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Steam で遊べるメタフィクションなインディーゲーム入門

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ファッキンホットですわね。
四季がぶっこわれた日本におりますと、季節の感覚がなくなるもんでやんすが、じゃあ令和の日本人はどこに四季の風物を見出しておったかってえ申しますと、それが Steam のサマーセールだったんでございますな。


www.famitsu.com


今年のサマセは6月30日からだそうです。
それを聞きつけた信夫っつぁんがのご隠居の家に顔を出して、

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「おおい、ご隠居、サマーセールでちょっくらいいかんじのゲームをな、ふたつみっつ見繕ってくんな」
と、まあ、こう申すわけです。
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「そんなのはね、おまえさん、なにもあたしに頼まなくても、ゲームサイトとかtwitterとかでセールのたびにオススメソフトをプレゼンしてくれとるやろ。そういうのを見りゃええ」
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「ええ〜、めんどくさい」
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「めんどくさいって。めんどくさくはないよ。スマホをちょいちょいやればええんやし」
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「しかしねご隠居、風情ってもんが……」


めんどくさくなってきた。
枕は投げ捨てて Steam で遊べるインディーのメタフィクションゲームの話をします。
メタフィクションゲームとは、メタフィクションのゲームです。虚構であることに自覚的なゲームです。
なんで「メタフィクショナルなゲーム」などとは呼ばないのかという点に関しては、営業上の機密に該当しますのでお答えできません。
なんでインディーだけかというと BioShockとか NieR: Automata とかも出てきて際限がないからです。
なんで Steam 限定かというと、メタフィクション系は itch.io とかに無限にあり際限がないからです。
以下の文章は去年出した同人誌に載せたメタフィクション系ゲームの紹介リスト記事*1であり、情報もだいたい当時のものです。ちょっとだけ最新の事情や私がその間に遊んだゲームを追加したりもしています。


五大メタフィクションインディーゲームとはなにか。えっ、てか、なに(笑い)

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これは今回条件に該当しないので取り上げないサイコマンティス


 みなさんはメタフィクションなゲームは好きですか。わたしは好きです。おまえが好きかどうかなどどうでもよい。

 そういうわけで、本稿ではsteam 五大メタフィクションゲームを軸にメタフィクションゲームを紹介していきます。
 五大メタフィクションゲーム? なんだそのくくりは、と思われる方もいるかもしれません。正しい疑問です。なぜならわたしが勝手にそう呼んでいるだけ。すなわち、 The Stanley ParableUndertaleDoki Doki Literature Club!OneShot The HEX の五本からなります。これら五本の枝を伸ばしていくとメタフィクションゲームの傾向がわかりやすくなります。なるということにしてください。*2

The Stanley Parable:「ナレーター」に抗う/従う

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The Stanley Parable

 The Stanley Parableはウォーキングシミュレーターと呼ばれるジャンルに属する一本。主人公スタンリーくんに憑依して、3Dのオフィスを一人称視点で歩き回ります。開始時から「ナレーター」による語り、もとい指示が飛んできますが、従うかどうかはプレイヤー次第……といった内容です。もちろん、「ナレーター」が用意した物語に従ってもいいわけですが、愉しいのは徹底して予定調和な流れに反抗していくプレイです*3。とにかくエンディングの数が豊富で、逸脱の数だけエンディングが用意されています。エンディングがあるということはそうした逸脱すらも開発者の用意した物語のうち、というジレンマがあるわけですが、そうしたメタフィクションの原罪さえ気にしなければ非常によく作りこまれたコメディです。ちなみに二〇二二年五月にリメイク版となる The Stanley Parable: Ultra Deluxがリリースされ、大幅パワーアップ。公式日本語も実装。ただ、無印を内包しているとはいえUD版はやはり無印の続編としての側面が強いので、先に無印を別に買ってやったほうがわかりやすいかと思います*4

 The Stanley Parable の作者、Davey Wreden が生み出したもう一つの傑作が The Beginner's Guide。本作で語りかけてくる「ナレーター」はなんと Davey そのひと。彼の友人である謎めいたインディーゲーム制作者 Coda の残した珍妙な作品群を通して、Coda の人柄や苦悩を探っていく……といった内容です。この作品が特異なのは、コンテンツの受け手であるユーザーもまた表現者としての欲を持っているというSNS時代のクリエイター/ユーザーの関係にスポットを当てたところでしょう。余白も多く、深読みを誘うゲームで「真相」を考察したネット記事も多くあがっています。どのように受け取るかはプレイヤー次第ですが、あなたがなにがしかのクリエイター、ないし、日々SNSを利用している人であれば―要するに全人類ですが―ぜひともプレイしていただきたい一本です。日本語MOD有。 
  The Stanley Parable にはもう一人開発者がいます。その William Pugh がてがけたウォーキングシムが Dr. Langeskov, The Tiger, and The Terribly Cursed Emerald: A Whirlwind Heist 。ながったらしいタイトルやんな。これは呪われたエメラルドを手に入れるために博物館へ潜入するステルスアドベンチャー………になるはずだったゲームが、プレイヤーがプレイする直前に不具合をきたしてしまいます。しょうがなくなったプレイヤーは「ナレーター」の指示に従ってゲームの裏方仕事に回ることに。The Stanley Parable のようなボリュームや The Beginner's Guide のような思弁性には欠けますが、そのぶんライトにユーモアを堪能できます。日本語化MOD有。

 逸脱が予定された The Stanley Parable の系譜で代表的なところといえば、ICEYでしょうか。こちらは2Dのメトロイドヴァニアアクション……の体裁で、The Stanley Parable のように「ナレーター」の指示に抗いまくってどんどん逸脱していきます。ゲーム内の世界観とメタ要素が上手くつながっていた The Stanley Parable と違って、やや上滑りなところもありますが、アクションゲームとしてもなかなか作りこまれており、声優も豪華。日本語化MOD有。

