。
傑作ゲームに必要な美はただひとつ。
犬を撫でられること。
では、参りましょう。
2020年の YCPTDGOTY("You Can Pet the Dog” Game of The Year=年間犬撫でゲーム大賞)のノミネート作の発表です。
ちなみにこの場合の「犬」はネコや人食い大鷲などのあらゆる動物を含みます。なぜ含むかの理解については高度で複雑な専門知識を要するので、あなたがたは含むものとしてだけ了解してください。よろしいか?
- Life is Strange 2(イヌ)
- Final Fantasy VII REMAKE(イヌ)
- Ghost of Tsushima(キツネ)
- Hades(イヌ)
- 天穂のサクナヒメ(イヌ・ネコ)
- Evan's Remains(イヌ)
- アンリアルライフ(イヌ)
- Headliner: novinews(イヌ)
- Cyberpunk 2077(ネコ)
- Yes, Your Grace(ネコ)
- Ikenfell(ネコ)
- if found.....(イヌ)
- Anodyne 2(イヌ)
- Spelunky 2(イヌ)
- 大賞作品発表
Life is Strange 2(イヌ)
まず2020年の上半期でイヌパクト*3を残したのが、今やADVの大メジャーブランドとして君臨する『Life is Strange 2』です。
ある不幸な出来事から生まれ育ったシアトルを離れ、警察に追われながらも父親の故郷であるメキシコを目指すことになった年若の兄弟。そのふたりに守護天使のようについてくるのが元捨て犬の忠犬マッシュルーム*4です。
つぎつぎと困難と悪意に見舞われ、精神をすり減らしていく兄弟やプレイヤーにとり、純真なマッシュルームは心のオアシスとなっていきます。
当該の犬撫でシーンは山奥の廃屋に住み着くくだりで、それまで撫でさせてくれなかったマッシュルームを撫でられる感動的な場面です。
ちなみに、このゲームのテーマのひとつに「イノセンスの喪失」がありまして……あとはわかりますね。多くは語るまい。
捨て犬(ストレイドッグ)に放浪する家なき子のイメージを重ねる、古典的ながらも確実にプレイヤーのハートを掴む犬ストーリーテリングですね。トクトク情報としては、ゲーム終盤でもう一箇所犬撫でできるポイントがあります。
Final Fantasy VII REMAKE(イヌ)
バナナのナナキはバナナナキ。バナナのナナキはまたのナをナナキ。
たぶん、REMAKEオリジナルかな? 宝条の研究施設から解き放たれた謎の犬(いったいナナ何なんだ……?)が暴走してクラウド一行に襲いかかる!!!! とおもいきや、エアリスが「こわくない、こわくない」とナウシカ力、もとい古代種パワーを発揮してやんちゃドッグを鎮めます。
この際の完全に""""""""堕ちた"""""""ワンちゃんの表情は必見。是非ムーヴィーでご覧になってください。声がミュウツー(市村正親)です。
Part 2 ではコスモキャニオンまで行くのかな? 今後の活躍にも期待したい。
ちなみにFF7Rではネコを撫でることも……?
Ghost of Tsushima(キツネ)
『ゴースト・オブ・ツシマ』では「稲荷の祠」という隠しプレイスにお参りするとイイコトがありまして、その祠に案内してくれるのがこのおキツネさま。もっとも、参拝によるゲーム上のメリットなど我々誇りある真の侍には微々たるもの。もっとも大事な誉とは、参拝ごとに案内してくれたキツネを撫でられるようになること、これに尽きもうす。
本作を制作したのは海外のディベロッパーですが、ゲイシャスキヤキニンジャな日本描写と一線を画した日本の文化や風物に対するリスペクトはただごとではありませんで、もちろん2000年の伝統を持つジャパニーズ・イヌナデ・カルチャーもきちっと抑えております。
稲荷のキツネは神の遣いなので、エキノコックスの心配もいりません。私たちのデジタルディスタンスはかぎりなくゼロに近い。キューンと鳴いてかわいいね。撫でたあとにどこぞへと立ち去るモーションも最高です。浜で死んだ誉もこれで全快でござる。ござる、って誰もいうてへん。おまえの仁とやらは誉ではなく、キツネをおいかけておるぞ。しょうがないよね、志村殿。
Hades(イヌ)
犬撫で数千年の歴史といえばギリシャ神話も忘れてはいけません。
Hades では奈落の王子に身をやつし、地獄の定番犬*5ケロちゃんことケルベロスを撫でまくれます。good boy です。
Hades はいわゆるローグライトなアクションゲームで、死ぬごとに奈落の我が家にリスポンし、そのたびにケロちゃんが出迎えてくれます。いいこですね。このこに会えると思えば、死ぬのも辛くなくなる。『キングダム・ハーツ』も見習え。
デカい、赤い、頭が三つ、と三拍子揃った最強の撫でられ犬です。え? 違います。Helltaker ではありません。
天穂のサクナヒメ(イヌ・ネコ)
ギリシャ神話? いやいや、神✕犬といえば2020年はやはり『天穂のサクナヒメ』でしょう!
