神獣楽天庭国カドカワにて*1
あけましておめでとうございます、あたらしきマスター。
連載継続保障機関ヨムデアにようこそ。
あなたの着任を歓迎します。
さて2017年、われわれは許されざる人道上の大罪を二つ犯しました。
ひとつは『ルポルタージュ』(作・売野機子)の打ち切り。
もうひとつは『四ツ谷十三式新世界遭難実験』(作・有馬慎太郎)の打ち切りです。
どちらも最高級のマンガ作品です。将来を嘱望された名作です。やがて歴史に残る傑作になるはずでした。
幸い『ルポルタージュ』は他社への移籍が決定しているとのことですが、『四ツ谷十三式〜』はいまだにどうにもなってません。*2
このような悲劇を二度と繰り返してはなりません。
われわれは読者として、消費者として、なにより一個の文明人として、マンガ史に対する責任があります。
わかりますか?
わかりますね?
であるからには、あたらしきマスターよ。
ここに2017年に見出された七十二の初芽を、やがてマンガ界を支える柱になるであろう新連載マンガの第一巻を七十二作、そろえてございます。
であるからには、あたらしきマスターよ。
顕現せよ。
牢記せよ。
これに至るは七十二柱のマ神なり。
注意と目次
*注意1……というわけで昨年第一巻が発売されたマンガで、現在も連載が継続中(最初の二作は除く)の良作をピックアップしていきたいと思います。単発長編や短編集、同年内打ち切り作品等はまた別の記事を立てる予定です。
*注意2……基本的に単行本派なので、モノによったら既に雑誌上で打ち切られたり完結してる可能性あり。
*注意3……興味の範囲的に、アフタヌーン、モーニング、ハルタ、バーズといった系統の青年マンガが中心です。
*注意4…‥読書環境的に、紙でしか買えないマンガは扱っておりません。
*注意5…‥タイトル横のカッコ内は著者名と既刊数(2018年1月1日現在)。
*注意6……「振った番号=面白かった順位」ではありません。が、ざっくり数十作単位でふんわり格付けみたいなものはしてます。
*注意7……amazonのリンクと一緒に(読める場合は)公式サイトの第一話試し読みリンクも貼っておくので、気になったかたはぜひチェックしてみてください。
- 神獣楽天庭国カドカワにて*1
- 注意と目次
- 私が選んださいきょうのAチーム30柱
- 1柱『ルポルタージュ』(売野機子、3巻)
- 2柱『四ツ谷十三式新世界遭難実験』(有馬慎太郎、1巻)
- 3柱『バイオレンス・アクション』(画:浅井蓮次、原:沢田 新、3巻)
- 4柱『BEASTERS』(板垣巴留、6巻)
- 5柱『ワニ男爵』(岡田卓也、2巻)
- 6柱『違国日記』(ヤマシタトモコ、1巻)
- 7柱『麻衣の虫ぐらし』(雨がっぱ少女群、1巻)
- 8柱『しったかブリリア』(珈琲、1巻)
- 9柱『ブルーピリオド』(山口つばさ、1巻)
- 10柱『星明かりグラフィクス』(山本和音、1巻)
- 11柱『ようことよしなに』(町田翠、2巻)
- 12柱『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ、2巻)
- 13柱『ラグナ・クリムゾン』(小林大樹、2巻)
- 14柱『わたしと先生の幻獣診療録』(火事屋、2巻)
- 15柱『さよなら、おとこのこ』(志村貴子、1巻)
- 17柱『怒りのロードショー』(マクレーン、1巻)
- 18柱『ザ・ボーイズ』(ガース・エニス、3巻)
- 19柱『黒き淀みのヘドロさん』(模造クリスタル、1巻)
- 20柱『1日外出録 ハンチョウ』(協力:福本伸行、原作:荻本天晴、漫画:上原求&新井和也、2巻)
- 21柱『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』(原作:さとうふみや&天樹征丸&金成陽三郎、漫画:船津紳平、1巻)
- 22柱『北極百貨店のコンシェルジュさん』(西村ツチカ、1巻)
- 23柱『Do race?』(okama、2巻)
- 24柱『不滅のあなたへ』(大今良時、5巻)
- 25柱『凪のお暇』(コナリミサト、2巻)
- 26柱『時計じかけの姉』(いけだたかし、1巻)
- 27柱『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎、2巻)
- 28柱『ひつじがいっびき』(高江洲弥、1巻)
- 29柱『モキュメンタリーズ』(百名哲、1巻)
- 30柱『保安官エヴァンスの嘘』(栗山ミヅキ、2巻)
- 10の厄災たち
- 来るべき32の獣たち
- 41柱『貧民、聖櫃、大富豪』(高橋慶太郎、2巻)
- 42柱『漫画の森から女子高生』(美川べるの、2巻)
- 43柱『七都市物語』(原作:田中芳樹、漫画:フクダイクミ、1巻)
- 44柱『マッドキメラワールド』(岸本聖史、1巻)
- 45柱『マグメル深海水族館』(椙下聖海、1巻)
- 46柱『竜と勇者と配達人』(グレゴリウス山田、2巻)
- 47柱『私は君を泣かせたい』(文尾文、2巻)
- 48柱『セレベスト織田信長』(ジェントルメン中村、1巻)
- 49柱『1122』*11(渡辺ペコ、2巻)
- 50柱『ドレッドノット』(緋鍵龍彦、1巻)
- 51柱『パンクティーンエイジガールデスロックンロールヘブン』(ハトポポコ、1巻)
- 52柱『人形の国』(弐瓶勉、1巻)
- 53柱『バジリスク 桜花忍法帖』(原作:山田正紀、漫画:シヒラ竜也、キャラ原案:せがわまさき、1巻)
- 54柱『アマネギムナジウム』(古屋兎丸、2巻)
- 55柱『男爵にふさわしい銀河旅行』(速水螺旋人、1巻)
- 56柱『放課後ていぼう日誌』(小坂泰之、1巻)
- 57柱『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』(KAKERU、1巻)
- 58柱『大蜘蛛ちゃんフラッシュバック』(植芝理一、1巻)
- 59柱『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』(インカ帝国、1巻)
- 60柱『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』(オノ・ナツメ、1巻)
- 61柱『昭和天皇物語』(漫画:能條純一、原作:半藤一利、脚本:永福一成、監修:志波秀宇、1巻)
- 62柱『サーカスの娘オルガ』(山本ルンルン、1巻)
- 63柱『ノイン』(高橋ツトム、1巻)
- 64柱『北北西に曇と往け』(入江亜季、1巻)
- 65柱『鉤月のオルタ』(麻日隆、1巻)
- 66柱『異種族レビュアーズ』(原作:天原、作画:masha、1巻)
- 67柱『針棘クレミーと王の家』(唯根、1巻)
- 68柱『イサック』(原作:真刈信二、漫画:DOUBLE-S、2巻)
- 69柱『きみを死なせないための物語』(吟鳥子、2巻)
- 70柱『青高チア部はかわいくない!』(conix、1巻)
- 71柱『魔女と野獣』(佐竹幸典、2巻)
- 72柱『悪魔を憐れむ歌』(梶本レイカ、2巻)
- 亜種特異点的ボーナストラック
- 漫理の終わりに
私が選んださいきょうのAチーム30柱
永遠じゃなくて無限につづいて欲しい傑作30作。
1柱『ルポルタージュ』(売野機子、3巻)
- 作者:売野機子
- 出版社/メーカー:幻冬舎コミックス
- 発売日: 2017/06/24
- メディア:コミック
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目が合った。
今は合わせてくれない。
結論から言えば、顔のいいジト目の女が出てきておまえたちは一人残らず睨め殺される。
恋愛という行為および感情が衰退し、双方の実利に基づく合理的なパートナーシップ契約としての結婚が一般化した近未来日本。
そんな時代を象徴する存在と見られていた非・恋愛コミューン(恋愛を飛ばして”共同経営者”としての結婚相手を見つけるための共同体)である日、凄惨なテロ事件が発生します。新聞社に勤める若手記者・絵野沢は憧れの先輩である青枝聖と組み、テロ事件の犠牲者たちに関する人物ルポを書くように命じられます。
その過程で聖はテロ犯人に支援を行っていたNPOグループの男性・國村と出会ってしまう。眼と眼が合うんですね。その瞬間、聖と國村のあいだに「何か」が生じてしまったことを傍目に絵野沢は嗅ぎ取ります。*3
そこから恋の話が始まります。恋の話を描くにあたって、売野機子は「眼」の描写を徹底します。
そう、とにかく眼のアップが多い。それらは周到かつ巧妙に配されている。たとえば第一巻だけで対面している聖と國村を真横から捉えた構図が三度繰り返されますが、そのどれもで微妙に両者の位置関係をズラしています。
計算され尽くした巧緻な語り口によってでしかつづることのできないたぐいの物語があります。人間についての物語はいつも一筋縄ではいかない。たった三巻で終わらせるにはあまりに複雑で、蠱惑的すぎました。
具体的な移籍先はまだ不明ですが、今のうちに百回くらい読み直しておきましょう。
2柱『四ツ谷十三式新世界遭難実験』(有馬慎太郎、1巻)
- 作者:有馬慎太郎
- 出版社/メーカー:マッグガーデン
- 発売日: 2017/02/17
