【もくじ】
- 【もくじ】
- 【校歌斉唱】
- 【背景】
- 【これが村長だ】
- 【私的二十選】
- 「リスおねえちゃん」ナカハラエイジ(アフタヌーン四季賞2020年夏・四季賞)
- 「いろはちゃんはキモい」奥灘幾多(第78回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞作品)
- 「タコトカラス」松冨まこと(アフタヌーン四季賞2020夏・幸村誠特別賞)
- 「背に負はば月影の重き」久保田かど(アフタヌーン四季賞2018年夏・四季大賞)
- 「ひみつ倶楽部」赤鹿衣里(アフタヌーン四季賞2018夏・佳作)
- 「熊送り」大森センター (アフタヌーン四季賞2020夏・四季大賞)
- 「草木を駆ける素足」蔦森つむぎ(モーニング月例賞2021年1月期・佳作)
- 「はじめてのおばけの飼い方・育て方」SUGINAMI(アフタヌーン四季賞2020春・佳作)
- 「福音」佐藤丈裕(アフタヌーン四季賞2020春・準入選)
- 「みんなニンゲン」春琉渡璃(モーニング月例賞2020年11月期奨励賞)
- 「神さま、愛を救って下さい」菊屋あさひ(2020年12月期ヤングマガジン月間賞・入選)
- 「ボーイズ・ピー」たなまん(第84回ちばてつや賞ヤング部門・佳作)
- 「昼花火」野火けーたろ(第84回ちばてつや賞ヤング部門・期待賞)
- 「いいんちょ」伊毛野めそ子(モーニング月例賞2021年3月期・奨励賞)
- 「ゆけ!日果さん」井戸畑机(第84回ちばてつや賞ヤング部門・準優秀新人賞)
- 「やすお」吉田博嗣(ヤングマガジン月間賞・入選)
- 「相思相殺」鷹野聖月(アフタヌーン四季賞2018夏・佳作)
- 「貸した漫画返してください!」西村たまじ(2021年4月期ヤングマガジン月間賞・奨励賞)
- 「インスタントミュージック」伊藤拓登(第78回ちばてつや賞一般部門)
- 「幽霊とゆーれい」春日井さゆり(アフタヌーン四季賞2019冬・佳作)
- 【その他気になったもの】
【校歌斉唱】
はてなブックマークを信じるな。
おもしろいマンガは自分で読んで決めろ。
ぜんぶ読んで決めろ。
ジャンプラに載ってるまんがに対して「アフタヌーンぽいね(笑)」としか言わねえやつの評価なんか信じなくていいよ。
たまにはおれもそれいっちゃうけれど。たまにだけとおもう。けっこうよくいってるんじゃないかな。まあちょっとは覚悟しておけ。
嗚呼、われらコミックDAYSにある新人賞作・読み切りまんがぜんぶ読め高校。
ラララ ララララ ラララ ララララ
【背景】
・講談社の出しているまんがアプリ・ウェブサイト「コミックDAYS」では講談社系列の雑誌から出されている新人賞系読み切り作品がほぼすべて読める。
comic-days.com
・期間は受賞したタイミングからズレ(2018年に出た賞の作品が2021年の日付で追加されていたり)があったりで不明瞭だが、だいたい2018年ごろの作品から収録されている。
・つまり、あくまで「2021年内の半年間にコミックDAYSに登録された作品」であって、「2021年に受賞した作品」ではかならずしもないのにご留意ください。
・本記事で扱うのはコミックDAYSで2021年1月〜6月付けで登録されているもの。
・DAYSのやりかたはよくわかんなくて、本記事公開以後にも対象期間内の公開作品が増えるかもしれない*2。
・2021.01〜06以前/以降のものについては後日やるかもしれんし、やらんかもしれん。
・現時点での対象作品数は97。
・個人的に好みは、あんまし端正でなくとも、なんかガリッとした力強い作品。