犬撫で要素ブームはいいにしても、一方で「撫でれればいいんだろ?」と申し訳程度に犬撫で要素を付加した雑なゲームも多く生まれているのはかなしいことです。
そんな風潮のなかでガチで犬を愛し、犬撫でを作り込んだ犬撫でシミュレーターこそが『サクナヒメ』なのです。
このふわふわ感、モーションのバリエーション、犬の表情、だっこ……そして、我々犬撫でラーは日頃見落としがちですが、”犬を撫でる側”であるサクナのリアクションにもきちんと注意が払われており、犬撫でとは犬とヒト(サクナは神ですが)とのコミュニケーションである、という基本中の基本がクリアに示されていて、目から籾殻が溢れ出すおもいです。やはり神話に学ぶべきことは多い……。
ちなみに犬は増やすことができて、増えるとゲーム上でちょっとしたメリットが得られます。
いい犬撫でゲームの犬は撫でられて、作り込まれてはいるものの主張しすぎず、かつちょっとオトク……まさにトライフォースの栄養素を備えた堆肥のようなものです。あれ? トライフォース農法ってやっちゃダメなんだっけ?
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ザ・趣。
あと、サクナヒメではネコも抱っこできますが、私のセーブデータはそこにたどり着く前にぶっ壊れて消えました。
アンリアルライフ(イヌ)
『アンリアルライフ』では犬をなでることが……?
できない……?
やっぱりできました〜〜〜!!!!!!ハイ、勝ち〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
いったん拒んでおいてやっぱり撫でさせてくれる、というプロセスは最近の犬撫でゲームのトレンドなのでしょうか。
ところで『アンリアルライフ』で注目すべきは、犬が喋るところ。
喋る犬を撫でられるゲームは希少です。喋る犬は一般にプライドが高い傾向にあり、気軽に撫でられは……おい! ナナキ! その女誰よ!? デレデレするんじゃない!!!!!!!
ちなみに本作は犬をなでるだけではなくて、犬笛で犬を画面の端から端まで走り回せてハンドラー気分を味わうこともできます。私の良心は「犬は謎解きの道具じゃない!」と叫びますが、まあ冒険が挑戦を連れてくることもあるでしょう。
Headliner: novinews(イヌ)
そもさん――ディストピアといえば?
そう、犬ですね。(rf. 『リベリオン』)
新聞社の編集長としての採用記事の判断が一国の運命を左右する『ヘッドライナー:ノヴィ・ニュース』にも、もちろん犬は出てきます。
スポンサーや新聞社上層部からの圧力と、現場の記者からの突き上げとのあいだで板挟みになり、病んでいく主人公を唯一温かく出迎えてくれる存在がこの犬(ビーグルかな?)です。無駄だとわかりながらも仕事の悩みを犬に吐き出すのが妙なリアリティがあってイヤですね。
ちなみに飛行ドローンも飼えますが、こちらは撫でられません。
Cyberpunk 2077(ネコ)
『サイバーパンク2077』をプレイした犬撫でラーたちは悲嘆に暮れました。
バグが多かったせいではありません。
ナイト・シティには犬や猫が存在しなかったからです!