 The Corridorはシンプルな3Dウォーキングシム。ボタンしかない回廊に放り出され、そのボタンを押すと「二度とゲームを立ち上げるな」と警告されて強制終了されます。それでもめげずに再度ゲームを立ち上げると……といった内容。コンセプト的には Please, Don't Toutch Anything なども想起させますね。三十分程度で終わります。The Stanley Parable の「ナレーター」がゲームであることを強いてくる存在だとしたら、こちらの「ナレーター」はゲームであることを拒絶してくる存在といえるでしょう。日本語版MOD有。

 ゲームであることを拒絶してくる「ナレーター」の出てくる作品で近年高い評価を受けたのが There is No Game: Wrong Dimension。 ゲームを開始すると「ここにゲームはない!」とロシアなまりの英語でつっけんどんにプレイヤーを追い返そうとしてきます。やるなと言われると、ゲームをやりたがるのがプレイヤーの性というもの。どうにかこうにかしてゲームを始めると、そこには想像以上に深いストーリーが見えてきます。この手の作品としては極めてウェルメイドで、強いていえばそのウェルメイドさが鼻につくほど。トランスジャンル的な点は The Hex などとも似ています。公式日本語有。

 プレイヤーによる反抗とはまた違う味付けでメタとナレーションで戯れているのは Thomas was alone。複数の棒というか長方形を操作して、ステージごとのゴールを目指す、いわゆるプラットフォーマー・パズル・アクションです。それぞれの長方形は特性も名前も性格も異なります。いや、見た目はただの無機質な図形なので個性も人格もないだろ、とおもわれそうですが、それらを肉付けしていくのがプレイ中に挟まるナレーションです。ほとんど実況のような頻度で展開を説明したり、攻略のヒントをくれたり、「トーマスは○○だと思った」といったノリでプレイヤーの図形たちの「気持ち」を教えてくれます。最終的には幾何学的なスクショからは想像できないようなヒューマニスティックな共感と呼び起こしてくれることでしょう。日本ではあまり注目されてこなかった作品ですが、多くのフォロワーやパロディ作品を産んだ古典です。The Stanley Parable やツボおじさんこと Getting Over It with Bennett Foddyなどもそうした文脈に位置づけられる一作といっていいでしょう。残念ながら、日本語版はなし。

The Hex; トランスジャンルなゲームたち

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The HEX

 The Hexの話題が出たので The Hex の話をしましょうか。開発者は Daniel Mullins。誰やねん、とお思いの方には Inscryption と Pony Island の作者といえば伝わりやすいでしょうか。ここに挙げたタイトルからもわかるとおり、メタメタなゲームを作りたがるクリエイターです。
 The Hex はいうなれば、ジャンルごった煮のオムニバスです。というと、『メイド・イン・ワリオ』のようなカジュアルなミニゲーム集を想像するひともいるかもしれませんが、こちらはもうちょっと内省的です。プラットフォームアクション、JRPG、2Dオンライン格闘ゲームトップダウンシューターなどといった六種類のジャンルの主人公たちを操り、かれらの過去、そしてゲーム内で発生すると予告されたある事件の「犯人」を探ります。興味深いのはキャラクターたちのストーリーだけではなく、現代のゲーム文化が批判的にフィーチャーされている点。steam のレビューに左右されるゲームの評価、ユーザーの身勝手な要望によってバランスが崩れていくオンラインゲーム、ゲームをスポイルする動画配信、ゲーム本編をとことん崩壊させていくチートMODなどといったユーザーからすれば当たり前の光景がトキシックで痛々しいものとして描かれます。さきほどふれたジャンル横断的な作りだけではなく、こうしたゲーム文化への批評も There is No Game と共通するところで*5すが、どこまでもウェルメイドさを保つ There is No Game に対して、本作は危ういまでに「個人的」。こうした昏いアングラ感もインディーの魅力です。長らく日本語版はありませんでしたが、二〇二二年にようやく公式日本語化。

 Mullins の steam デビュー作であるPony islandはトランスジャンル(アクションとパズルの往復)、メタな設定と語り(悪魔に呪われた筐体から逃れろ!)、プレイヤーと制作者と作中キャラクターの対立、と、その後も Mullins の特徴となる要素を兼ね備えています。日本語版MOD有……のはずですが、もしかして今はない?

 二〇二一年のインディーゲーム界に衝撃をもたらした InscryptionはMuliins の集大成といってよいでしょう。謎の小屋に閉じ込められて、デッキ構築型カードゲーム(すごろくっぽくRPGを進行していき、その過程でデッキが強化されるタイプのカードゲーム)をやらされる………かとおもいきや、「盤外」にも手を伸ばせることにも気づき……という Mullins 節が効いたメタい一本です。前二作に比べて作品中でのストーリーが飲み込みづらく、かつ未消化な印象を持たれるでしょうが、さもありなん。本作のストーリーを理解するためにはゲーム外にも謎解きが容易されているのです。LARPをはじめとしてリアルでの謎解きが大好きなアメリカ人っぽさ炸裂ですね。作者はカナダ人らしいですが。もちろん公式日本語版あり。
 これら三本の Mullins 作品を通してプレイすると、かれ独特の問題意識や意外なまでのウェルメイド志向がわかります。