- メディア:Kindle版
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こいつはこの星の知識を全力で嫌がらせに使うつもりだ。
ひょんなことから奇っ怪野蛮な巨大生物たちが蠢く異世界に飛ばされた四ツ谷正宗くんとその友人たち。元の世界へ帰還するにあたっての最大の障壁は巨大生物ではなく、正宗の兄にしてアタマのネジがいかれた天才マッドサイエンティスト・四ツ谷十三なのでした。
私たちは一人残らず例外なく九十年代が大好きで、すきあらばその残り香を瓶に詰めて閉じ込めようとします。
あるいは本作もそんなノスタルジーの一環なのかもしれません。
今となってはどこか芋っぽい絵柄。『レベルE』(冨樫義博)のバカ王子じみた悪魔的天才主人公。ぐちゃっとした異世界。16ビットゲームのパロディ。パンイチのつっこみでキャラが吹っ飛ぶギャグのノリ……。
そしてなにより、読者を鈍角から不意打ちするSF的センス・オブ・ワンダー。
なにもかもがみな懐かしい。
新しい酒は新しい革袋に入れるべきだと人はいいます。しかし、古い酒を新しい革袋に入れる愉しみも世の中にはあるわけで、容器が違えば風味も口触りも微妙に変化するものです。
仮に動機が『レベルE』の再現であったとしても、紙面に反映されているのはたしかに有馬慎太郎先生個人のタッチと思考なのであって、力量のある作家は舗装された大道から必ずいつか脱線して、自分の道をこしらえてしまいます。
その兆候がみえた矢先に無残にも打ち切られてしまいました。でも忘れらんねえよ。忘れたくねーよ。
3柱『バイオレンス・アクション』(画:浅井蓮次、原:沢田 新、3巻)
バイオレンスアクション(1) (ビッグコミックススペシャル)
- 作者:浅井蓮次,沢田新
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/03/24
- メディア:Kindle版
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「大丈夫? 死ぬかもですよ?」
「……それはきみもだろう」
「死ぬつもりなんですね。絶望のにおいがする。サービス料は入金済みだから別にどちらでもいいんですけどーーなるべくなら生きましょう。猫とかプランターとか小さい喜びを胸に!」
これもボーイ・ミーツ・ガールが「目が合う」ことによって成立するマンガですね。
いわゆる殺し屋もの。天使的な役割を演じるタイプの殺し屋もののなかでは最上級でしょう。
定型をある程度までなぞりつつも、ある程度わかりやすい引用などを踏まえつつも、要所要所でのハズし具合がとにかく絶妙です。スクラップ・アンド・ビルド、ビルド・アンド・スクラップ。
そんでまあ、話がうまい。キャラがうまい。設定がうまい。表情がうまい。構成がうまい。アクションがうまい。セリフがうまい。ウソがうまい。ようするに、まんががものすごくうまい。
陰惨な話が多いですが、主人公の殺し屋少女のポジティブさが陽性の救いをあたえています。
女の子が殺し屋やる話なら『CANDY AND CIGARETTETS』も要注目です。
4柱『BEASTERS』(板垣巴留、6巻)
- 作者:板垣巴留
- 出版社/メーカー:秋田書店
- 発売日: 2017/01/06
- メディア:コミック
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文字通り、俺はあなたを食べようとした。
怖がるどころか 会話する権利すら本当は
ないんだーー
学園版ズートピア。内気なオオカミの男の子がウサギの女の子に恋心を抱くものの、捕食者-被捕食者という種同士に植えつけられた本能が恋路を阻む。古典的な『あらしのよるに』メソッド。理性を圧倒的に肯定するズートピアとは逆ですね。予定された運命にどれだけ抗えるか、自分を獄する世界をいかに改革しうるか。そうしたものを描くためには、寓話でありつつもリアリティを出すという矛盾したタスクをこなさなければなりません。新人だてらに板垣(巴)先生はその不可能を可能にしました。
視野が広いんですよね。世界観に奥行きがある。まるまる一話分を割いた「学食に自分の産んだ無精卵を売るニワトリ」の話もここでそれ持ってくるのか、という驚きがありますし、描写レベルでも、たとえば最新第六巻の隕石祭のシーン:「先に拍手したのは肉食獣。鋭い爪音を混ざるのをかき消そうとするように、草食獣の拍手も徐々に加わった」と情景もちゃんとビースターズ世界の言語で叙述している。
豊かな世界を構築できているからこそ、そこに生きるキャラクターたちの懊悩も空疎なものになっていない。この罠を回避できる描き手はけして多くはありません。才能だなあ、板垣娘。
5柱『ワニ男爵』(岡田卓也、2巻)
- 作者:岡田卓也
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/07/21
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「カキ小屋が今熱いです」
「気になってはいました」
紳士的なワニ男爵とちょっとだらしないウサギ、ふたりのグルメは今日も食を探求する。
グルメギャグ漫画です。
こちらは第一話のアオリで「ライバルはズートピア」と自分から喧嘩を売っていくスタイルですね。
瞠目すべきは絶妙なキャラメイクと盲点から撃ってくるギャグの威力。どちらも無二のセンスです。
特にワニ男爵の造形はいいですね。ジェントルな立ち振舞の深奥に隠された荒々しい過去。日々の衝動を己を律することで乗り切っていく求道者っぷりが惹かれます。第一話を読めば誰もがラビットボーイのようにどこからどう見ても純然たるワニにしか見えないワニ男爵を「先生!」と慕いたくなるはず。
私たちが求めていた「師匠」マンガがここにあります。
6柱『違国日記』(ヤマシタトモコ、1巻)
- 作者:ヤマシタトモコ
- 出版社/メーカー:祥伝社
- 発売日: 2017/11/22
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あの日 あのひとは
群をはぐれた狼のような目で
わたしの 天涯孤独の運命を 退けた
両親の急逝により天涯孤独になった中学生が、JKローリングみたいな売れっ子児童文学作家である彼女の叔母と同棲生活をはじめる話。
『HER』、『BUTTER!』、『花井沢町公民館便り』。ヤマシタトモコはキャリアを通じてずっとことばを研ぎ澄ましつづけてきました。なんのために?
わたしたちを『違国日記』で殺すためにです。
清冽というよりも、凄烈ですらあるセリフ力が至る所で炸裂しています。あらゆる演出が凝らされた罠であり、すべてのページが地雷原です。
ことばのマンガなんですね。ことばで展開のメリハリを作り、ことばでイメージを描く。文字が多いということではありません。むしろ尽くすよりは絞っている。狙いすましている。だから読んでみるとたちまち、きみさ、人生。かわるね。エポックだ。
特に主人公。小説家ですから、もちろんことばの力を熟知しています。
自分の書いている少女向け小説の読者が送ってきた「あなたの小説で人生が変わりました」というファンレターには「本気にしてマセン。いつかは読まなくなるものでしょ、少女小説って」とクールな一方で、同居しはじめた姪に対しては「15歳みたいな柔らかい年頃、きっとわたしのうかつな一言で人生が変えられてしまう」と怖気づく。その二つのセリフのあいだに挟まれる死んだ姉(引き取った姪の母親)のものと思われる陰が彼女の名を呼びかけてくるコマ。これだけで、おそらくは読書に耽溺しながらも人生に決定的な影響を与えたのは姉から直接かけられたことばのほうだったんだろうな、と推測がつきます。
そういう、最小限のセリフとカットでそのキャラの人生に一瞬で陰影をつけられる手品のような手際がすさまじい。
完全に魔神の領域に突入してしまったヤマシタトモコを御覧じろ。
7柱『麻衣の虫ぐらし』(雨がっぱ少女群、1巻)
- 作者:雨がっぱ少女群
- 出版社/メーカー:竹書房
- 発売日: 2017/10/27
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こうして背中にちょんと付けるだけで
羽がくっついて飛べなくなるんですよ
二十才無職さんの麻衣と、農作物と麻衣にたかる害虫どもの駆除に執念を燃やすクレイジーサイコペスティサイドレズ少女菜々のふたりによる農家暮らし日常。
とにかくキャラの勝利。虫を殺す時の菜々ちゃんのサイコパス顔ももちろんだけど、「自分にとって大切なもの(おじいちゃんから受け継いだ畑や麻衣)を守る」という彼女の潔癖な信念がドラマにジレンマという名をコクを加えていて、1巻終盤で爆発するエモーションを深めています。
8柱『しったかブリリア』(珈琲、1巻)
- 作者:珈琲
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/12/22
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先輩……本当はベルギー行ってないんじゃないですか?
