ベスト作品
参考: 上半期のベスト
評価基準は「ドラッグとして有用か否か」です。
1.『インヒアレント・ヴァイス』(ポール・トーマス・アンダーソン、米)
八月のガラッガラな劇場でダラダラとダウナーに何度も繰り返し観る映画、すなわち夏の映像ドラッグとしてこれ以上にドープな映画は存在しない。そして二度三度と繰り返していく内に、これは逃走についての、アメリカン・ハードボイルドの基調である「共にあること」*1についての寓話であることがすけてみえてくる。そうなれば三倍おいしい。世界政府は一刻もはやく国民の健康と福祉のために本作を薬用映画として公認および合法化し、毎年夏に『おおかみこども』とセットで一日中併映すべき。フローズンバナナチョコレートつきで。
2.『セッション』(ダミアン・チャゼル、米)
ハゲ vs ふてくされたガキ。キャラクターのキチガイ性みたいなことばかり言われていて、たしかにそこも素晴らしいのですけれど、編集やモチーフを打ちこんでくるテンポも神がかっている。画面のなかにいる人間も見ているほうの人間もすりつぶされる九十分。
3.『ナイトクローラー』(ダン・ギルロイ、米)
サイコパス糞野郎成功譚。夜のロサンゼルスをパキッとしたルックスで撮るとそれだけで魔術的な舞台がたちあがる。『インヒアレント・ヴァイス』とならんで L.A. ってズルいよなあ、と思わされる映画です。
4.『フォックスキャッチャー』(ベネット・ミラー、米)
笑ってはいけないスティーブ・カレル24時。不穏さだけで人の興味は二時間超も持続するのか。します。しうるのです。
5.『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(モルテン・ティルドゥム、英・米)
すべてのシーン、すべてのセリフ、すべての光が『イミテーション・ゲーム』という物語に奉仕している。その度をこえた人工性はときに快楽ですらあるのです。
6.『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(デヴィッド・クローネンバーグ、カナダ・米・ドイツ・仏)
姉映画のオールタイム・ベスト。『25時のバカンス』とならぶ宿命論的姉論のマニフェスト。
7.『恋人たち』(橋口亮輔、日)
100%ピュアなディスコミュニケーション・ポルノ。日常に巣食う嫌さをえんえん見せつけられていくだけで人は二時間超の映画を持続的に視聴できるのか。できる、できるのだ。
8.『マッドマックス怒りのデスロード』(ジョージ・ミラー、米)
やはりこれも編集というか、タイミング、あるいは速度の映画で、冒頭の砦内でのウォーボーイズとの追いかけっこにおける「微妙に早送りしてない?」感とかすげえ脳髄にキます。
9.『EDEN/エデン』(ミア・ハンセン=ラブ、仏)
ダメ人間映画。音楽の才能はそれなりにあるもののそれなりにしかないので実際食ってけないダメな人間が特に現状を革命しようとも思わないままダラダラ場当たり的に愉快に過ごしていって後年そのツケの返済に迫られてしにそうになる――『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』じゃん。
10.『ブルー・リベンジ』(ジェレミー・ソルニエ、米・仏)
理不尽に奪われた尊厳を取り戻すために、理不尽極まりない復讐へとつきすすむ人間の物語はいつだって美しい。どのカットにも青いオブジェクトが写り込んでいるという『アデル、ブルーは熱い色』みたいな謎演出もありますが、まあ、それはともかく。
11.『花とアリス殺人事件』(岩井俊二、日)
美しい。岩井俊二なんてバブル後の日本のウィンプさの象徴だろくらいにしかみなしておらず、実際前作にあたる『花とアリス』は心底どうでもよく考えていたのですが、この映画はとにかく美しい。背景のモブがそれぞれ別個の意志をもった生命のごとく不揃いに動作するアニメってそれだけでフレッシュですよねえ。
12.『ブラック・シー』(ケビン・マクドナルド、英・ロシア)
蟹工船 in 潜水艦。クズ野郎どもをまとめて一箇所に集めると学級崩壊が起こる。傷つくのはクズ野郎ばかりで、学校というシステムそのものは涼しい顔で稼働しつづけるんだ。
最初は良識あるバランサーだったのに段々深海に魅入られておかしくなっていく艦長へ投げつけられる言葉、「『ヤツら』って誰だよ!!!」が非常に印象的。そう、「ヤツら」はここにはいないし、永遠に打ち負かされない。
13.『アクトレス 女たちの舞台』(オリヴィエ・アサイヤス、仏・スイス・ドイツ・米)