 さて、トランスジャンルなゲームはまだまだあります。

 What the golf ?は二〇二一年の暮れに RTA in Japan でバズったこともあり、ご存じの方も多いのではないでしょうか。ゴルフのコースをひたすら回るゲームですが、タイトル通り、「これってほんとにゴルフなの?」とツッコみたくなるようなステージがガンガン立ちはだかってきます。このゲームをやり終えるころにはサッカーも宇宙開発も『アングリーバード』もみなゴルフなのだと悟りを得ることでしょう。日本語版有。余談ですが、ゴルフゲームはなぜかと形式を問われがちな伝統があるようで、変形コース(Golf it! 等)は序の口、ミニマルパズルゴルフカードゲーム(Golf Peaks)、終末世界 (Golf Club Waste Land)、RPGとゴルフの悪魔合体(RPGolf)などバリエーション豊か。マリオですら走りながらリアルタイムゴルフアクションをやる時代ですからね。続編の What the Bat?は両手がバットの子どもの人生を追っていく物語で、野球はまったくしません。
 tERRORbaneはバグだらけのJRPG風ゲームをお茶目なゲーム開発者とやりとりしながら攻略していくジャンル横断型コメディRPG。グリッチを剥がしてマップを上書きしたり、スクリプトを書きかえてオブジェクトを変更したり、いきなりポケモンやカードゲームになったりと、パロディ面を含めてとにかくやりたい放題です。現実のレイヤーをゲーム内に明示的な形で取り込んでメタフィクション風味をもてあそぶ点では、There is No Game や ICEY の「安全に管理されたメタフィクションゲーム」の系譜に属するかもしれません。これはこれでおもしろいサブジャンルだとおもいます。*6
 EVOLAND EVOLAND 2で越えられていくのはジャンルではなく、グラフィックです。ゲームボーイのようなモノクロ画面から始まり、段階的にグラフィックが向上、世界が豊かな色づいていき、最終的には3Dになっていきます。ゼルダライクでパロディに溢れたゲームはお世辞にも快適とはいえず、ストーリーに厚みはないものの(でも2は頑張ってはいます)、表現面で一見の価値はあるといえるでしょう。1は日本語版ありますが、ローカライズに伴う不具合がやや多かった記憶。2は日本語版なし。

 グラフィックが劇的に変わる演出といえば、The Messenger。基本的にはレトロな優良ニンジャアクションなのですが……是非その目で「変化」をごらんあれ。予告動画は見るな。死んだときに語りかけてくる悪魔やショップ屋の店主もバタくさいメタジョークを連発してきます。単純に愉しいアクションゲームでもあるので、メタフィクションにさして興味ない向きにもオススメです。日本語版有。

 異なる世代のグラフィックの世界を行き来するといえば Anodyne 2 もですね。こちらは2Dと3D。厳密にメタフィクションといえるか微妙なところもありますが、トランスジャンル的な一面もあり、なによりめちゃくちゃヘンなゲームなのでやってほしい。ナンバリングタイトルですが、1は未プレイでもよし。日本語版有。

 越境の極北は Glittermitten Groveかもしれません。あまり多くは語れませんが、ストア紹介に載せられているファンシーなサンドボックス系ゲームから最終的にとんでもないところまで飛びます。あまりゲームとしてはおもしろいほうではありませんが、とんでもないことはたしかです。日本語版なし。

 逆にジャンルを増やすのではなく、コアを切り詰めたゲームも存在します。indecision.がそれです。「ハイク・プラットフォーマー・アクション」を自称する本作は、一ステージ数秒から十数秒で終わるプラットフォーマー・アクション(要するにマリオみたいなゲーム)を次々とやらされるミニゲーム集です。極限までそぎ落としたわびさびの美。同作者(Bilge Kaan)は stikirという、「ゲーム作りに悩むインディーゲーム制作者」を主人公にしたアクションゲームをリリースしており、そちらもメタいです。どちらも日本語版はありませんが、特に問題なくプレイできます。

undertale:アンチジャンル

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Undertale

 複数のジャンルを往来するゲームもあれば、特定のジャンルの意義を徹底的につきつめるゲームもあります。
 undertaleは「RPG」の在り方に愛情深く疑義をつきつけたアンチジャンルの傑作でした。経験値やレベル、そして戦闘といったRPGのシステムが奥底で意味するものを単位露悪以上の深度で物語に組みこんだのです。むろん、そうした問題意識を含んだゲームは undertale が最初ではなかったわけですが、ともかく、undertale はその後のインディーゲームシーン、インディーにおけるメタフィクションへの意識を決定的に変えた一本であることは疑いありません。公式日本語版有。
 アンチジャンルにおける steam の古典といえば、Spec Ops: The Line。戦争TPSです。一応シリーズらしいのですが、完全に独立したタイトルです。戦場で気持ちよく無双して敵兵を虐殺すること。戦争を題材にしたゲームにつきまといがちなその背徳的な快感に、このゲームは真正面から問いかけてきます。「それでいいのか」と。その問いかけ内容そのものだけでなく、「どこでどう」問いかけられてくるのかも必見です。無抵抗の市民を虐殺するイベントが物議を醸したCall of Duty: Modern Warfare II (二〇〇九年)の文脈を踏まえると、よりどう時代的な批評性を感じられます。 わりと古めのゲームというのもあり、「steam のインディーでメタ表現」といえば、まず名が挙がる一本です。日本語版有。

proxia.hateblo.jp
(Spec ops関連記事)

 昔のコンシューマ機で発売されたゲームは扱うかどうか難しいところですが、大古典(一九九七年発売)として moon は外せないか。元はPS1で発売された作品ですね。プレイヤーである少年がある夜に自分がプレイしていたゲームの世界に吸い込まれてしまいます。その世界では(かつてプレイヤーが操作していた)勇者は勝手に民家に押し入って泥棒はするわ、いたいけな犬をいじめるわ、とにかく悪評紛々たる人物でした。 少年は女神様から”ラヴ”を集めるようにいいつけられ、へんてこ世界に住むへんてこな住民たちと交流していきます。RPG的な世界観を基調にしながらも、戦闘がないのがいかにもアンチジャンル的。undertale を一部先取りしていたといえるでしょう。RPGでいえば、YIIK: A Postmodern RPGも文字通り「ポストモダン」であるそうなのですが、プレイがタルいのでクリアできていません。日本語版有。