いちおう、街中に生物がいないのは設定らしい設定がなされていて、だからこそたまに現れる鳥がエモーショナルなアクセントを効かせているわけですが、撫でられる犬や猫がいないのでは2077年はまるでソウルレスで生きている実感が得られない時代なんだな。
しかし信じるものは救われる。犬撫での神は我々を見捨てませんでした。
プレイ時間が数十時間を超えようかというころ、そう、現れたのです! 猫が!
この猫はとあるメインミッションの最中に登場するのですが*6、この時点では遠くにあり撫でられません。
が、最終盤になると……?
割と後半の方に出てくるくせにゲーム中では結構イメージ的に重要なところをかっさらっていくのが心憎い。さすが猫。
ちなみに私はこの猫はゲーム中で死亡する*7あるキャラの生まれ変わりという説をとっています。
Ikenfell(ネコ)
犬(猫)撫でゲームの永遠の課題。それは、「撫でる行為に必然性をどうもたせるか?」ということ。
撫でたくて撫でる純粋さにこそ聖性が宿るのだ、そこに疑問をいだいてはならない、と主張する原理主義者もいるものの、やはりヴィデオゲームとは行為の経済を考える科学です。犬撫でがあれば嬉しいし、そこに必然があればなお嬉しい。
Ikenfell はそうした”犬撫でゲームのジレンマ”を解決した、犬撫でゲーム界のグレゴリー・ペレルマンです。
Ikenfell ではRPGと不可分なあるシステムを猫撫でに組み込みました。
それは”セーブ”。
そう、本作では猫を撫でてセーブを行うのです!
しかも、HPの全回復までやってくれる!
Ikenfell の革新は単に猫撫でに合理性を与えたのみに留まりません。
考えてみてください。
私たちが現実で猫を撫でているとき、どのような効果が生じていると思いますか?
なんとなく、体と心が回復しているような気になっていませんか?
なんとなく、雲の上に自分のたましいが保存されているような気分になっていませんか?
なんとなれば、私たちは猫を撫でるといつもセーブと回復を行っていたのです。
Ikenfell は現実をゲームに転写したにすぎない。
如何様、Ikenfell はゲーム内で猫撫で行為の効用を定義することで、現実における猫撫でをも遡及的に定義したのです。ゲームが私たちの肌感覚をやっと言語化し、認知させてくれたのです。オキシトシンってこのことだったんですね。
なんとなにもかもがしっくりくるのでしょう。
これこそ、革新です。
if found.....(イヌ)
Ikenfell はジェンダーマイノリティの要素を取り入れつつもそれを社会問題とは接続しないファンタジーでありましたが、if found... はパブリッシャーをアンナプルナがつとめているだけあって、逆にモロに社会や世間とがっぷりよっつでぶつかるファンタジーADVです。
世界に受け入れてもらえない孤独のたましいを救うのは、やはり、犬。
Anodyne 2(イヌ)
犬……犬カナー、コレ?
犬だと思います。犬でしょう。
こういうゲームです。PS1時代を彷彿とさせるわがままさを発揮していて、おもしろいですよ。
大賞作品発表
以上のノミニーから2020年度のYCPTDGOTYに選ばれたのは…………………
"IKENFELL"!
おめでとうございます。
犬撫でではなく猫撫でというハンデを負いながらも*9、Pet the Dog 要素の哲学に切り込んだ新規性が評価されました。
同時に、国産犬撫でゲームを顕彰する「クール・ドッグ・ジャパンで賞」は『天穂のサクナヒメ』に与えられます。こちらもおめでとうございます。
もちろん、今回ご紹介できた犬撫でゲームはほんのひとにぎりです。有名所では Last of us Part II なんかも犬を撫でられたらしいですが、わたしはやってないのでカバーできておりません。TIMELIE とか Spiritfarer とかもまだ数十分しかできてないし。
犬撫でゲームの最新情報を知りたい向きは、"Can You Pet the Dog?"をフォローするといいんじゃないでしょうか。洪水のように犬撫でゲーム情報が流れてきます。今回触れたゲームも触れてないゲームもすべてここにあります。あら、この記事の存在意義が一瞬で消えましたね。たようなら、たようなら。永遠に無のバイトだけをネットに吐き出していたいな。
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では、また来年。来年? たぶん、やらない。
ゲーム的リアリズムを取り入れた犬死にループ映画。