舞台のリハーサルと日常の会話がおなじカット内でシームレスにつながり、それが虚実の皮膜を溶かしていく、といえばいたって平凡なメタフィクションに思われそうだけど、その凡庸さへの陥穽を監督の演出と女優たちのケミストリーでぎりぎり回避した傑作会話劇。
14.『名もなき塀の中の王』(デヴィッド・マッケンジー、英)
父子ものには弱いなあ。ベン・メンデルソーンの十八番、「実は弱いくせにいきがってる中年オヤジ」のどうしようもなさがいかんなく炸裂しております。
15.『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂想曲』(コーネル・ムンドルッツォ、ハンガリー・ドイツ・スウェーデン)
犬たちは、現実で、映画で、絶え間なく人間から虐待されつづけてきた。これはそんな犬たちの反逆の物語なんです。犬の公民権運動なんです。ラストにおいて主人公の女の子がみせるある態度は、『ヒックとドラゴン』にも匹敵する尊さを放っている。
16.『神々のたそがれ』(アレクセイ・ゲルマン、ロシア)
去年なにかのイベントで観た時には正直よくわからないというか、ほとんど寝てたんだけど、今年『フルシタリョフ、車を!』などを経て改めて観なおしてみるととてつもなくテンションの張った傑作だったとわかりました。
17.『アメリカン・スナイパー』(クリント・イーストウッド、米)
いろんな意味で、素晴らしいバランス。アメリカ映画の神は違うね。
18.『はじまりのうた』(ジョン・カーニー、米)
音楽に語らせ、音楽で語り合い、音楽を謳う。実にピュアな音楽讃歌。しかしありがちなナイーブさは慎重に排除されていて、全編に渡って骨太なマッスルを見せつけてくれもする。
19.『馬々と人間たち』(ベネディクト・エルリングソン、アイスランド)
遠い遠い寒い国にも、人間と動物は居て、つまらないことで死んだり生きたりしてるんだなあ、ということを実感できる。
20.『ヴィジット』(M・ナイト・シャマラン、米)
これまでの姉フィクションの伝統を踏まえながらも、弟と互いの弱さを補いあいながらトラウマを克服するという「対等な姉弟関係」を創出した影の姉映画オブジイヤー。
ベスト姉映画部門
☆『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(デヴィッド・クローネンバーグ、カナダ・米・ドイツ・仏)
『海街diary』(是枝裕和、日)
『ヴィジット』(M・ナイト・シャマラン、米)
『ブルー・リベンジ』(ジェレミー・ソルニエ、米・仏)
『シンデレラ』(ケネス・ブラナー、米)
『トゥモローランド』(ブラッド・バード、米)
短観:メタファーとしての姉あるいは姉的運命論の完成形『MttS』、輻輳する姉妹関係のダイナミズムが絶妙な『海街』、等身大かつ対等なバディとしての姉像を描いた『ヴィジット』が今年の三大姉映画。映画界全体としては昨年に比べて姉映画日照感が否めなかったのですが、この三作を収穫できただけでも補ってあまりある。
『ブルー・リベンジ』における姉はワンポイント的な起用でしたが、その使い方がなかなか強烈。
ベスト音楽映画部門
参考:2015年に観た新作映画で好きな劇中歌・エンディングソング・サントラ - つんかる
☆『はじまりのうた』(ジョン・カーニー、米)
『EDEN/エデン』(ミア・ハンセン=ラブ、仏)
『セッション』(ダミアン・チャゼル、米)
『君が生きた証』(ウィリアム・H・メイシー、米)
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(ビル・ポーラッド、米)
『ラブ&ピース』(園子温、日)
短観:音楽という文化そのものの尊さをファンタスティックに、しかし無理のないバランスで文字通り謳い上げた『はじまりのうた』に一票。個人的にはカーニーの前作『ONCE』より雑味が取れていて好きです。音楽(楽曲)そのものへのオブセッションでいえば『君が生きた証』が意外な拾い物でした。ちなみに『ストレイト・アウタ・コンプトン』は今年に入ってから観たので来年のベストでの取り扱いとなりますが、果たしてあれを超えてくる音楽映画が今年やってきてくれるのか。
ベスト動物映画部門
☆『馬々と人間たち』(ベネディクト・エルリングソン、アイスランド)
『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂想曲』(コーネル・ムンドルッツォ、ハンガリー・ドイツ・スウェーデン)
『映画 ひつじのショーンバック・トゥ・ザ・ホーム』(マーク・バートン&リチャード・スターザック、英・仏)
『ラブ&ピース』(園子温、日)
『ゾンビーバー』(ジョーダン・ルービン、米)
『さらば、愛の言葉よ』(ジャン・リュック・ゴダール、仏)
