雑なあらすじとわたし
余人には内緒だが、映画における雑なあらすじ探しを日々の暇つぶしにしている。wikipediaに載ってるようなあらすじもたいがい雑なのが多いが、金が絡んでるはずのところでも案外手を抜いてたりする。今日も iTunesでこんな雑なあらすじを見つけた。
いくらなんでもなげやりすぎる。
『新しい夫婦の作り方』(Digging For Fire)はジョー・スワンバーグ監督の最新作で、スワンバーグは2013年の『ドリンキング・バディーズ』(Drinking Buddies)以降、2014年の『ハッピー・クリスマス』(Happy Christmas)*1、そして2015年の本作とこのところ立て続けに紹介され、昨年には『ハンナだけど、生きていく!』(Hannah Takes the Stairs, 2007)がスワンバーグ作品として初の劇場公開と、これまでのマンブルコア勢の扱いからしてみれば異例ともいえる厚遇を享受している。
マンブルコアとはなにか
マンブルコアといった。ジョー・スワンバーグはマンブルコアに属する作家の代表格とみなされている。属すると言われても所属先自体よくわからない。マンブルコアとはなにか。
そこらへんは本邦におけるマンブルコアの第一人者である山崎まどか先生の説明に詳しい。
マンブルコア、口ごもる新世代インディ映画作家たち | Romantic au go! go!
『ハンナだけど、生きていく!』とは?“マンブルコア”とは何か? – IndieTokyo
基本的には同じようなデジカメでかつ低予算で、誰の力も借りずに映画を作っている。つまりお金がないのでみんなで協力しあって、その横の連帯があって「マンブルコア」が確立してきたと。ですので、志を同じくして集まったという訳ではないんです。それに関して、マーク・デュプラスは面白いことを言っています。「インディー映画における中産階級の死」と。中規模のインディー映画はもはや作れなくなってしまったのだと。少し前であればインディー映画はサンダンス映画祭とかでそれなりの俳優を集めて上映をされて、大手の配給会社に注目されて、それで日本にも入ってきたんですけど、そうした流れが途絶えてしまった。そのため、マンブルコアは入ってこなくなった。完全な自主制作・自主配給。正確には、配給ということはほとんどされていません。
要するにここ十数年のあいだに出てきた自主制作のムーブメントであるらしい。
まあ、ググれば一ページぶんくらいの記事はヒットします。
wikipediaにも去年項目が立ち上がっていた。
マンブルコア - Wikipedia
見た感じ、二、三作品しか訳されていないように思われそうだが、上述のとおりスワンバーグだけで四作品も紹介済みだ。情報が古い。この一、二年でマンブルコア作品はだれも知らない間に日本へじわじわ進出しつつある。誰も知らないままに事態が進行しているので、ほとんど顧みられていないのが悲しいところではある。かくいう僕も『ドリンキング・バディーズ』とか『Computer Chess』とか買ったまま積んであるのでまるで観ていない。
ちなみにマンブルコアの派生としてホラージャンルのマンブルゴアというのがあるらしい。こうなると言ったもん勝ちな世界な気がしなくもない。ホラーとか低予算でゴニョゴニョ聞き取りづらいのばっかだろ。
というわけで、リスト作成もまた趣味であるのによって、現在日本でソフト化済みのマンブルコア(作家)作品リストを監督中心の視点でアップデートしてみた。 *2
参考:Mumblecore - Wikipedia, the free encyclopedia
マンブルコア
アンドリュー・バジャルスキー(Andrew Bujalski)
・通称「マンブルコア界のゴッドファーザー」*3
『成果』(Results, 2015)*Netflix で独自配信。
ジョー・スワンバーグ(Joe Swanberg)
・日本で一番紹介されているマンブルコア作家。ラブな話が中心の人。弟のクリスもマンブルコア作家。
『ハンナだけど、生きていく!』(Hannah takes Stairs、2007)*未ソフト化、劇場公開のみ
『ドリンキング・バディーズ』(Drinking Buddies、2013)
『ハッピー・クリスマス』(Happy Christmas、2014)
『新しい夫婦の作り方』(Digging For Fire、2015)
デュプラス兄弟(Mark & Jay Duplass)