  I (don't) Hate Hentai Puzzlesはアンチジャンルはアンチジャンルでも、マイナーなジャンルに眼をつけた一本。CEOの失踪により滅びかけた Steam(作中では St. EeM)。かつてのような多様なゲームを愉しむ風土はなくなり、ヘンタイパズルゲーム(簡単なパズルを解くとエッチな絵を閲覧できるようになるゲーム)がランキングを独占する地獄の有様になっていました。愛するプラットフォームの惨状を憂えていた主人公でしたが、「これだけ人気ということは、もしかしておもしろいのかも……」とランキングトップのヘンタイパズルに手を出します。これがまあ、クソみたいな出来なんですね。生粋の Steam ユーザーである主人公は怒りの「オススメしない」レビューを投稿します。すると、全 Steam ユーザーがそのレビューに逆上して非難を浴びせてくるのです。はたして、Steam に何が起こっているのか……という陰謀論的ヘンタイパズルシミュレーターADV。ピクセルドットで再現された Steam のブラウザからヘンタイパズルを購入・プレイしたり、他ユーザーと交流を行ったりするインターフェイスもユニークです。雰囲気は非常に良いのですけれど、ボリュームが少ないうえ、やや尻切れトンボ気味で終わるところが玉に瑕。日本語版は今のところありません。

 王道勇者ものが好きなら Reventureも。城で王様に謁見し、「お姫様を助けてくれ、勇者よ!」頼まれる王道横スクロールアクションRPGに見えますが、実は究極的には「クリア」は目的ではありません。本作の真の目的は百個以上存在するバッドエンディングを収集すること。雑魚に殺される、毒沼に落ち、自分の仕掛けた爆弾の爆風に巻き込まれ、王様を弑して王位を簒奪したのちに自分も部下に裏切られて暗殺されたりしていきましょう。プラットフォーマーの本質が「重ねられていく無様な死」であることに着目した希有なコメディです。日本語版有。

 そもそも二〇一〇年代以降のインディーゲームシーンは2Dプラットフォーマー・アクションに対するアンチから始まったといっても過言ではないかもしれません。ジョナサン・ブロウの Braidは、最初は時間巻き戻しギミックをフィーチャーしたパズルアクションとして現れます。主人公の目的は「プリンセスを救い出すこと」。いかにもマリオめいたヒロイックなセッティングですが、ゲーム内で日記の断片を見つけて読んでいくごとにどうも不穏な雰囲気が強まっていきます。ステージをクリアした後にキノピオよろしく登場するぬいぐるみたちにもプリンセスの行方がわからない。そうして、プリンセスの謎がゲームのギミックとも絡んできます。
 ゲームは規則によって成り立っています。ゲームを疑うなら、そのゲームを成している規則を疑っていくこと。それが次の世代のゲームを生んでいく。二〇〇九年に発売され、後のインディーゲームバブルの嚆矢となったBraidは、その背中でもってインディーの心意気を後進たちに伝えたのです。日本語版有。
 ちなみにブロウはメタが好きというよりは自分が好きすぎる結果創作物も自己言及的になってしまうタイプだと思うのですが、最高傑作といわれる3Dパズル The Witnessもそのうちか。*7

 

Doki Doki Literature Club!(『ドキドキ文芸部!』) :メタフィクションに向いた職業ーーヴィジュアル・ノヴェル

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ドキドキ文芸部

 Doki Doki Literature Club!はアンチ恋愛シミュレーションといった趣のADV。そういうとネタバレになるから難しいですね。さっきのはうそ。かわいい女の子たちとなんのジャンプスケアもなく平和に遊んで暮らすゲームです。グレードアップ版となる有料版が出ていますが、メタ表現的にはむしろ後退しているので、無料版をプレイした方がよいです。満足したら、お布施のつもりで有料版を購入しましょう。追加シナリオもついてるよ。有料版は公式日本語有で、無料版は有志MODだったように記憶しています。

 DDLCを切り口にするのであれば、当然、ノベルゲーやテキストドリヴンのADVにおけるメタフィクション作品に言及していったほうがよい気もします。事実、Steam には同人・商業問わず、ノベルゲームの古典的な有名タイトルや野心溢れるタイトルが溢れています。*8最近は特に日本の古典作品が沢山入ってきている気がする。そうした観点でいえば、DDLC自体は出た当時はジャンル的にそんなに新しいことをやっているわけではなかった。

 ですが、ここではあまり深入りできません。わたしはエロゲ・同人ノベルの文脈をほとんど通過してきておらず、その流れを汲むノベルゲームもまた不案内です。本稿が真正面からのメタフィクションゲーム論を避けている理由もそこにあります。他の言語圏ならいざしらず、少なくとも日本語圏でエロゲ(死語となっている感もあるけれど美少女ゲームともいう)の積み重ねてきたメタフィクション表現の歴史を踏まえずにメタフィクションゲームを語るのはなんとも心許ないのです。とは言い条、ここでこうして現に語っているわけですが。

 というわけで、筆者の数少ない経験から絞り出せるタイトルといえばハイ、これ。ドドン。『レイジングループ』。人狼ゲームみたいな儀式に巻き込まれて何度も死に戻りを繰り返し、生存ルートと儀式の秘密を探る伝奇ループADVです。ループものというのはメタフィクション要素でもやや特殊な立ち位置でして、「ゲーム内のキャラクターがループ現象を自覚した途端に、その世界を現実と信じているにもかかわらず、虚構的な感覚で受け取ってしまう」ものです。ループを繰り返していくうちに「どうせまたこいつら(自分も)生き返るんだから」と投げやりになっていくアレですね。ループものでは映画『恋はデジャ・ヴ』のころからどの作品でも必ず一度は生じる無気力症で、最近の海外のループものではその永遠に繰り返さざるを得ない徒労感から物語がスタートする作品が増えていますが、そもそもループという現象そのものがゲーム的な現実感覚から……話が逸れました。ゲームのループですね。ループの出てきて、作中のキャラがそれを自覚的に利用するのであれば、それはメタフィクションゲームです。このくらいのスタンスでええんちゃいますか。『レイジングループ』はとにかくストーリーの思い切りがよいです。自分が吊られたり襲われたりを避けつつ、狼の正体を探っていかねばならない、という人狼ゲームのキモをノベルゲーム的なシステムとシナリオでちゃんと完遂しているのは驚くべき偉業といってよいでしょう。ギャグパートのノリにはついていけない人も多いでしょうが……まあ、そういうものなので。ループ以外の点でもメタ要素が配されてもいます。ケムコってインディーなんですか? うーん、どうだろ。日本製なので日本語版有。