・そのときどきの気分で選んでいるので、ここで書いてないものについてもおもしろい作品はいくらもあります。っていうか、新人賞ってある程度高いハードル抜けてるんだからだいたい一定以上おもしろいんですよ。みんなも全部読んできみだけのフェイバリットを決めましょう。
・筆者だけだとなにかとぽんにゃりしがちなので、いくつかの作品については、まんがにくわしいことで知られる村長をゲストにお呼びしてするどいコメントをいだたきました。多様性の導入。Q.村長ってなんの村長なんですか。A.おれたちの村のだよ。
【私的二十選】
「リスおねえちゃん」ナカハラエイジ(アフタヌーン四季賞2020年夏・四季賞)
comic-days.com
・いじめられっこの主人公の少年の前に三年前に死んだ姉がリスの姿で現れる。おせっかいで心配性なリスおねえちゃんはなんとか主人公を助けようとするが……というお話。
・いじめもの+姉が別のなにかに変異するというよくあるパターンの組み合わせながらも、線の繊細な力強さとキャラ造形で圧倒的に勝っている。
・なんかこういうザリッとした個性が好きなんやよね。大好き。
・リスかわいいし。
・そうなんですよね、ふつうは死んだ姉が幽霊になって戻ってくる、とかだと思うんですが。そこであえてリスをチョイスするクソ度胸。教室内で帰ってきたドラえもんやるにはたしかにこのサイズ感がよいのかも。
・姉=しっぽ=ライナスの安心毛布的な逃避先を手放すことで成長を遂げるというモチーフ。ところどころやや強引さかもだけれど全体的にはうまくはまっている。
・「鼻を噛む」というアクションが姉弟で重なっているのもエモい。
・いじめっこのほうもよく見れば、ちょくちょくビビり入りながらいじめやってるのもいいですね。ちゃんと主人公程度のへたれでも勝てることが示唆されている。
・筆箱からリスが出てくるシーンが妙に性的。
・第七十五回(2019年)ちばてつや賞*3準優秀新人賞作品「ぼくらがまちでくらすには」もマガジンのウェブから読める。少女とその誘拐犯の話。この底のないさびしさに惹かれてしまうのか。
・「なるほどね」
「いろはちゃんはキモい」奥灘幾多(第78回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞作品)
・百合。かつては憧れだった年上の幼馴染いろはちゃんがひきこもってキモいひとになってしまった。大学生のかなは、いろはちゃんが社会復帰できるように色々と手助けする。
・最大の特徴はコマの外の内枠がノート用紙みたいになっていて、そこにかなのナレーションが日記調で綴られていること。単にメタ演出というだけでなくラストの展開にも絡んでくるのがニクい。
・いろはちゃんはかなが助けてくれるけれど、かなのことは誰も助けてくれないという非対称な関係。かなはどんどん歪んでいくのだけれど、本質的にはいいヒトなのでいろはちゃんを突き放すことも不幸にすることもできない。そういう地獄ってあるんだな。
・いろはちゃんがちゃんとキモいのがよい。
・ラストの「これからもいろはちゃんとは関わっていくんだろうなと思いました」という一文もすごい。「関わっていくんだろうな」ですよ。
・作者はヒトトセシキの名義で2020春の四季賞で佳作。「童卒20分」。twitterでもイラストや過去作を掲載している。
2019年にも「好きな人がいた」でモーニングゼロ2019年1月期奨励賞。たった数年でメキメキまんががうまくなっていった様子が伺える。大学を出た*4ばかりらしく、今後の伸びも期待される。
「タコトカラス」松冨まこと(アフタヌーン四季賞2020夏・幸村誠特別賞)
・行きずりのセックスと成り行きで頭がタコの女と同棲することになったキャバのボーイが、タコ女の前の男であるホタテ男との痴話喧嘩に巻き込まれるコメディ。