4G回線スマホとグーグルのマリアージュは、現代しったかぶりコミュニケーションをネクストレベルの地獄へとひきあげました。
その現実を戯画化した恋愛ギャグが『しったかブリリア』です。
主人公は低身長にコンプレックスとトラウマを持つ意識高い系大学生・白波理助。彼は一目惚れした黒髪ロングの新入生・濱崎さんにアプローチするため「「サークルを三つ運営し学年主席で三カ国語話せて国際ボランティアやっててスポーツ万能でクラブDJもやっててスタバでバイトリーダー」と九割がた虚構の経歴を吹聴しつつ、ベルギー留学に興味を持つ彼女に「自分はベルギーに行ったことがあるしオランダ語やフランス語も話せる」(もちろん全部嘘)とマウントをかけつつ接近します。
が、濱崎も濱崎でなるべく角を立てずに円滑なコミュニケーションをやりたいあまりに、つい思ってもないことを口走ってしまう性分だったため、ふたりのキャッチボールは実にスリリングな様相を呈してきて……、というかんじ。
見栄をはるためのウソに命をかける男と、見栄をはるためのウソでサバイバルする女。
両者のグーグルとウィキペディアとネットの聞きかじり知識で武装したコミュニケーションゲームは、多かれ少なかれ、我々自身の似姿でもあります。本来は空疎でクソでイヤなものでしかないマウンティングトークに駆け引きのダイナミズムを導入することで、傍目から見たらバトル的なコメディとなってしまう。このカメラの置き方の絶妙さよ。
それでいてこういう哀しい人間たちを一方的に突き放して嗤わず、どこか共感をもって寄り添ってやさしさも垣間見えます。
作中でも引用されてますが、オシャレな初期『カメレオン』(ヤンキー漫画のやつ)の子どもがなぜかアフタヌーンで生まれて意識高いウェイ系に育ってしまったような風情です。
9柱『ブルーピリオド』(山口つばさ、1巻)
- 作者:山口つばさ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/12/22
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好きなものを好きっていうのって
怖いんだな……
学業優秀で友達も多いいけれど心の底からアツくなれるもの持てないヤンキー(か?)男子高校生が、美術のクラスで与えられた課題をきっかけに絵に目覚め、ゆかいな仲間といっしょに美大を目指す青春マンガ。
ハイそこの人。このあらすじでビタイチ興味を持てなかったでしょう。
私もそうでした。どこかで「成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎は、ある日、一枚の絵に心奪われる。 その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。 美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す! 」なんていう公式の紹介文見かけたらフツーに敬遠してたとおもいます。
「”そういうマンガ”ね。あるある、よくあるよね。才能? 努力? 空虚な日常? 女装男子? そういう青春もの。知ってるよ」と。
断言しましょう。この漫画はそんな安い経験則を軽々と越えてきます。
作りがとにかく丁寧です。
主人公の動機づけから心情、「上手い絵」を見た時のリアクション、キャラ一人一人の性格のかき分けに至るまで手を抜いているところがほとんどない。出してくるあらゆる要素をひとつひとつ綺麗に使い潰しています。
青春マンガの基礎中の基礎である「主人公の視野が広がっていく=成長」の感覚をワンエピソードごとにきっかりこなしていきます。
読者の最大公約数的に共感しやすいところを狙いうちつつも、それをアウトプットするためのことば選びでいくらでもマンガというものは可能性が拡張されていくのだな、と今更ながらに認識させられます。その実感は新鮮な衝撃です。衝撃度だけでいえば2017年でもトップクラスです。何気なく手に取ったコンビニのあんまんが実はネクタールだったみたいな。
陰影が印象的な画風もすばらしいですね。光に溢れていながらも、どこか柔らかくて不安定な陰の差した室内の描写はそのまま青春時代のおぼろげな不安感に直結しています。
一つのテーマを描くために何が必要かを見極めて、それらの要素を極限まで磨きあげて鍛えれば唯一無二を作ることができる、という好例。
10柱『星明かりグラフィクス』(山本和音、1巻)
- 作者:山本和音
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/09/15
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私 最近気付いたんだ
美大って 才能を磨く所じゃなくて
本当に才能にある人間とコネを作るところだって
そりゃ確かに吉持は問題児だよ 潔癖以前に性格が悪い 生活力がない 無礼に自己中 恩知らず
だけどデザインはとびきりに上手いんだ 2年だけど校内の誰より上手い
上がると決まってる株 買わない手はないでしょ
これも美術で才能の話。
センスは天才的なものの極端な潔癖症のせいで友達ゼロのデザイン科美大生女と、その天才を独り占めしようとする利己的なコミュ強女の百合……百合か? 百合ではないな。たぶん。利己的女は天才女をプロデュースして名を売ろうとする一方、さまざまな奸計をろうして天才女を孤立させ、自分に依存させようと仕向けます。やっぱ百合だな。
アウトサイダーをアウトサイダーのまま、あるいはクズをクズのままやさしく包んで出してくれるマンガが好きなんですよね。
ハルタ一番の期待株です。買っとけ。
11柱『ようことよしなに』(町田翠、2巻)
- 作者:町田翠
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/07/28
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ねー、マキさあ、これをいつかさーー
ちゃんと録音して、音楽会社に送ってさ
MステでもCDTVでもいいから、二人で出演して人気者になったら…
こんな ど田舎のしみったれた町、二人で出ていこうね。絶対だからね。
女が二人出てきて青春するつながりでは『ようことよしなに』はハズせない逸品でしょう。夏とクソ田舎とロックンロールさえあれば青春はかけるとゴダールも言っている(言ってない)。
クソ田舎に住む純ぼっち(バカ)と半ぼっち(まじめ)の女子高生ふたりの野蛮な仲良し日常ですね。彼女たちは素人バンドを結成し、クソ田舎を脱出しようとがんばる。
それぞれ別の高校に通ってるんだけど、バカな方が学校の図書館でぼっち昼飯してると聞いて我慢してグループに所属してるまじめな方が安心したりだとか、ナレーションが「未来の自分による回想」形式なところだとか、両開きで飛び上がって歌うところにエモーションのクライマックスをもってくる構成とか、そういうのホントダメなんだ……そういうの読むとダメになってしまうよ……
音楽マンガとしてのエモさもかなり濃いです。
12柱『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ、2巻)
青野くんに触りたいから死にたい(1) (アフタヌーンコミックス)
- 作者:椎名うみ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/06/23
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幽霊ってモンスターなのかな
このまま青野くんと一緒にい続けたら
わたしどうにかなっちゃうのかなどうなってもいいよ
天より地上のマンガ界へ遣わされた2017年度最高の新人にして最強の悪意、それが椎名うみ先生です。
とにかくずば抜けてユニーク。基本線としては付き合い始めたばかりの彼氏を亡くした女子高生のもとに死んだはずの彼氏の幽霊が現れてさあどうなる、って話なんですが、
主人公が椎名うみ先生特有の自分の感情に対してあまりにまっすぐすぎて怖い人なせいで、結果的にホラーと恋愛とコメディがほぼ同一軸上で展開される狂気じみたマンガになってしまいました。でも、イイ話なんですよ。泣けますよ。信じられますか? わたしはいまだに信じられん……。
なにげに卓越したマンガ力と見て一発でわかる秀抜なセリフセンスも見もの。短編集も出ていますが、そちらも別記事で紹介したい。
13柱『ラグナ・クリムゾン』(小林大樹、2巻)
ラグナクリムゾン 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)
- 作者:小林大樹
- 出版社/メーカー:スクウェア・エニックス
- 発売日: 2017/10/21
- メディア:Kindle版
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失うばかりの人生 それでも戦い続ける
限界の限界の限界の限界の限界の
限界のさらにその先の強さへーー
ラグナクリムゾン - 連載作品 - ガンガンJOKER -SQUARE ENIX-
変態……もとい変化球マンガの次はストレートにアツいバトルファンタジーのご紹介。
圧倒的な戦闘力をもつ「竜」に生存を脅かされた人類。狩竜人(かりゅうど)の少年ラグナは「狩竜の天才」と称される少女レオにつきしたがって竜と戦っていた。自分に竜と戦う才能はない。せめて無敵の英雄であるレオに微力なりとも貢献して死ねれば本望ーーそう考えていたラグナだったが、ある日謎の老人からレオが竜に惨殺される未来を幻視させられる。少女を救うための強さを願う少年に、老人は驚愕の正体を明かす。
定められた悲劇を避けるための◯◯◯◯◯もの(無料公開分の第一話で明かされますが)としてはわりとストレートなストーリー。しかし、紙上からほとばしる熱量がすさまじい。「竜殺しの物語(ドラゴンファンタジー) 次世代スタンダード」を自称するのは伊達ではありません。
主人公がいきなり最強クラスの兵器化してしまうため、一巻時点ではバトルパートは単調にならざるを得ませんでしたが、二巻では新加入キャラによる戦術要素も出てきて厚みが増します。
飽和気味のファンタジーバトルマンガ市場にあって、まず拾われるべき原石の一つ。
14柱『わたしと先生の幻獣診療録』(火事屋、2巻)
- 作者:火事屋
- 出版社/メーカー:マッグガーデン
- 発売日: 2017/05/10
- メディア:Kindle版
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自分なら出来るはずって始めたことなのに
出来ないこととか、失敗とか、
そんなことばかりだなって……。
魔術が科学によって超克されつつある世界。魔術師の末裔である獣医師見習いの少女ツィスカが師匠である獣医師ニコとともにカーバンクルやサラマンダーといった幻想クリーチャーたちを試行錯誤しながら癒やしていく。
『セントールの悩み』から一万光年、人外ブームも久しくなりぬれど、『ダンジョン飯』や『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』といった幻想生物の生物学的考察をフィーチャーしたマンガもにわかに活気をおびてきた今日このごろ。
幻想生物にリアリズムに基づいた解釈を与える系統のマンガとしては、一番地に足がついている*4といいますか、これが俺たちの求めていたやつだよ感があります。*5下手に「人類」に手を出さずに「動物」に扱いを限定しているのも勝因。
キャラクターの配置もいいですよね。中途半端ながらも魔術の知識も持ち合わせるツィスカが、未熟なりに近代獣医学の可能性を広げたり広げなかったりする。表面的にはぶっきらぼうなニコもツィスカの努力と成長を見守る。魔術が科学によって駆逐されつつある世界観も触媒としてツィスカのキャラクターや二人の関係にプラスの効果を与えています。
さじ加減がむずかしいジャンルを、よく欲望を抑えてコントロールしていると思います。
15柱『さよなら、おとこのこ』(志村貴子、1巻)
さよなら、おとこのこ(1) (ビーボーイコミックスデラックス)
- 作者:志村貴子
- 出版社/メーカー:リブレ
- 発売日: 2017/09/08
- メディア:コミック
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舞台の上では老人にもなるし 幼児にもなる
時には女になることだってある
肉体そのものは変えられないが
紙の上でなら なんにだってなれる
バスの運転手と同棲していたゲイの演劇俳優がある日突然ショタボーイになっちゃった、ってあらすじだけなら、今年でいえば、『昴とスーさん』のゲイヴァージョン……のはずなんですが、そこから一気に読者の予測のつかない地平までもってかれます。
これ以上は言えないな。察してくれ。買ってよめ。「BLはちょっと」? おいおい、志村貴子だぜ? ってかそういう問題じゃないから。いいから。とにかく。
メタフィクションの本質的な営みとは「物語ることの主導権の奪い合い」なのではないかと常々愚考するところんですけれども、群像劇と語りの魔術師・志村貴子はそれを今回もっとも即物的な形でついてきます。
これは読者への挑戦状といって差し支えないのではないか。
斯界の志村貴子ウォッチャーとして知られるななめちゃんさん氏は「わたしたちがその圧倒的なまでに複雑化されたストーリーテリングの本質を理解するにはおそらくあと三年ちかくかかるのではないか。」と諦め気味に指摘しており、その定見は圧倒的に正しいのですが、ヨムデアであるところのわたしとしては人類の、読者の可能性を信じたい。
志村貴子に負けるな人類。
がんばれ人類。
がんばれ……。
17柱『怒りのロードショー』(マクレーン、1巻)
- 作者:マクレーン
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/01/30
- メディア:コミック
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そんなんでよくシュワ好きが名乗れたな!!!
シュワ愛がぜんぜん足りてねーよおまえには!!!!