・出身こそマンブルコアながら、最近はリドリー・スコットやジェイソン・ライトマンのヒキで比較的大きめの製作・配給会社(それでも予算数百万ドルでフォックス・サーチライトとかだけど)で作品を撮っているコメディ畑の兄弟監督。俳優としても『ゼロ・ダーク・サーティ』などに出演。出世頭の地位を利用してマンブルコアっぽいインディペンデンス映画のプロデュースもてがける。ハンナ・フィデルの『六年愛』とか、コリン・トレヴォロウ*4の『彼女はパートタイム・トラベラー』とか。
『僕の大切な人と、そのクソガキ』(Cyrus, 2010)
『ハッピーニートおちこぼれ兄弟の小さな奇跡』(Jeff, Who Lives at Home、2011)
エヴァン・グローデル(Evan Glodel)
『ベルフラワー』(Bellflower、2011)
ノア・バームバック(Noah Baumbach)
・もともとウェス・アンダーソン・ギャングの一員だったバームバックがマンブルコアなんてものに巻き込まれたのは、「マンブルコアのミューズ」グレタ・ガーウィグに惚れてしまったから。グレタと共同監督するまでの仲だったジョー・スワンバーグから彼女を強奪(多分)し、グレタイズム溢れる『フランシス・ハ』を撮り上げてしまった。
『フランシス・ハ』(Francis Ha、2012)
アレックス・ホルドリッジ(Alex Holdridge)
・日本へ比較的早い時期に紹介されたマンブルコア作家。
『ミッドナイトキスをする前に』(In Search of a Midnight Kiss、2007)
リン・シェルトン(Lynn Shelton)
・『マッド・メン』や『New Girl』といったドラマの監督回も日本に輸入されているといえばされている。
『ラブ・トライアングル』(Your Sister's Sister、2011)
ブラッドリー・ラスト・グレイ(Bradley Rust Gray)
・リストに載ってるのはゾーイ・カザン主演の『エクスプローディング・ガール』のみ
『エクスプローディング・ガール』(The Exploding Girl、2009)*東京フィルメックスでの上映のみ
備考
・「マンブルコアのテレンス・マリック」とアダ名されているアーロン・カッツは wikipediaのマンブルコアリスト記載作品の紹介はないものの、同じくマンブルコア一派であるマーサ・スティーヴンスと共同監督した2014年の『ミッチとコリン 友情のランド・ホー!』(Land Ho!)がソフト化されている。
・ジョシュアとベンのサフディ兄弟は2015年に『神様なんかくそくらえ』が東京国際映画祭でグランプリを獲得し、日本でも劇場公開された。
・Medicine for Melancholy をてがけたバリー・ジェンキンスはブラッド・ピットの製作会社である Plan B や『エクスマキナ』で高い評価を得たA24などと組んで『Moonlight』という作品に着手する模様。A24 Teams Up With Plan B to Produce Barry Jenkins’ ‘Moonlight’ | Deadline
・『Girls』などのレナ・ダラムも長編監督作の『Tiny Furniture』がリスト入り。俳優としてもタイ・ウエスト作品やジョー・スワンバーグ作品に出演している。
・The Color Wheel などのアレックス・ロス・ペリーは実写版『くまのプーさん』やクローネンバーグ監督予定のドン・デリーロ原作『The Names』の脚本を担当する予定。監督作も軒並み高評価を受ける、今アメリカで最もアツい若手映画人の一人。
・日本語版 wikipediaではデイヴィッド・ゴードン・グリーンの All the Real Girl もマンブルコアとされているようだけれどなんでだろう。俳優陣もマンブってないのに。いちおう彼はアーロン・カッツの『ランド・ホー!』のエグゼクティブ・プロデューサーでもあるけれども。
マンブルゴア枠
wikipediaのリストを観るかぎり、アダム・ウィンガード以後の米英インディペンデント・ホラー界のよさげなやつらを(「マンブルコア」がバズワード化したのをいいことに)片っ端からほうりこんでみました、って感じなのでどこまで信頼できるか。ただ、ウィンガードやタイ・ウエストあたりはマンブルコアとモロに交流あるし、スワンバーグやデュプラス兄弟もホラーをよく撮ってたりする。