 ループに自覚的な人狼モチーフで『レイジングループ』と双璧を成すもうひとつの傑作に『グノーシア』もあります。こちらも『レイジングループ』とはまったく別のアプローチから人狼のゲーム化を成功させた作品です。人狼ファンも、そうでない人にもマスト。日本製。*9
 メタ表現を含むミステリアドベンチャーでは、『春ゆきてレトロチカ』も見逃せない一本。ドラマパートはなんと実写で展開されます。しかしそこに流れる血は間違いなくノベルゲーム・ミーツ・新本格。ここまで言ったらネタバレ同然になってしまうのが、ミステリゲーム紹介の難しいところですね。「映像を使ったゲームでしかできない仕掛け」を達成しているのは間違いありません。もちろん、オール日本語。メタ表現から少し離れますが、近頃は実写映像をフルに用いたインディー作品も増えてきたのが興味深い。レトロチカはスクエニですが。っていうかスクエニはあきらかにインディーじゃないですが、ほらスピリットがね。
 スクエニの近年のチャレンジングなADVタイトルだと『パラノマサイト』なんかもおもしろかったですね。なにせ、ゲームを起動するとプレイヤー名の入力画面が立ち上がり、入力するとパソコンに登録しているユーザー名のほうで呼ばれます。PS版の Serial Experiments Lainかよ。こういう態度なので伝統芸能みたいな滋味のあるメタネタが歌舞伎のようにキマりまくった感じでお出しされてきます。それらは手なづけられた安全なメタ表現で衝撃に薄いかもしれませんが、テイストとしては十分味わいあるものです。

愛らしいビジュアルが特徴の BAD END THEATERはバッドエンドが運命づけられた少女、悪魔、魔王、勇者の四名の群像劇。視点人物の選択や行動を変えると他の主人公たちの物語展開にも影響をおよぼすいわゆるザッピングシステムを採用しており、『428』や『街 運命の交差点』、そして前述の『パノラマサイト』のスケールをこぢんまりとさせた印象。ストーリー自体もメタい。日本語版有。

 ノベルゲームというジャンルそのものをメタ的に捉えた海外の作品としては、milk inside a bag of milk inside a bag of milk があがります。お母さんからスーパーにミルク(舞台がロシアなのでミルクがプラ製のバッグに詰められている)を買うようにお使いを頼まれた少女が行って帰ってくるまでを描いた掌篇です。特異なのは主人公である少女の現実認識で、彼女は自分の見る世界を「ビジュアルノベル」と捉えています。そのメタっぽさを自覚しているのが複雑なところです。プレイヤーはイマジナリーフレンドとして召喚され、彼女から「読者」の役割を与えられます。そうして選択肢で彼女にささやきかけていくわけですが、あまり彼女にプレッシャーをかけるような選択ばかり行っていると「あなたはいらない」と存在を消されゲームオーバーになってしまいます。キャラクターがプレイヤーに反逆するメタ表現の一種とも捉えられますが、それ以上の奥行きと屈託を感じさせる怪作です。後日譚にあたる続編の Milk outside a bag of milk outside a bag of milk も是非。オープニングで Milk inside~のあらすじが Serial Experiments lain風のアニメーションでおさらいされます。そうしたスピリットの流れを汲む作品です。どちらも日本語版有。

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 ここからは、DDLCよりホラージャンルへと向かいましょう。ホラーもまたメタフィクション表現に向いたジャンルです。なにせ、「メタホラー」という呼称があるくらいです。プレイヤーを怖がらせるための表現ですからね。平気で虚実の境を越えてきます。ちなみに筆者はこのジャンルも全然得意ではないです。怖がりなので。ヴィジュアルノベルも避けてきてホラーも苦手、メタフィクションに向いてなくないか?
 DDLCのお家芸といえばPCのディレクトリへ介入してのファイルいじり。これを最初に試みたのは1997年に発売されたPCゲームの Virus: The Game といわれています。先駆性はともかく、かなりのクソゲーだったようで、評判は激烈に悪いですが。こうした表現は Nightmere などのスケアウェア(たとえば Nightmere では感染すると五分ごとに恐ろしげな頭蓋骨の絵が表示される)などからも想を得ているそう。

 で、ディレクトリ介入ホラーの血筋を受け継ぐのが怪奇の国イタリアからやってきた IMSCARED。デスクトップにゲーム専用のフォルダが生成され、要所要所でテキストファイルを介してのヒントやメッセージが出ます。ときには Youtube動画へ誘導されることも。ローポリゴンの主観3Dで、人によっては猛烈に酔います。筆者は酔いました。あと怖い。ローポリでも怖いものは怖い。日本語版なし。*10