風が吹いている。暖かくて、乾いていて、しかしどこか懐かしいにおいの風だ。メヒコからーーおたくのぼんくらどもの街から吹く風だ。
ここのところ映画マニアを題材にしたマンガが増えましたが、本作はその先駆にして最もハードコアでどうしようもない作品です。オタクであることの喜びを肯定しつつ、その罪悪に対して正面から向き合う。映画ジャンルに限らず、マクレーン先生の誠実さはやっすい開き直り型オタクファンタジーどもとは一線を画しています。
18柱『ザ・ボーイズ』(ガース・エニス、3巻)
- 作者:ガースエニス,ダリックロバートソン,Garth Ennis,Darick Robertson,椎名ゆかり
- 出版社/メーカー: Graffica Novels
- 発売日: 2017/02/24
- メディア:コミック
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コミックだよ。
脳みそを腐らせる。
Kindle導入以来すっかりBDやアメコミから遠ざかってしまっていた私ですが、そこへ来てG‐NOVELSはちゃんとKindle版も商ってくれるようになりました。えらい。同社翻訳作とはアメコミ版鉄腕アトム&ゴジラ(?)『ザ・ビッグガイ&ラスティ・ザ・ボーイロボット』や松本サリン事件をドキュメンタリックに描いた『MATSUMOTO』などもオススメです。そして! 今月にはあのオトナ百合アメコミ*6『サンストーン』が出る! ホットなレズビアンのボディコンセックスが読めるぞ! サンキュー、G‐NOVELS!!
さて、『ザ・ボーイズ』ですが。
簡単にいえば、謎の注射を射たれて超人化したサイモン・ペグがアンチ・ヒーロー組織に加わり、腐敗したジャスティス・リーグやXメンを皆殺しにする話です。何言ってるんだと思われそうですが、一言一句たりとも私は間違っていない。『ウォッチメン』とかのスーパーヒーローものの批評的なパロディをもっとグチャグチャに、残虐にしたかんじ。
こういう系は取扱を一歩間違えれば単に反マジョリティを気取ってるだけで浅薄で陳腐な、なんとなれば本家で既に自己言及してることすらありえることの二番煎じに堕した駄作に陥りがちなものですが、そこは大傑作『ヒットマン』のガース・エニス。見事に人間の哀しさを描ききった仕事人ハードボイルドに仕上げています。
個人的に一番好きなのは一巻に出てくる「テックナイト」というヒーローのエピソード。テックナイトはバットマンをモデルにした大富豪ヒーローなのですが、なぜか突然、穴とみれば男女の尻穴からチンチラやコーヒータンブラーまでなんでも性器を突っ込むセックス衝動を抑えきれない身体になってしまいます。
その病気のせいで所属していたヒーローチームからも解雇され、信頼していた執事(バットマンでいうところのアルフレッド)からも愛想をつかされてしまい、ヒーローとしての尊厳を完膚なきまでに失ってしまいます。そんな彼が終盤ヒーローとしての矜持を発揮するシーンがありまして、それがなんとも悲劇的でありつつも滑稽で、胸打たれるのです。オチも含めてね。
19柱『黒き淀みのヘドロさん』(模造クリスタル、1巻)
- 作者:模造クリスタル
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/03/15
- メディア:コミック
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おかしいか? うまく言えないけど
でも私には 悪から善を作るより 他に手はないんだ
模造クリスタル先生の本が一年で二冊も出ただけであまねく人類は生に感謝すべきなのですが、それはまあともかく、
『黒き淀みのヘドロさん』は当ブログ*7でも既にご紹介しましたね
女子高生が黒魔術を使ってヘドロから人間を作り出すお話です。模造クリスタル先生は『スペクトラル・ウィザード』、『ビーンクとロサ』そして『金魚王国の崩壊』と一貫して人間の不全性と孤独を描いてきた作家で、本作でも何者も寄せ付けず唯一傍にいてくれる執事に対しても過剰な暴力をふるうお嬢様とか、自分を教師と思い込んで勝手に学校で先生としてふるまっている狂人とかが出てきます。
泥人形たるヘドロさんはそうした人間たちを救えるのか。結論からいえば救えません。その救えなさをいかにデザインするかが模造クリスタルという作家の本領なわけですが、しかしわたしたちはその救えなさの悲劇を前に何をなせるのか。
絶望と仲良くなりたい向きには、ぜひフォローしておきたい作家です。
20柱『1日外出録 ハンチョウ』(協力:福本伸行、原作:荻本天晴、漫画:上原求&新井和也、2巻)
- 作者:福本伸行,萩原天晴,上原求,新井和也
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/06/06
- メディア:Kindle版
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肴にしてるんだ……っ!
飲みたくても飲めない……
サラリーマンへの優越感を……っ!
傑作『中間管理録トネガワ』の二匹目のドジョウを当て込んで作られた『カイジ』のスピンオフ漫画ですが、これがまたいい。パロディとしてはちょっとそらおそろしくなるくらいのクオリティです。
ハンチョウというキャラクターと「一日外出」というシチュエーションを徹底的に使い潰す豪腕さは講談社含めたチームの全面バックアップがあってこそ成り立つ細部の神々しさなのでしょうが、『トネガワ』と併せてこうなってくると、ある程度までのキャラ崩壊を許容しつつ取り込んでしまう福本作品の懐の深さがおっとろしい。
最近はパロディ/スピンオフ漫画の話題作が立て続けに発表されていますね。『3年B組一八先生』、『ふたりエッチ外伝 性の伝道師アキラ』、『今日からCITY HUNTER』……そんな中にあって大本命は次にご紹介する作品。
21柱『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』(原作:さとうふみや&天樹征丸&金成陽三郎、漫画:船津紳平、1巻)
多い……
やることが……多い!
国民的人気推理コミック『金田一少年の事件簿』を犯人側の視点で再解釈した公認パロディ漫画。おなじく国民的推理マンガである『名探偵コナン』も似た趣向の(こちらはエピソードごとの真犯人視点ではないものの)『犯人の犯沢さん』を去年出しましたね。
肉体的なアクションや即興の演技力を要求される金田一犯人たちの苦労をおもしろおかしく描いたギャグの切れ味もさることながら、そうした視点を通して推理マンガとしての批評性をも獲得しています。
ミステリとは、探偵と犯人との暗黙の合意にもとづいた甘い犯罪なのですね。
22柱『北極百貨店のコンシェルジュさん』(西村ツチカ、1巻)
北極百貨店のコンシェルジュさん 1 (ビッグコミックススペシャル)
- 作者:西村ツチカ
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/11/30
- メディア:コミック
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北極百貨店にはあらゆる動物のお客様がいらっしゃいます。
あらゆる悩みをお持ちのお客様が!
今日はどんなお客様がいらっしょうか。楽しみです
わたしたちはみんな、一人の例外もなく、高野文子の『ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事』と喋る動物が大好きです。
人と種と品と領域が雑然と交わるデパートという舞台にした変則お仕事話を描くのはなんと、ヴィレッジヴァンガードの守護神にしてサブカルマンガ界のラスト・チャイルド、西村ツチカ先生。
不安がありますね?
西村ツチカ先生がこれまで出してきた短編集はどれも歴然たる才能が発揮されていることは見て取れても、その良さを感覚以上の理屈で理解するにはあまりにもクールすぎました。つまり、人を選ぶ作家でした。
ところが『北極百貨店のコンシェルジュさん』では実にウェルメイドなトラブルシューターものを描いています。わかりやすい。わかりやすく、おもしろい。「絶滅種が集う百貨店」という設定もよく使いこなしている。自分の尖った部分を丸く収めて、ややマジョリティに寄せてきている。それでいてしっかり西村ツチカとして主張しています。よくできている。同時刊行された短編集『アイスバーン』と併せて、ツチカ先生の幼年期に別れを告げたメルクマール的な作品といえるでしょう。
なんとしたたかに成長したことか……と『へうげもの』で秀吉と和解する家康を見たときの本多忠勝が流したものと同じ涙が、読者のほほを伝います。言祝ぎましょう。
ちなみに「絶滅種の集まるお店」というコンセプトを共有している新刊としては『絶滅酒場』(黒丸、少年画報社)もございまして、興味のある方はこちらもチェックするとよろしいでしょう。『絶滅酒場』の方は『北極百貨店』よりもうちょっと扱ってる年代が広くてカンブリア紀の生き物や恐竜が出てきます。
23柱『Do race?』(okama、2巻)
- 作者:okama
- 出版社/メーカー:白泉社
- 発売日: 2017/02/28
- メディア:コミック
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限界は自分では決めない
決めたのはあきらめないこと進めば進むほど重くなる自分を ひとふみひとふみ動かす…勇気を奮い続けること
迷わない
ゴールはまっすぐ先にある!!
『クロスロオド』以来、ときにカオスなほど美麗さとかわいいがつまった作画で。いつもまっすぐな少年マンガを書いてきたokama先生の最新作。
「ドレース」と呼ばれる『キルラキル』を『F-ZERO』と合体させたような服飾宇宙レースバトルが盛り上がりを見せている世界。傑出したレーサーの才能を有するものの貧乏な難民という出自のせいで、費用のかかるドレース参入を諦めかけていた少女キュウが、天才レーサー・ミュラに見出されて特別なドレース用ドレスを与えられます。そのドレスは高性能なのですが、「レースに敗北すると爆発する」という仕掛けがほどこされているとんでもない代物。「命が大事なら小さな夢は夢のまま飾り物にしておくことだね」という言葉を残して去るミュラ。果たしてキュウの選択は、といった第一話。
展開からなにからあいかわらず前のめり極まりなく、打ち切られそうな予感しかありません。
ですがOKAMA先生のオタクアート画でぶちこまれる、努力あり勝利あり友情ありSF設定あり才能話あり美少女あり覚醒超サイヤ人化ありの熱く燃えたぎる正統派少年マンガマインドはきっとみなさんの童心にも届くはずです。まっすぐにね。
24柱『不滅のあなたへ』(大今良時、5巻)
- 作者:大今良時
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/01/17
- メディア:Kindle版
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今は人間の形で歩いている
さらなる刺激を求めて
形態コピー能力を持つ謎の球体が宇宙から飛来してきて、地上に生きる動物や人間たちにメタモルフォーゼしつつ、人間たちの営みに触れて変化していくロードノベル的なSF物語。作者は『聲の形』で大ブレイクした『週刊少年マガジン』の秘蔵っ子・大今良時。
いまさら「大今良時がいい」なんて説明、いりますかね。
舞台となる世界は変われど、人間同士の関係性やコミュニケーションのむつかしさをときに荒々しく、ときに繊細に描ききる大今先生の筆致は健在です。ギリギリの絶望で希望を謳うパワフルさに至っては進化すらしています。
一話目から読者を問答無用にねじふせて物語世界に引き込んでくれるので、読みだしたらあとはすべてを委ねるだけでよいのです。
25柱『凪のお暇』(コナリミサト、2巻)
- 作者:コナリミサト
- 出版社/メーカー:秋田書店
- 発売日: 2017/06/16
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大島凪 28歳にして悟る
空気は読むものじゃなくて
吸って吐くものだ
社内の女子政治と恋人のモラハラに耐えられなくなった空気読む系のOL凪さんが破裂して会社を辞め、寂れたアパートで一人暮らしをしながら人間性を回復していく話。元恋人とアパートの住人とのあいだで三角関係もアルよ!