短観:動物映画にも色々あるわけですが、2015年は『馬々と人間たち』*2と『ホワイト・ゴッド』のツートップをおいて他にない。どちらも人間の鏡像として動物たちを描いきつつも、そのスタイルがそれぞれに違っていて、それぞれに良い。
可哀想な犬オブジイヤー
☆『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂想曲』(コーネル・ムンドルッツォ、ハンガリー・ドイツ・スウェーデン)
『ジョン・ウィック』(チャド・スタエルスキ、米)
『奇跡の2000マイル』(ジョン・カラン、オーストラリア)
『映画 ひつじのショーンバック・トゥ・ザ・ホーム』(マーク・バートン&リチャード・スターザック、英・仏)
『キングスマン』(マシュー・ヴォーン、英・米)
短観:出てくる映画の七割で「人間の身代わり」として殺される傾向にある可哀想な動物、それが犬。『ホワイト・ゴッド』はそうしたストックキャラクターとしての可哀想な犬像を一定程度踏襲しつつも、既存の人間至上主義映画に対するアンチテーゼをかましたお犬様レボリューション映画です。
ベストアニメーション部門
☆『インサイド・ヘッド』(ピート・ドクター、米)
『映画 ひつじのショーンバック・トゥ・ザ・ホーム』(マーク・バートン&リチャード・スターザック、英・仏)
『花とアリス殺人事件』(岩井俊二、日)
『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(グザビエ・ピカルド&ハンナ・へミラ、フィンランド)
『クーキー』(ヤン・スヴェラーク、チェコ)
『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(スティーヴ・マーティノ、米)
短観:ここにあげたアニメ映画はどれもすばらしいのですが、やはり今年は『インサイド・ヘッド』一択でしょう。ストーリーテリングの革命ですらあった。純アニメーション的な快楽(人間ならざるものがぬるぬる動く)でいえば、もちろんストップモーション系統の『クーキー』や『ひつじのショーン』が強い。ストップモーションといえば、ライカの『Box Troll』はいつ公開されるんだ???
コミュ障ポルノ部門
☆『恋人たち』(橋口亮輔、日)
『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(モルテン・ティルドゥム、英・米)
『フォックスキャッチャー』(ベネット・ミラー、米)
『ブラック・シー』(ケビン・マクドナルド、英・ロシア)
『完全なるチェックメイト』(エドワード・ズウィック、米)
『ナショナル・シアター・ライヴ2015 「二十日鼠と人間」』(アンナ・D・シャピロ、英)
短観:コミュ障ポルノとは、要するにコミュニケーションが下手くそすぎて悲惨かつドラマティックな事態をひきおこしてしまう愛すべき人々が出てくる映画のことです。たいがいの場合、人の生死や国の存亡といった事柄がコミュニケーション能力不足により出来したりするのですが、そのようなコミュ障ブロックバスター化傾向のなかで、表面上「たいしたこと」は起こっていないにもかかわらず嫌さを極めたコミュニケーション不全を発症しているのが『恋人たち』です。
私的ブレークスルー俳優
☆ローリー・キニア(『NTL オセロー』*3、『ホロウ・クラウン』/『リチャード二世』*4、『007/ スペクター』、『イミテーション・ゲーム』)
ベン・メンデルソーン(『名も無き塀の中の王』、『エクソダス: 神と王』、『ブラック・シー』、『ロスト・リバー』)
マーク・ストロング(『イミテーション・ゲーム』、『キングスマン』、『リピーテッド』)
クリステン・スチュワート(『アクトレス』)
エマ・ストーン(『マジック・イン・ムーンライト』、『バードマン』)
ダミアン・チャゼル(『セッション』、『ファンタスティック・フォー』)
短観: 粗野ですらある不遜な容貌、暗く沈んだような眼、そしてあらゆる凶相要素を裏切って発せられる低く高貴な声、ローリー・キニアの魅力にふれたのは『イミテーション・ゲーム』の警部役で、そこから『オセロー』や『リチャード二世』といった主演作を観てこいつはとんでもねえな、と。ローリー、ストロング、JKシモンズが今年の三大ハゲ。
女優二人はこれまで正直魅力をよく理解できていなかったのだけれど、それぞれアサイヤス、ウディ・アレンといった女優の使い方に通暁した監督の演出によってようやくその真価を知るにいたりました。
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