 Steam で遊べるディレクトリ介入系のメタフィクションゲームというと、ホラーではないですが、『アトペス』もあります。もともとはニコニコ動画のゲームコンテストで受賞した作品。ミニゲームこなしつつ、別パートでノベルゲーム? のような物語を見守っていくという形式です。ユニークな点がいくつかあって、ミニゲームとノベルゲーパートは起動ファイル自体分けられていて、ミニゲームをクリアしたあとでノベルゲーをいちいち起動させて進行しなければなりません。いくつかあるミニゲームの切り替えも独特で、ゲームカセットに該当するテキストファイルをゲームハードに擬したフォルダに差し替えていくのです。ミニゲームのジャンルもシューティング、プラットフォーマー・アクション、昔懐かしののハイパーリンクを駆使したゲームブックと多様。どれも出来が中途半端なのですが、その半端さがのちのち意味を持ってきます。ゲーム研究者の松永伸司の「十分に発達したクソゲーはカウンターゲーミングと区別がつかない」というフレーズを想起させます。「ジャンル:哲学」を自称するだけあり、ストーリー内容は思弁的で、そこで好き嫌いが分かれるといいますか、わたしははっきり合わなかったのですが、プレイした人たちの評価は軒並み好評な模様です。無料。日本語版有、むしろ日本語しかありません。*11
 似たようなゲームでオススメなのは Outcore: Desktop Adventure でしょうか。こちらもファイル介入しまくり系でトランスジャンル的。昔懐かしのデスクトップアクセサリーみたいな感じでパソコンの中にいる主人公の少女が直接「プレイヤーさん」と会話するというモロもモロなスタイルです。クオリティはかなり高いのですが、なんと無料。日本語版あり。*12
 

 ホラーに戻りましょう。

 Dere Evil.Exe はオーソドックスなプラットフォーマー・アクション……見せかけたメタホラーアクション。進行するにつれ世界が狂っていき、難易度も鬼畜めいてきます。そのころには「Dere」がなにを意味するかも理解できてくるでしょう。本作を制作した AppSir Games は同一ユニバース上でホラーを作り続けている異色のチーム。Steam では他に HopBound という Dere Evil.Exe の続編となるメタホラーもリリースしています。世界観やモノにも凝るタイプのようで、シリーズ作中に出てくる「呪いのゲーム」をスーファミのカートリッジで再現したりしているのだとか。現実を不安にさせてやろうとする気概を感じさせます。

『Her Story』や『Telling Lies』といった実写映像を使った実験的な作風で知られるサム・バーロウの『IMMORTALITY』は典型的なホラーではないかもしれませんが、プレイヤーをゾッとさせる演出では図抜けています。あんまりネタバレなので語れませんが、物語そのものも現実へと滲出していったりする。日本語有。

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 ホラーとは厳密に異なるかもしれませんが、OMORIもおさえておきたいタイトル。なんらかの理由でひきこもりになってしまった主人公が、「ホワイトスペース」という謎の空間を通じて現実世界と空想世界を並行して冒険していくRPGです。二つのレイヤーに分かれた世界が互いにどう作用しあっているのか、時折現れて主人公を脅かす黒い影はなんなのか……空想世界はかわいらしく描かれる一方で、『ゆめにっき』(そういえばこちらも Steam で利用可能ですね)やホラーのようなサイコな恐怖描写が出てくるのも特徴です。*13二〇二一年のインディーゲームを代表する一作。日本語版有。

OneShot:あるいはその他のゲームたち

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 特になんも考えなく五番目にOneShot を挙げました。本来ならディレクトリ介入系とかの文脈で触れておくべきゲームだったでしょうか。まあ、ともかく、傑作です。メタフィクションにおいては特にプレイヤーの神性とその「選択」の重要さが強調されます。OneShot はそこに魅力があるといえますし、それ以上のものを見せてくれるともいえる。と日本語版有。
 他の項で触れられなかったゲームやカテゴリにメンションしておきましょう。

 the magic circleメタフィクションゲームではインスタントクラシックと見なされている作品です。プレイヤーは「未完成作である一人称視点ファンタジーRPGの主人公」となり、テクスチャもろくに貼られていない灰色の世界を行きます。その道中で開発者たちの内輪もめを延々を見せられて……といった内容。特徴的なのはハッキングシステム。遭遇した敵のコードを書き換えて、自分にダメージを与えられないようにしたり、同士討ちさせたり、とやりたい放題できます。重要作なのですが、日本語版はありません。

 お手軽なところでは、I hate this game 。これはわかりやすくぶっとんだアクションゲームです。 ステージごとに画面の左端にポップした主人公を右端のドアに連れていくだけ、というだけのシンプルなプラットフォームアクションなのですが、全百ステージからなる本作は「左から右に行くだけ」に、とにかく凝ったバリエーションを繰り出してきます。ゴールであるドアが移動したり、突然3D画面になったりなんてのは当たり前。進行するごとにどんどんひねった(そしてメタな)解法を要求されます。日本語版はありませんが、特に英語力を必要としません。ステージ名がヒントになっているので、そこに注意すればいい程度か。

 Stories Untold 、四つのパートに分かれていまして、それぞれ主観視点のワンシチュエーションで、外部からの指示に基づいて色んな機械をいじくったりしていきます。通しでやると実は一貫した物語がある、という構造。プレイそのものも、「ゲーム画面を通してパソコンなどのディスプレイを見る」という二重性を伴っているんですね。たとえば、最初のステージでは古いコマンド入力型のアドベンチャーゲームをやらされます。一見何の変哲もなく進行していくのですが、どうもゲーム内の舞台が今自分が留まっているコテージであることがわかってきて……ああもう怖いやつ。これは怖いやつ。Steam 版に日本語は実装されていませんが、Switch 版ではなぜか日本語でプレイできます。不思議ですね。
*14

 社会・政治問題を主題に置く、いわゆるシリアスゲームもその特性上、メタ表現になりやすいジャンルです。否応なく現実をつきつけるのが目的ですからね。Steam で遊べるところだと amazonの倉庫で働く人々の「リアル」を描写した FULFILLMENTあたりでしょうか。ゲーム自体もアンチゲーム的ですが、ゲームオーバー後に題材となった問題にまつわる記事へのリンクが表示されます(シリアスゲームにはよくある手法)。日本語版有。社会派ADV『ヘッドライナー:ノヴィ・ニュース』のスタジオの作品というのがさもありなん。