気の弱さに由来する生真面目さをもっている人はだいたいのところ心を殺しきれるまでは強くなく、常に他人の食い物にされて、どこかで潰れてしまう。そういう人間の心理っていうのは、コンテンツなんですよね。
そういう小市民的な主人公のコミュニケーションにおける地獄一人相撲を覗くサファリツアー的な愉しみもありますけれど、アパートの住人たちの人間模様でもなかなか見せてくれます。全員に表と裏があって、いちいちキャラが立っている。
演出とかも結構練られていますよね。元カレが凪の新居を探すときに携帯の地図へ集中するあまり、建設現場のクレーンを見上げてあるく凪と互いにきづかずすれちがうシーンなんかは画的にも二人の関係性を描写する意味でもキマってて、お気に入りです。
3巻は今月発売。
26柱『時計じかけの姉』(いけだたかし、1巻)
- 作者:いけだたかし
- 出版社/メーカー:幻冬舎コミックス
- 発売日: 2017/04/01
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弟は美しく社交的で
姉はそのどちらでもありませんでした
二人はとても仲良しでした美しい弟は皆にとても愛され それ故に不幸な死を迎えます
姉は深く深く それは深く悲しみました
そして決意します 自らの手で弟をよみがえらすと
死んだ弟・水と生き写しのセクサロイドを作った姉・晶(職業、街の時計修理屋さん)。なぜ彼女は弟をロボットとして再生しようと試みたのか、そもそもその弟とは何者であったのか。生前、死後の水と晶の謎をめぐるミステリー。
基本的に姉と弟がセックスするマンガはその時点で姉マンガを名乗る権利を失うのが天地開闢以来のしきたりですが、これに関しては例外。
倫理の底をぶち破ることでミステリー部分に厚みを出すことに成功していますよね。弟に適度に人権がないおかげで、商店街のおっさんたちが全員穴兄弟であったり、ヤクザに3Pを撮影されたり、何かと首がはずれやすかったり、なんとなく軽い。この軽さが重い話を聴くときには読者をちょうどいい温度にととのえてくれるものです。
27柱『とんがり帽子のアトリエ』(白浜鴎、2巻)
- 作者:白浜鴎
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/01/23
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スポーツ選手は生まれた時からスポーツ選手?
じゃあ宇宙飛行士やアイドルは?
生まれた時はわからない
でもじゃあ 魔法使いは?
ガールズコメディの名作『エニデヴィ』の作者にして、最近ではアメコミ方面の活躍されている白浜先生待望の新作。その独創的なコマ割りセンスは1巻出た当時にメチャクチャバズりましたね。バズったコマを面白がるだけ面白がって買わないの、先生はどうかと思いますよ。
内容は(少女)魔法学校もの。みんな大好き才能の話でもあります。魔術を発動するための魔法陣回りの設定がやたらめったら理屈っぽく作り込まれており、そういう細部に神の存在を感じます。
タイトル通りとんがり帽子にマントという装いの少女たちがわちゃわちゃしてるのも目に快いですし、いいんだよ、白浜鴎は、とにかく。そういうのが。
28柱『ひつじがいっびき』(高江洲弥、1巻)
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わたしなんて
死に続けるしかないんだ。
正統派ハルタ一族の有望株。
小学生のお嬢様が夢の中で自分だけの理想郷を築いて夜毎に逃避するも、その夢に突如巨大なクモのモンスターがわいてお嬢様へ襲いかかる。お嬢様は現実で見かけた喧嘩狂いのヤンキーを召喚することでクモを撃退がするが今度はそのヤンキーに粘着されるようになり……という話。
ハルタ系統*8によく見られるかわいらしい絵柄でありながらも、時折覗かせる「暴」のにおいにゾクゾクさせられます。序盤は『パンズ・ラビリンス』みたいな少女ダークファンタジーの雰囲気をまといつつ、やがて互いに孤独な高校生男子と小学生女子が「生きること手伝い(by 『聲の形』)のしあいっこになるの残酷な話が苦手な人にもあんしん。
29柱『モキュメンタリーズ』(百名哲、1巻)
- 作者:百名哲
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/05/15
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おまえ自身 本当に
自分を探していたのか?
デビュー短編の「ばかねこ」(『冬の終わり、青の匂い』所収)が即漫画史におけるインスタント・クラシックとして絶賛を浴びるも、その後は不遇をかこってきた鬼才・百名先生。本作はそんな百名先生のブレイクスルーになりうるポテンシャルを秘めています。
フィクションを織り交ぜつつ取材した事実をルポ漫画の形式で語っていく奇妙な作品ですが、これがべらぼうに面白い。
出演作一作のみを残して忽然と姿を消したAV女優のビデオを買い占める謎の人物、アイドルのコンサート会場を徒歩でめざすオーストラリア人オタクと日本人少女、自分探しに人生を賭ける友人に呼び出されてバングラデシュで生活することになった作者*9……。
どれも物語に通りよくまとまっているので「ああ、作ってあるんだな」と直感できはしますが、しかしこのマッスルはどうだ。フィクションオンリーでもノンフィクションオンリーでも描きえない、百名先生だけに可能な「縁」の人生ドラマが広がっています。
この縁に、この再会に感謝しましょう。マンガ業界では現実より人が死にやすい。
30柱『保安官エヴァンスの嘘』(栗山ミヅキ、2巻)
- 作者:栗山ミヅキ
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/09/29
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「保安官はモテるんだよ」
【みずから実証できていない説である】
保安官エヴァンスは町一番のガンマン。その腕前と硬派な言動から人々の信頼も篤い。ところが彼には誰にも言えない秘められた願望があった。そう、「モテたい」というーー。
発した主体の内心と実際に生じた受け手の解釈のズレ、そういうコミュニケーションの行き違いによる笑いは『幼女戦記』などでも描かれていますが、本作はわかりやすくそのギャグに全振りしています。
この形式が特に活きるのはラブコメをやるとき。同じく見えっ張りな賞金稼ぎの少女とのもどかしいスレ違いはキレッキレの筆運びです。
気軽に読めるギャグ漫画としてはこれ以上望むべくはない一作でしょう。
10の厄災たち
30の選には漏れたものの漏らしたことに後ろ髪を引かれる秀作がこちら。
31柱『月曜日の友達』(阿部共実、1巻)
- 作者:阿部共実
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/08/30
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『ちーちゃんはちょっと足りない』や『空が灰色だから』で全人類をどん底に突き落とした、ドドメ色の青春と絶望を司る漫画神・阿部共実。
最新作ももちろん学校を舞台にしたブラック青春もので、ページを開いて読んでみるとそこにはいつものシンプルでポップな作画の阿部先生キャラがああああうわああああああああああああああああああああああうわああああああああああああああああああああああうわああああああああああああああああああああああうわああああああああああああああああああああああうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああうわあああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんでこんなすごくなってんの!?
なんか背景も陰影を強調したアフタヌーン系っぽい作画になってるし、かつては頼りなかった線の一本一本が自身に満ちてストロング!! しかも話運びまで……え? 阿部共実ってこんな長編するりとかける作家だったっけ? あれ? なんかフツーに青春ものとしてよくない? よいすぎない?? エモが…‥エモが増幅していく……。
開花、しすぎじゃない?????