アダム・ウィンガード(Adam Wingard)
・いまや押しもオサレもせぬインディペンデント・ホラーの若手ナンバーワン。一時期スワンバーグとツルんでいたらしく、彼と共同監督作品を撮ったり、『ビューティフル・ダイ』に出演させたりしていた。wikipediaでマンブルコア扱いされているのはそのせいなのか*5
『ビューティフル・ダイ』(A Horrible Way To Die、2010)
『サプライズ』(You're Next、2011)
『ザ・ゲスト』(The Guest、2014)
タイ・ウエスト(Ti West)
・マンブルコアとマンブルゴアの結節点。ウィンガードの『サプライズ』に出演したり、スワンバーグとお互いの作品に出演しあったり。TV版『スクリーム』の監督も務めた。
『キャビン・フィーバー2』(Cabin Fever 2: Spring Fever , 2009)
『インキーパーズ』(The Innkeepers、2011)
『サクラメント 死の楽園』(The Sacrament、2013)
パトリック・ブライス(Patrick Brice)
・デュプラス兄弟のプロデュースで『クリープ』を監督。
『クリープ』(Creep,2014)*Netflix 独自配信
リー・ジャニアック(Leigh Janiak)
『ハネムーン』(Honeymoon、2014)
ジェレミー・ソルニエ(Jeremy Saulnier)
・『ブルーリベンジ』で一躍名を挙げたインディペンデント界の新星。
『ブルー・リベンジ』(Blue Ruin、2013)
E.L.カッツ(E.L.Katz)
・兄ピーターとともに初期ウィンガード作品のプロデューサーや共同脚本を務めたウィンガードの盟友。アーロン・カッツとはどうやら親戚関係はないっぽい。
『ザ・スリル』(Cheap Thrill、2013)
ベン・ウィートリー(Ben Wheatley)
・イギリスのインディペンデント・ホラー(といっていいのか)界の鬼才。最新作はバラード原作の『ハイ-ライズ』。
『キルリスト』(Kill List、2011)
『サイトシアーズ〜殺人者のための英国観光ガイド〜』(The Sightseers、2012)
ジェレミー・ガードナー(Jeremy Gardner)
『スウィング・オブ・ザ・デッド』(The battery、2012)
ショーン・ダーキン(Sean Durkin)
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(Martha Marcy May Marlene、2011)
ジョン・ヒューイット(Jon Hewitt)
『バタフライエフェクト・イン・クライモリ』*6(Acolytes、2008)
デヴィッド・ブルックナー、ダン・ブッシュ、ジェイコブ・ジェントリー(David Bruckner, Dan Bush, Jacob Gentry)
『地球最後の男たち The Signal』(The Signal、2007)
他にも「他作品が日本で紹介されてるけどリストにあるやつは未訳」勢としては、
ゲーム『Until Dawn』をてがけたグラハム・レズニック(I Can See You)、
『ディスコード/ジ・アフター』のパトリック・ホーヴァス&ダラス・ハラム(Entrance)、
インディペンデント・ホラー界の知る人ぞ知る注目株、サイモン・ラムリー(ラムレイとも)(Red, White and Blue)
『モンスター』のジャスティン・ベンソン(Resolution)など
アンソロジー: マンブルゴア勢が大勢共演している。
『ABC・オブ・デス』
『V/H/S シンドローム』(V/H/S, 2012)
『V/H/S ネクスト・レベル』(V/H/S 2, 2013)
調べた雑感
調べれば調べるほど、「次代のスター監督」と目されている勢がどんどんリンクされて出てくる……特にマンブルゴア。ウィートリーやソルニエなんかとりあえず目立っているので入れてみました感がパないんだけど、信頼してええんやろか。wikipediaの元記事からして、「新聞でマンブルコア呼ばわりされてたのでマンブルコアってことでいいよね」くらいのノリで放り込んでるっぽいし。
まあ、それだけマンブルコアという用語が浸透している証ではあるんだろうけど。
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