 ゲーム画面のなかには一見メタ要素がなくとも、攻略を画面外から行わなければならない作品もあります。
 Keep Taliking and Nobody Explodesは複数人プレイ専用。ゲーム画面に表示された爆弾にしかけられたパズルを解体役のプレイヤーが解いていくのですが、そのプレイヤーにはパズルの解法がわかりません。PDFのマニュアルを持っている指示役のプレイヤーが声(音声チャット)でどうにかして解体役に解き方を伝えていくのです。*15ちなみにマニュアルも日本語化されているので安心。
 一方、The Longing は一人プレイ専用で、制限時間つきの爆弾も出てきませんが、代わりに要求されるのは待つこと。ひたすら待つこと。偉大な地下帝国の王の復活を400日間待たねばなりません。この「400日間」は現実の、リアルタイムでの400日です。王は勝手に寝て勝手に起きるので、エンディングを観るだけなら基本的になにもする必要がありません。公式の紹介でも、「ゲームを開始し400日後にまたゲームに戻るだけでも結末を見ることができます。実際ゲームをプレイする必要は全くありません。」と書かれています。Mountain などと並ぶ究極の放置ゲーでもあります。まあ、なにもやる必要がないだけで、実際にゲーム中で何かをしようとおもえば、地下帝国をトボトボ探検したり、自室で『ユリシーズ』や『白鯨』といった著作権の切れた大著の読破に取り組んだりもできます。私は今300日目ぐらいだったでしょうか。日本語有。*16


「Steam」「インディータイトル」だけで区切っても取り上げるべきタイトルはまだまだ尽きない*17わけですが、どこかで区切らないと本当に終わらないので、今宵はここまで。
みなさんも自分だけのメタフィクションゲームを見つけてくださいね。
グッバイ。



おまけの追記:メタフィクションとはなにか。

ビデオゲームメタフィクションはさまざまな方面から定義が試みられたりみられていなかったりするわけですが、個人的には James Cox というブロガーの2014年の記事におけるメタフィクション表現の四分類がしっくりくる気がします。
The Four Types of Metafiction in Videogames

すなわち、

Emergent Metafiction(創発的なメタフィクション

・自らがゲームであることを認め、プレイヤーに語りかけるゲーム。
・ゲーム側がプレイヤーに対して自らの虚構性を認めるときに顕れる。
 I.e. ゲーム中のキャラがプレイヤーに対して「私たちのゲームへようこそ、プレイヤーさん! 楽しんでいってください!」などとメッセージを発する。メニュー画面やチュートリアルは含まれない。

Immersive metafiction(没入的なメタフィクション

・プレイヤーが確立された役割のもと、架空の世界に入り込むゲーム。
・プレイヤーがある程度までプレイヤーとしての役割を果たしながら、フィクションの世界に入り込んでいるという事実をゲームに組み込んでいるもの。例えば、プレイヤーは一種の神のようなもので、電源のスイッチを切るだけで世界を消滅させられるとNPCが気づいている、といったゲーム。このタイプのメタフィクションではプレイヤーが自覚的に自分の立場やゲームとの関係性を利用して物語に参加する。

Internal metafiction(内的なメタフィクション

・ゲーム中のキャラが自己完結的なメタネタを入れるゲーム。
・ゲーム内部でキャラクター同士のやりとりの中で完結するメタフィクション。あるキャラが別のキャラに「この世界が実はゲームで、自分達はヒーローにただ殺されるのを待っているNPCだと感じたことはないか?」と問いかけるような自己完結的なもの。ゲーム世界の虚構性に触れてはいるものの、第四の壁を完全に破ることはなく、むしろそれを回避している。

External Metafiction(外的なメタフィクション

・ゲーム内のキャラクターを介さないメタネタのあるゲーム。
・ゲーム外の存在である開発者などがプレイヤーに向けてメッセージを発したりするもの。たとえばある部屋に入ったときに壁に「このゲームをプレイしてくれてありがとう! 開発者より」などと書かれているもの。多くの場合はゲーム内に隠されたイースターエッグとして配置されている。この手のもの最も古い例は開発者が自分の名前をゲーム中に記名した Adventure (ATAERI 2600)といわれる。*18


もちろんこれらの要素は一作品につき一つだけというルールがあるわけでもなく、一つの作品内で複数の属性を兼ね備えてたりもします。
この記事の冒頭で「メタフィクションとは虚構であることに自覚的なフィクション」とさらりと言い切った気がしますが、しかしゲームの場合はそこらへんむずかしくて、虚構であることに自覚的でないゲームなんてほとんどないといってもいい。ゲームは映画などとは違って、常にシステムメッセージやインディケーターなどが「ゲーム世界の外」に「プレイヤーに向けて」表示されており、これはそうした情報が「これはゲームである」という自覚がないと出てこない。
アクションゲームをやれば序盤のチュートリアルステージで「Aボタンでジャンプ」というメッセージが発せられるし、古いJRPGをやれば店で買い物したときに「*買った防具はちゃんと『装備』しなきゃダメだぜ!」と店主から言われる。
こうした細かい表現のメタ性みたいなのは昔から指摘されるところで、『moon』などはそのパロディからできてるといってもいいわけですが、しかし逆にいえばそうした細かいひっかかりを乗り越えてプレイヤーはまるごとそのゲーム世界をリアルに受け止めて感情移入したりできる*19わけで、そう考えると、ビデオゲームとは信仰の体系なのであり、ゲームデザインとはいかにその信仰をプレイヤーに堅固に保てさせられるかというアートなのかもしれない。
 