もともと一作ごとにこなれてくる人ではあったんですが、正直どこかで『空灰』の天井におさまる器だと見切っていた節があり、これ読んだときは神を凡人の目で図ろうとした己の狭い見識を恥じて切腹まで考えました。阿部共実は本物です。戦いの中で成長するタイプの天才です。
追記: 二巻完結らしいです
32柱『映像研には手を出すな! 』(大童澄瞳、2巻)
- 作者:大童澄瞳
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/01/12
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高校生がアニメ作る話でまあ『ハックス!』(今井哲也)や『アニウッド大通り』(記伊孝)を思い浮かべてくれたらよいです。
そんで、その浮かべた想像を今すぐうっちゃれ。
すっ
っっっ
っっっっげえ変な部活動漫画で、舞台となる学校は九龍城めいて入り組んでるし、キャラたちは揃って漫画でもどうかと思うレベルの変人ばかりだし、なぜか吹き出しも発する人物の向いている方向に応じて立体的に傾ぐ仕様。
それでもなんでかおもしろい。
ものづくりの正統な喜びがそこにはあるからでしょうか。クリエイター讃歌をてらいなく謳えているからでしょうか。
ちなみに作者名は本名らしいです。
33柱『リウーを待ちながら』(朱戸アオ、2巻)
- 作者:朱戸アオ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/06/23
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富士山麓の架空の都市「横走市」を舞台に、静謐に淡々と進行していくアウトブレーク・パンデミックもの。タイトルの「リウー」とはカミュの小説『ペスト』に出てくる登場人物の名です。
主人公である女性医師が冷静で知的な性格であるおかげか、あんまり派手な展開とかはないんですが、それでも、いやそれが故に怖い。
罹患したら高確率かつ短期間で死に至るやばい病原体がじわじわと市内に広がっていく焦燥感と、市街ごと日本から切り離されて封鎖される閉塞感が組み合わさって、登場人物と読者の精神をガリガリと容赦なく削ってきます。
所々で語られる名も無き(まあだいたい名前はついていますが)キャラたちの挿話もいちいち素敵で、物語世界を豊穣にしています。個人的なお気に入りはワイン好きのベテラン医師のエピソード。うつくしいですよ。
34柱『シネマこんぷれっくす!』(ビリー、1巻)
- 作者:ビリー
- 出版社/メーカー:KADOKAWA / 富士見書房
- 発売日: 2017/12/09
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このところ増えている映画おたくマンガではもっとも上品かつ上質な部類でしょう。
扱う作品傾向としては『怒りのロードショー』に近いところがありますが。『怒りのロードショー』が荒削りな若々しさに満ちているとすれば、こちらは非常に洗練された「商品」としてのマンガの美徳が詰まっています。物語、自意識、ギャグ、アティテュードの均整がよくとれている。
映画オタクネタが連発されますが、いちいち丁寧に解説してくれるため、映画にそんなに詳しくない人にも安心な出来です。
35柱『僕はまだ野球を知らない』(西餅、1巻)
- 作者:西餅
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/08/23
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圧倒的な機械工作マニアっぷりを土台にしたものづくりの喜びに溢れたマンガ『ハルロック』や演劇マンガ『犬神もっこす』でユニークな印象を読者にうけつけながらも、なーんかいまいち読まれてない感じのする西餅先生の高校野球マンガです。
簡単に言えば、セイバーメトリクスを含めた最新の野球を弱小校に取り入れて勝つ話。
高校野球にセイバー導入するのってどうなの? トーナメント方式には通じないんじゃなかったの? という読者の素朴な疑問を持ち前の工学力(というか工作力)で慌てず騒がず地道にクリアしていきます。
理屈で勝ちましょう系の高校野球マンガはわりと既出ですが、ここまでガッツリセイバーを取り入れたものはなかったはずです。とりあえず、何か新規性のある野球マンガを読みたい向きに。展開自体はわりとこの系統の「王道」を行っている印象ですが。
36柱『銀河の死なない子供たちへ』(施川ユウキ、1巻【上下巻?】)
- 作者:施川ユウキ
- 出版社/メーカー:KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2017/09/27
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作を経るごとにどんどんヤバさを増していく(『美しい犬』を読むべし)永遠の暗黒成長期作家こと施川ユウキ先生ですが、今回もまあヤバい。なんかもう、ヤバい以外の語彙は評言としてぜんぶ適当でない感じがする。
一応話を説明しておくと、よくわからない不死身の一家がよくわからない世界で動物などと戯れながら死と生を考える物語で……やっぱりよくわからないな。主人公の女の子はラップが趣味です。よくわからないな。
こうやって言葉を尽くして語っている身にあっては悔しいものですが、読んで感じるしかないマンガというものも世の中にはあります。
そんな作品のひとつです。
37柱『あらいぐマンといっしょ』(横山旬、1巻【上下巻?】)
- 作者:横山旬
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/04/24
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結婚直前に雷に打たれて気を失った主人公が目覚めたのは三年後。どういうわけか彼の意識は幼少時代からの宝物であるあらいぐまのぬいぐるみに憑依しておりました。行方しれずになった婚約者をさがすため、流れで共連れとなったマッチョ金髪なバカパンクスと車に乗り込んでさあ珍道中のはじまりです。
『変身!』で青い性欲とメタモルフォーゼへの渇望をいかんなくふりまいた横山先生。しかしもちろん三巻ぽっちで収まるようなオブセッションじゃあありません。今回もシズル感満載の濃ゆい画風で、暖かくもどこかグロテクスな人間模様を提供してくれます。
ところで『銀河の死なない子供たちへ』もそうですけど、1巻目の時点で「上巻」って文字を目にすると、こういう記事で紹介するか迷うんですよね。最長でもあと二巻以内に完結するとわかっているわけですから。勝手なコンセプト考えたのはこちらですけれども。
38柱『魔法少女おまつ』(吉元ますめ、1巻)
- 作者:吉元ますめ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/11/22
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江戸時代で繰り広げられる変則魔法少女ギャグマンガ。1巻目はまるまる契約を欲するマスコットキャラとそれを拒否する魔法少女候補町娘の掛け合いに終始します。
『くまみこ』で花開いた吉元ますめ先生ですが、同時並行での新連載となる『おまつ』ではさらなる高みへと挑戦しています。
恐るべきはあとがきに記してあるエピソード。「とりあえず編集との話あいで『時代劇』をやることだけが決まる(わかる)」→「昭和の絵柄で描いてみたいという欲求が湧く(まあわかる)」→「杉浦茂の本を読む(当然だね)」→「『くまみこ』とはまた一味ちがう新画風を編み出す(よくわからない)」がするりとできてしまう。
飽くなき開拓者精神こそが作家を進化させ、進化できる作家を人は天才と呼びます。本書は吉元ますめ先生の天才の証明書です。
39柱『アラサークエスト』(天野シロ、1巻)
- 作者:天野シロ
- 出版社/メーカー:少年画報社
- 発売日: 2017/09/30
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思い出は常にうつくしい。『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』での溌剌とした天野シロ先生も記憶にあっては至福の風景です。
長年に渡る『キングダムハーツ』の折り目正しいコミカライズ生活は、あのころの自由さを天野先生から奪ってしまったのでしょうか?
答えは本作にあります。
ジャンルとしては最近流行りのウィザードリィ系ダンジョンリミックスもの。主人公の魔法使いベア(三十二歳、処女)は「若さ」に執着し、若返りの古代魔法「アンチエイジング」(どうだこの直球さ)を求めて、女性だけのパーティを組みます。
ファンタジーRPG的な雰囲気が基調になっているものの、なぜかベアの部屋が現代的なマンションっぽかったりテレビなどといった文明の利器がひととおり揃っていたりオタクはスウェットを着ていたりSNSもあったりで、わりと世界観はグラグラ。
大丈夫かコレ? みたいな危惧を抱いて読み進めていくうちに、いや「このテーマ」を描くにはこういう世界観じゃないと、と思い直します。
その「テーマ」とは「夢への追うこと」。ベアを中心に展開されるのはいずれも「若さ」にまつわるエピソードなわけですが、それは換言すれば、自分の過去と現在を捉え直す話を描くことでもあります。
過去があって現在の自分がいる。そのことがわかっているはずなのになぜ「若さ」を探求するのか。未来に「失われたはずの過去」を置こうとするのか。
ベアはあるエピソードでその現実を突きつけられます。ある化粧技術に長けた老婆から「自分もかつてはアンチエイジングの魔法を探したが、結局見つからなかった。あんなものは実在するかどうかわからないのだから、諦めて別の道(化粧など)を極めたほうがいい」と諭されるのです。
しかし、ベアはその助言を峻拒します。「諦めた方の負け惜しみは聞きたくはありません。あなたの美への探求はすばらしい、だけど私の追求を止める必要がどこにありますか。私はあなたと別の道を行きます」と。
そのあと彼女の「なぜ自分は『若さ』に固執するのか、本当にほしいものは何か」の吐露がはじまるのですが、そこの語りのなんと感動的でなんと普遍的なことか。この瞬間に本作が現代との折衷的な世界観であること、そもそも本作がダンジョンRPGの形式でなければならかったのかといった疑問が一挙に肯定へと反転します。
ここまで誠実に「なぜ冒険者はダンジョンで冒険するのか」を自問して解答を出してくるマンガもなかなかないでしょう。
そしてそれは同時に「『キングダムハーツ』後の天野シロ」の読者に対するアティチュードの表明でもあるのです。あの人はここにいます。
40柱『ど根性ガエルの娘』(大月悠祐子、3巻)
- 作者:大月悠祐子
- 出版社/メーカー:白泉社
- 発売日: 2016/11/01
- メディア:Kindle版
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いったん角川で出して途絶したものの語り直しなので、新連載扱いでいいでしょう。
カンブリアのように爆発的に増殖しまくっている毒親体験談エッセイマンガの嚆矢とも(たぶん)言える作品。*10
作者は70年代にマンガとアニメで大ヒットを記録した『ど根性ガエル』の原作者、吉沢やすみの娘さん。吉沢先生は『ど根性ガエル』以降プレッシャーからスランプに陥って、ギャンブルや酒に溺れるようになり、自殺未遂まで起こすように。90年代に入るとほぼ漫画家としては廃業状態。一家の家計は看護師である母親の肩にかかるようになります。
父も壊れていけば母もまた壊れます。ギャンブル費用のために娘の金まで盗むようになった父親を母親は必死で擁護し、娘がいくら被害を訴えても認めようとはせず、「嘘をつくな」「全部あんたが悪い」「どうして私が頑張ってまともな家族を取り戻そうとしているのにあんたは邪魔するの」と全面的に娘を責めます。
こんな状況で思春期を過ごして病まないほうがどうかしているでしょう。短大を卒業するころには大月先生はついに拒食症のひきこもりと化してしまい……というまあ、とにかく機能不全家族の陰鬱な思い出が赤裸々に語られます。体験自体の異常さもありますが、まんがとしてフツーにうまく見せてくるので読んでて抉られます。
それでも悲惨一辺倒に落ち込まないのは、「現在」における回復した一家の姿を合間合間に挿入してくれるからです。この手の雨は止むとは限らないものですが、少なくとも大月先生は40代になって親と和解し、自分なりの幸福を築くことができました。
ある種の覗き見的な残酷物語ショーといってしまえばそれまででしょうが、サバイバーの証言というのはどんな時代でも価値を持つものです。
おなじく漫画家転落物語として、のむらしんぼの『コロコロ創刊伝説』も推しておきましょう。
来るべき32の獣たち
ここからは将来性溢れる作品たちの紹介。このままいくと書いてる方も表示するブログの方もパンクするので、一文二文でおさめるようにがんばっていきたいと思います。けして飽きたとか疲れたとかではないです。けして。
41柱『貧民、聖櫃、大富豪』(高橋慶太郎、2巻)
- 作者:高橋慶太郎
- 出版社/メーカー:小学館
- 発売日: 2017/09/19
- メディア:コミック