そういうことを上の記事を同人誌で書こうとしたときに考えたかった気がしますが、時間がなくて*20結局いつもの早口リスト記事になり、書き終わってからはメタフィクションのゲームについてはあんまりなんも考えないポムポムプリンとなり、前へ一歩も進んでおりません。


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「たるんどるね」
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「はい……」
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「でもな、人間、止まっとる時間も大事やとおもうで。それも青春の一ページ」
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「先生……!」
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「ようし、そうと決まったら、あの太陽に向かってダッシュや!」
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「はい!!!」



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「クソアチっ(Fuckin' HOT)」





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「……は。こ、ここは……?」




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「よう! いよいよ今日は打ち上げだな! 宇宙へ飛び出すのが楽しみだろ?」


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「そんな……私はさっきまで宇宙にいたはず……まさかこれは……?」


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「「ループしとる〜〜〜〜〜〜!!??」」


(完)




おまけ2:参考文献リスト

藤田直哉「「カウンターゲーミング」と「メタフィクション」―批判的ゲームの可能性」(『プレイヤーはどこへ行くのか――デジタルゲームへの批評的接近』所収)
吉田寛「メタゲーム的リアリズム—— 批評的プラットフォームとしてのデジタルゲーム」(『ゲンロン8:ゲームの時代』所収)」
イェスパー・ユール『しかめっ面にさせるゲームは成功する 悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン』(ボーンデジタル)
松永伸司『ゲームの美学』(慶應義塾大学出版)
xcloche「分岐する物語:「アンチ・選択肢」の試み」(『セミになっちゃた』)
渡邉卓也「第四の壁を越えようとした名作ゲームたち――メタフィクションとして語られるゲームプレイヤーという存在」(『IGN JAPAN』)
藤田祥平「世界を大いに盛り上げる「Doki Doki Literature Club」の真の目的と少女たちからの救難信号」(『IGN JAPAN』)


虚構と現実――ゲームにおける“メタフィクション”の魅力に迫る:#168 しゃべりすぎGAMER」(『IGN JAPAN』)
「「moon」復刻と メタフィクション・ゲームの系譜 池谷勇人/木村祥朗/吉田寛/中川大地(ゲーム・オブ・ザ・ラウンド02)」(『PLANETS』)
メタフィクションの階層『UNDERTALE』から『MOTHER2』、『ガンパレード・マーチ』から『バイオショック』そして “チュートリアル ”」(『令和ビデオゲーム・グラウンドゼロ』)

あと自前でやってる Steam のグループ

*1:オリジナルの記事では「インディー」と限定していなかったのでそのへんちょくちょく齟齬が出ます

*2:書き終わって一年後に振り返ると、ぜんぜんわかりやすくも体系的にもならなかったね。

*3:ユーモアの方向性としては、Portalシリーズの流れを汲んでいるかもしれない

*4:初見プレイヤーが無印版を前提としたUD版のコンテンツにいきなり飛んで困惑するおそれがある

*5:この手の批評・パロディ志向的複数ジャンルゲーム詰め合わせとしては Indiecalypseもありますが、わたしは未プレイ。

*6:デザインにグリッチやバグの存在を取り込んだ例だと、高難度プラットフォーマーの Super Cable Boy、『バグダス デバッガー検定』もありますね。

*7:The Looker という The Witness のパロディもあります。

*8:Steins; Gate があります。Out of Frame(『ゲームの枠組みを変えるノベルゲーム』)があります。『うみねこのなく頃に』があります。

*9:余談ですが、時間制限のあるループものだと、minit、House あたりがオススメ。DEATHLOOP と同時期発売で少し話題になった Twelve minutes や Loop Hero もまあ、期待しすぎなければ。近年だと、Outer Wilds や The Foggoten City なども評価が高いですね、どちらも主観視点3Dなのでゲロゲロに酔いますが。House 以外は公式日本語版有。

*10:ちなみに似たような系列の海外製ホラーゲームだと File://maniac という作品もあるとか。itch.io とかで入手できるのかな。File://maniac に限らず、どうもディレクトリ介入/ファイル横断系のゲームは Steam 外で発表されることが多いようで、システム的な手間を考えればそうだよねという気がします。Inscryption やスクウェアのセーブデータ消したがる系の作品はかなり頑張ってるほうなのです。

*11:これも Steam には置かれていないフリーゲームのカルトゲーム SCE_2 から強い影響を受けたそう。

*12:ゲーム内PC画面表現については、Orwell, Kingsway、DUM-DUM, Everything is going to be OK, Secret Little Haven、Hypnospace Outlaw、餓史シャチの幸、GAME.EXE、NEEDY GIRL OVERDOSEなど枚挙に暇無し。スマートフォン画面を模したものも Replica や SIMULACRA シリーズを代表として勢力を築いている。

*13:『ゆめにっき』と『OFF』はこの手の悪夢系インディーRPGに絶大な影響を及ぼした二大ツクール製RPGで、試験に出ます。

*14:今回はあまり取り上げませんでしたが、メタ表現といえば、ジャンル的なるものに対するオタク的自己言及などもありまして、UnEpic とか UnMetal とかね。

*15:これ系もフォロワーがそこそこいて、最近だと Past Within

*16:そういえば最近読んでいるミゲル・シカールの『プレイ・マターズ』にキャラを一日に一歩しか動かすのできない『Vesper.5』という作品が出てきて、アイデアとしては The Longing と近いなとおもった。

*17:やったことのあるゲームでさえそんな状態なのに、Steam のウィッシュリストには来るべきメタフィクゲームが山と積まれている

*18:『Adventure』はビデオゲームに自覚的なメタ的な視点を持ち込んだものとしては最初の作品とされることが多い

*19:ゲーム中のメタ表現が感情移入を阻害するケースもあり、そのへんは Ludonarrative dissonanceという用語を通すとわかりやすいかもしれない

*20:というかもともと同人誌のボリューム不足の観点から入稿日に急いででっちあげた記事


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