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FGOでキャラデザをやった漫画家がオリジナルで聖杯戦争をやる。ただしいよ、高橋慶太郎先生。あなたは圧倒的にただしい。若干スロースターターの気がありますが、キャラ描写があったまってからが本番。
42柱『漫画の森から女子高生』(美川べるの、2巻)
- 作者:美川べるの
- 出版社/メーカー:竹書房
- 発売日: 2017/03/30
- メディア:コミック
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常にマンガの枠組とメタネタに挑戦しつづけるハードコアギャグファイター美川べるの先生が一番輝くのは、もちろん漫画家ネタをやるときでありますな。私は美川べるの作品は何読んでも笑える性分なので、他の人が果たしてマッチするかどうかで正常な判断ができません。
43柱『七都市物語』(原作:田中芳樹、漫画:フクダイクミ、1巻)
- 作者:田中芳樹,フクダイクミ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/11/09
- メディア:Kindle版
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地軸が傾いてやばいことになり大陸がむっちゃ変形した近未来の地球を舞台にヤン・ウェンリーみたいな智謀の師がひょうひょうとこずるく立ち回る。『銀河英雄伝説』(道原版、フジリュー版ともに)、『アルスラーン戦記』、そして同じく新連載枠である『天竺熱風録』(画・伊藤勢)と、田中芳樹原作にハズレなしのジンクスは健在。
44柱『マッドキメラワールド』(岸本聖史、1巻)
- 作者:岸本聖史
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/11/22
- メディア:Kindle版
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ポストアポカリプス人外サバイバル。冨樫義博のデザインするような魔物しか存在しない地獄です。さすがに腹蹴られた衝撃で卵をぼこぼこ吐き出す人外女の絵面見せられたら何もいえねえ。姉漫画かどうかは審議中。
奇っ怪世界で地獄生物に襲われるSFはつばな先生の『惑星クローゼット』もメンションに値します。
45柱『マグメル深海水族館』(椙下聖海、1巻)
- 作者:椙下聖海,石垣幸二
- 出版社/メーカー:新潮社
- 発売日: 2017/12/09
- メディア:コミック
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深海生物好きが昂じて水族館で働くようになった青年の成長ロマン。この手のお仕事ものとしては、うんちくとストーリーの塩梅がうまい。ちゃんとキャラ立てにうんちくを従属させている。
46柱『竜と勇者と配達人』(グレゴリウス山田、2巻)
竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者:グレゴリウス山田
- 出版社/メーカー:集英社
- 発売日: 2017/02/17
- メディア:Kindle版
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剣と魔法のファンタジー世界と中世ヨーロッパの法体系とのマッシュアップ。現実の知識に裏打ちされているぶんだけあって、世界観は骨太。ファンタジー版『大砲とスタンプ』っぽい雰囲気もまとっている。
47柱『私は君を泣かせたい』(文尾文、2巻)
- 作者:文尾文
- 出版社/メーカー:白泉社
- 発売日: 2017/05/29
- メディア:Kindle版
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コミュニケーションが下手な人たちによる百合。モノローグで考えすぎてしまう系の主人公にあんまハズレはないですよね。
48柱『セレベスト織田信長』(ジェントルメン中村、1巻)
- 作者:ジェントルメン中村
- 出版社/メーカー:リイド社
- 発売日: 2017/09/22
- メディア:Kindle版
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特濃とんこつ味。野蛮でありつつも洗練されている。系統的には『五大湖フルバースト』みたいなかんじ、と言えばだいたいわかってもらえるはずで、わからない人は別にわからないままでいいです。そういう人生もあるだろう。
49柱『1122』*11(渡辺ペコ、2巻)
- 作者:渡辺ペコ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/05/23
- メディア:Kindle版
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妻公認のもとで不倫を営む夫、ふたりの奇妙で頭でっかちな夫婦生活を描いたマンガ。70年代っぽくてナウいじゃん、などと思っていたら当然すべて綺麗事で進むはずもなく……みたいな。結婚後の男女の性欲をなんとなく情に流すのでなく、統計などを駆使して真摯に向き合おうとするマンガは珍しい。長文のセリフでドライブしていく女子会の様子もよい。
50柱『ドレッドノット』(緋鍵龍彦、1巻)
- 作者:緋鍵龍彦
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/11/07
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・とりあえず第一話で殴ってくる系なので、とりあえず上のリンクから読んでみてほしい。単なる出落ちにとどまらず、扱ってる題材がちゃんと作劇の手法とリンクしているのが好ましい。
51柱『パンクティーンエイジガールデスロックンロールヘブン』(ハトポポコ、1巻)
パンクティーンエイジガールデスロックンロールヘブン(1) (バンブーコミックス)
- 作者:ハトポポコ
- 出版社/メーカー:竹書房
- 発売日: 2017/01/30
- メディア:Kindle版
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この人の四コマにはアクセルペダルとニトロブースト用スイッチしかついていない。だから誰も追いつけない。
52柱『人形の国』(弐瓶勉、1巻)
- 作者:弐瓶勉
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/05/09
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第一話でかわいい戦闘少女をを出せばパンピーにもちょう売れるということにやっと気づいた弐瓶勉先生にもはや死角などなく、なんとなれば進化をまだ四段階ほど残している。
53柱『バジリスク桜花忍法帖』(原作:山田正紀、漫画:シヒラ竜也、キャラ原案:せがわまさき、1巻)
バジリスク ~桜花忍法帖~(1) (ヤンマガKCスペシャル)
- 作者:シヒラ竜也,せがわまさき,山田正紀
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/11/06
- メディア:コミック
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原作には複雑な気持ちが去来するけど、やはりせがわデザインに乗せた瞬間になにもかも許せてしまう。いかつい武士同士のキッスに1ページまるごと割く暴力よ。
54柱『アマネギムナジウム』(古屋兎丸、2巻)
- 作者:古屋兎丸
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/04/21
- メディア:コミック
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イカれた女が自分で作った球体関節人形たちのギムナジウムで幻想に耽る話。『帝一の國』でシリアスな笑いを完璧に自家薬籠中の物にした古屋先生の職人芸を見物できる。自分で設定したはずの世界や人物にふりまわされてしまう作家的な苦悩がなんと滑稽なことか。関係あるようでないですけど、古屋先生が前にコミカライズしてた太宰の『人間失格』を、今度は伊藤潤二がホラー風味全開でやってますね。
55柱『男爵にふさわしい銀河旅行』(速水螺旋人、1巻)
- 作者:速水螺旋人
- 出版社/メーカー:新潮社
- 発売日: 2017/12/09
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懐かしい匂いのするスペースオペラ。特に確変とかは起きてないときのいつもの螺旋人先生。
56柱『放課後ていぼう日誌』(小坂泰之、1巻)
- 作者:小坂泰之
- 出版社/メーカー:秋田書店
- 発売日: 2017/10/20
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女子高生が部活で釣りをする。長崎弁のレベルが高い。絵がいい。リズムがいい。扱ってる対象に一切興味がなくても読ませてくれる日常マンガはそれだけですごいんですよ。活きのいい新人みつけてきたなあ。
57柱『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』(KAKERU、1巻)
科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌 1 (チャンピオンREDコミックス)
- 作者:KAKERU
- 出版社/メーカー:秋田書店
- 発売日: 2017/11/20
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異世界転生人外娘形態考察マンガ。頭で考えた設定を十分になじませきれてないきらいはあるけれど、その性欲は応援したい。社会的生態の考察やエロもあるよ。異世界転生といえば『Dr.STONE』の存在をすっかり忘れていたけれど、リストを作ってしまったあとなのでどうにもならない。
58柱『大蜘蛛ちゃんフラッシュバック』(植芝理一、1巻)
大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック(1) (アフタヌーンコミックス)
- 作者:植芝理一
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/10/23
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時間SFマザコン漫画。あいかわらず植芝理一はどんなふうにつきあったらよいのかわかりませんが、これは設定で勝ってる。似てるようで全然似てないけれど、母ものなら押見修造の『血の轍』もありましたね。
59柱『ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画』(インカ帝国、1巻)
ラッパーに噛まれたらラッパーになる漫画 1巻 (LINEコミックス)
- 作者:インカ帝国
- 出版社/メーカー:日販アイ・ピー・エス
- 発売日: 2017/11/15
- メディア:コミック
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ラッパーに噛まれたらラッパーになるんですよ。フリースタイルダンジョンの影響か、最近同時多発的にラップ漫画が増えているらしいですが、これはラッパーの監修がついていない点でめずらしい。出落ちかと思いきやゾンビ化を文化ムーブメントとして読み換えることである程度のディティールと強度を生み出すことに成功しています。特にゾンビ仲間からリスペクトを捧げられると死んだゾンビが生き返る(死んでるんですが)くだりが最高。一方で素人目にもこの題材を扱うにはちょっと危うい部分があるのでは、と思ってしまう部分も。エピソード間に挟まってる人物紹介ページがなかなかキテいます。
60柱『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』(オノ・ナツメ、1巻)
ハヴ・ア・グレイト・サンデー(1) (モーニングコミックス)
- 作者:オノ・ナツメ
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/12/21
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日本人小説家とその息子(日米ハーフ)と娘婿(日本人)とのほんわか同居生活。オノナツメは常に安定しています。この安定っぷりにはもはや枯淡のあじわいすらある。でもマンネリかというと、やっぱりちょっと違うんですよねえ。
61柱『昭和天皇物語』(漫画:能條純一、原作:半藤一利、脚本:永福一成、監修:志波秀宇、1巻)
昭和天皇物語 │ ビッグコミックオリジナル連載中 昭和天皇を愛でるというよりは昭和天皇の周囲でおろおろしてる偉人たちを愛でるためのマンガ。題材が題材であるためか、制作陣営がなにげに豪華。
62柱『サーカスの娘オルガ』(山本ルンルン、1巻)
- 作者:山本ルンルン
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/09/15
- メディア:コミック
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サーカスに引き取られた孤児オルガの甘い恋のメロディ。山本ルンルン先生はこうやってときどきやればパンピー向けのものをかけるんだアピールをかかしません。ある程度とんがった独自性みたいなのを保ちつつ、このレベルで話まとめられる作家って、希少ですよねえ。
63柱『ノイン』(高橋ツトム、1巻)
- 作者:高橋ツトム
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/09/06
- メディア:コミック
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ヒトラーのクローンをいっぱい作ったはいいけどなんか邪魔になったので皆殺すことに決めました、っていうナチス漫画。1巻だとまだジャブ程度しか明かさず、どうやって転がるかの期待感が煽られます。
64柱『北北西に曇と往け』(入江亜季、1巻)
- 作者:入江亜季
- 出版社/メーカー:KADOKAWA
- 発売日: 2017/10/13
- メディア:コミック
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入江亜季先生待望の新連載はアイスランド漫画。ミステリものは基本的に温まるまで時間がかかるものですが、わりと矢継ぎ早に展開をこなしていくので退屈はしません。というか、入江亜季は絵を眺めているだけで幸福です。
65柱『鉤月のオルタ』(麻日隆、1巻)
- 作者:麻日隆
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/10/06
- メディア:コミック
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このところの歴史冒険ものはいかにニッチな題材を掘り当てるかがキーとなっている感がありますが、わけても十六世紀のオスマン帝国が舞台で、イエニチェリが題材、という本作はさらにめずらしい部類に属するでしょう。中身は少年マガジン風味の貴種流離譚復讐劇。
66柱『異種族レビュアーズ』(原作:天原、作画:masha、1巻)
- 作者:masha
- 出版社/メーカー:KADOKAWA / 富士見書房
- 発売日: 2017/09/08
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人外娘風俗をクロスレビューする漫画。センス・オブ・ワンダーというのはこんなところにも生えているものなのだなあ、って点ですなおに感心させられます。
67柱『針棘クレミーと王の家』(唯根、1巻)
針棘クレミーと王の家(1) (バンブーコミックス MOMOセレクション)
- 作者:唯根
- 出版社/メーカー:竹書房
- 発売日: 2017/12/16
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ソロモンの指輪っぽいもので動物と会話できる英国紳士とそのペットたち(ハリネズミ、ネコ、犬)との日常。とにかくかわいい。かわいさのメガ盛り丼や。かわいいオブザイヤーを授けましょう。純粋なかわいさ比べでいったらリュウコミックスの『恐竜の飼い方』もよい。
68柱『イサック』(原作:真刈信二、漫画:DOUBLE-S、2巻)
- 作者:真刈信二,DOUBLEーS
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/07/21
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1600年代のヨーロッパで仇をもとめる日本人銃士が籠城戦します。なにげに史実ベース。緻密な作画で大量の兵士がわちゃわちゃしてるマンガは貴重なので死なない程度にこのクオリティを維持していただきたいものです。
69柱『きみを死なせないための物語』(吟鳥子、2巻)
- 作者:吟鳥子
- 出版社/メーカー:秋田書店
- 発売日: 2017/04/14
- メディア:Kindle版
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極端に長生きなポストヒューマンが極端に短命な種族を愛してしまったがゆえの悲劇。考えたSF設定を伝えたいあまりにセリフが不自然に先走ってる感があるものの、その生硬さがむしろ道徳&理論優先プチ管理社会のヤクさ描写にプラスに働いています。あとネットにおけるアイドルファンダムの描写がやたら現代的でウケる。
他にもSFなら田中相の『LIMBO THE KING』も2000年代初頭的なソリッドさがあります。
70柱『青高チア部はかわいくない!』(conix、1巻)
- 作者: conix
- 出版社/メーカー:KADOKAWA / エンターブレイン
- 発売日: 2017/07/24
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それぞれ異なる性格や利害を抱えた部員たちがひとところに集まってひとつのことを成す。そのシンクロニシティをな……。意表をつくほどポップな絵柄でありつつも、集団部活ものの快楽は遵守されている。
71柱『魔女と野獣』(佐竹幸典、2巻)
- 作者:佐竹幸典
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/09/20
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スタイリッシュトランス魔女狩りマンガ。顔のいい少女とイカれた男を一粒で摂取できてお得。絵がよい。濃い。
72柱『悪魔を憐れむ歌』(梶本レイカ、2巻)
- 作者:梶本レイカ
- 出版社/メーカー:新潮社
- 発売日: 2017/05/09
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最初は『雪と松』にしようかな、と思っていたんですが、ギリギリで大変重要なBLを思い出して差し替えました。
暴力、セックス、猟奇殺人。梶本レイカは読者に高負荷を与えて愉しむひどいサディストです。
亜種特異点的ボーナストラック
上のリストを作り終わったあとに他人様から教えてもらった良作を追記したく。感謝感謝。
Ⅰ『ランウェイで笑って』(猪ノ谷言葉、2巻)
- 作者:猪ノ谷言葉
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/09/15
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id:l000saysさんからブコメでご教示いただいた作品。*12
週刊少年マンガでファッションモデル&デザインの話をやるという食合せの悪さを月まで跳ね飛ばす、実に力強い「「「「「「夢」」」」」」と「「「「「才能」」」」の王道成長物語。構成や見せ方もよく練られていて、読者に対するうんちくのインストールが必要とされる分野にあって、ここまで疾走感を出せるのか、こういうフレッシュさもあったのか、と感嘆させられます。
これもまた30選に入れたいレベルに好きなマンガなんですけれども、入れ替えるとなったらまた色々考えなきゃいけないので追加ということで。
Ⅱ『少年の残響』(座紀光倫、1巻)
- 作者:座紀光倫
- 出版社/メーカー:講談社
- 発売日: 2017/05/09
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男の子で『ガンスリンガー・ガール』をやるマンガ。
少年! ギムナジウム! 合唱団! 暗殺者! 短パン! 女装! 成長! イノセンスの喪失! とマアとにかく作者の好きな要素全部盛りしたハイテンションな潔さも好感触ですが、癖(ヘキ)のカロリーに反してマンガ作り自体は落ち着きがあって行儀よし。抜群のリーダビリティで、読者のことをちゃんと考慮してあるんだなあという印象。
そのぶん。もう一声のブレークスルーが欲しいところではあります。が、元々の掲載誌から弾かれて漂流していたらしい(作者twitterによれば移籍先探しは完了した模様)身上が本稿の趣旨と合致いたしましたので、ここで取り上げておきたく存じます。
Ⅲ『摩擦ルミネッセンス』(二宮ひかる、1巻)
- 作者:二宮ひかる
- 出版社/メーカー:芳文社
- 発売日: 2017/08/16
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id:tokoroten999さんからのご紹介。ありがとうございます。
二宮ひかる初体験だったんですがええ姉漫画どすなあ。
クラスの問題児のうちへ家庭訪問にやってきた高校教師が、そこで出会った生徒の姉とねんごろになってしまう。生徒はそのことをネタに奨学金の推薦を強請ってくる。最初は「ハメられた」(二重の意味で)と悔やんでいた教師だったものの、生徒の姉とつきあっていくうちにだんだんと複雑な家庭事情に触れていき……というかんじ。
ファム・ファタールたる姉のキャラクターが絶妙。病んだブラコンであり、すっかり彼女に依存しきった弟をみかねた教師から「姉離れ」を薦められるものの、言下に拒否。
「私とあの子を引き離そうとなんかしたら許さない。
殺しちゃいます。」
とまで宣言します。
ああ、良い姉ですねえ、などと浸っていると、男性教師は男性教師で「僕はこのときはじめて ほんとうに彼女のことを好きになったかもしれない」などと抜かす。
誰もが病んでいる世界だ。すばらしいな。
Ⅳ『剣姫、咲く』(山高守人、2巻)
- 作者:山高守人
- 出版社/メーカー:KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/03/25
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@simiteru8150 さんから肉を食ってるときにご紹介いただきました。百合にくわしいね。
女子剣道マンガです。サイコパスめいた天才めちゃつよ剣道至上主義新入生が強豪校の剣道部に道場破り同然で入部。暗い過去をもつ努力家のチビ剣士とともにやたら芝居がかった女子剣道界でサクセスしていくやつです。『武装少女マキャヴェリズム』と『ヴィラネス』を足して『咲』で割ったシブい味わいだと言えば、何かがつたわるようで何も伝わりませんね。
スポ根マンガの正道で、当然、才能の話を中心に展開していくわけですが、物語の中心となる「壊れた天才」の描き方が実に丁寧でなめらか。こういうのはただ壊せばいいというもんじゃないんですよ。いかに愛されるように壊すかなんですよ。
肝心の試合シーンも躍動感があって見せ方に長けている。安心して読めるキチガイバトルマンガです。
Ⅴ『斑丸ケイオス』(大野ツトム、2巻)
- 作者:大野ツトム
- 出版社/メーカー:白泉社
- 発売日: 2017/04/28
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オオカミ書房さんの紹介記事で知りました。
最強の女忍者・白夜に捨て駒にされた弟子・斑丸が、女忍者のもとに戻るために敵である妖怪的存在「ヌシ」と手を組み彼女を追うファンタジー時代物。
裏切られたにもかかわらず百夜を慕いまくる斑丸の犬っぷりがプロットにアクセントを加えていて、いい意味で一筋縄ではいかない。敵味方のキャラクターがよく立っていて、それだけで読ませてくれる魅力を有しています。
漫理の終わりに
いかがでしたでしょうか。
雑誌やジャンルごと視野に入ってない作品群があるうえに、完全に趣味と嗜好で選んでしまったので、アレが入ってないコレが入ってないといったご意見もあろうかと存じます。そもそも何を存続させて何を存続させないのか、私の一存で決めるのは無茶なのではないかと。
なればこそ、あたらしきマスター。
あなたがあなた自身の命題を発見するのです。
そのKindleに、未知の作霊(サーヴァント)を召喚しましょう。
福袋ガチャを回す金でマンガを買いましょう。
そうしていつか、あなただけのヨムデアを完成させましょう。
連載継続保障機関ヨムデアにようこそ。
わたしたちは、あなたを歓迎します。
*1:実在の出版社、団体とは何の関係もございません
*2:twitterによれば有馬先生は新作を執筆中とのことですが
*3:文字通りというか、においに結び付けられた表現がなされている
*4:生物学的知識の正誤というよりは物語世界に馴染んでいるかどうかという意味
*5:稀に倫理的にやばい感じのエピソードが入るのはともかく
*6:翻訳元のレッテルです
*7:使ってみて初めて気付いたが、実に怖気をもよおすワードだ
*8:ハルタの新人は主に「入江亜季っぽい絵」と「森薫っぽい絵」に大別され、高江洲先生は前者です
*9:作中では「百野」と名前が変えてある
*10:追記:元祖は田房永子の『母がしんどい』らしいです。ほー。https://twitter.com/kurapond/status/948614316416155648
*11:修正:すいません、タイトル間違えてました。ご指摘ありがとうございます
*12:来世と倫理については既読。うまいのはうまいんですけれども趣味でなかったので弾いてました……大仰なタイトルつけてはおりますが、究極的には個人的なファブリストなんでもうしわけない