・2020年代にこんな80s感あふれるキュートな(高橋葉介直系?)絵を新人賞で拝めるとはおもわなかった。そして、ノリもいい意味で古い。
・けっこう好き勝手展開しているようで細かい伏線の張り方やまとめかたはかなりコンストラクティブ。
・さんざん魚介類で愁嘆場を繰り広げたあとに「魚介類の話聞いてたら寿司食いたくなっちゃった」はしびれる。タコが「私も行く!」って言ってるのも。
・最初主人公の幻覚をにわすようなところから始めておいて、やっぱり他のヒトにとっても魚介でしたとスライドしていくのは巧みというかディジーというか。
・あおりも「タコだけに八方丸くおさまりました!」ではないんですが。八方丸くおさまりました! では。
・2021年の『アフタヌーン』4月号(とモアイ)に新作読み切り「ポチとボク」掲載。こちらもアニマルでアブノーマルな性癖をテコにした恋愛コメディ。
・「これたしかに高橋葉介なんだけど……これは高橋葉介なんだけど……むずかしいのはやっぱシモに寄りすぎているせいですかね。(むずかしいっていうのは?)高橋葉介にならない理由は。」「期待する才能ではあるんだけど。このままでは性欲が強すぎる」
「背に負はば月影の重き」久保田かど(アフタヌーン四季賞2018年夏・四季大賞)
・大学お笑い研究会で一つ抜けた実力を誇る漫才コンビ「安倍・大貫」。圧倒的なカリスマ性とセンスを持つ安倍に対し、研究会の後輩でもある大貫は引け目を感じていた。所詮大学生レベルのお笑いではプロで食ってはいけない、と大貫は安倍に黙って就活をはじめる。青春ドラマ。
・四季大賞にはどれも”格”がある。これもそのひとつ。
・いわゆるワナビものは新人賞作品ではポピュラーな題材なのだが、「お笑い」しかも大学のお笑い研究会という舞台選びのものめずらしさ。その上で、自分のすぐ隣にいる破格の才能、プロとアマのあいだでちゅうぶらりんな自分、「社会」や「世間」「他人」に対する距離といったモラトリアム期の鬱屈を見事な質感で描いている。
・主人公の自分の人生への決着(ヒトひとりの人生でいえば「区切り」のほうがふさわしいんだろうけれど、この時点ではこのヒトにとっては「決着」なんですよね)のつけかたがビターで、しかしフレッシュ。そこに至るまでの見せ方もすばらしい。
・そういえば、自分にとってあまりに巨大な依存先を手放すことで思春期から成長していく、というのセッティングは「リスおねえちゃん」と似ている。個人的にそういう話が好きなのかもしれない。ピクサーの『インサイド・ヘッド』とか好きだし。
・これも「タコトカラス」同様に幸村誠プッシュ作。好みが似てるんだろうか。いままで幸村先生の好みなんて意識したことなかったけれど。
・第二作は『good! アフタヌーン』2020年3月号掲載の「二度目の行列」。こちらはプロの世界、元大学お笑いサークル出身の若手芸人の描く。やっぱりコンビ解散もので「背に負はわば〜」の安倍側の話。そういう点では対になってるのかな。相方と別れを話し合う場面が完全に恋愛のそれなのがウケる。
・twitterで別名義が「久保田之都」となっているのだけれど、『ジャンプ』の新人発掘企画「ストキン炎」*5のプリンス部門(高校生限定部門)で2009年に準プリンスになったヒトと同一人物か?
・ゲンロンが主催しているひらめきマンガスクールで2019年度の大賞を獲っている。「蔓延性フラットライナーズ」。*6こちらもはやりマルチ商法という題材とゾンビ映画というモチーフを軸に「夢を達成できなかった自分とそれを値踏みする周囲」という状況が描かれている。ここまでくると作家性の域。
・「これは受賞時に読んだかな。たしかにうまい」
「ひみつ倶楽部」赤鹿衣里(アフタヌーン四季賞2018夏・佳作)
・百合。舞台は女子校。陰湿ないじめを受けていたミカだったが、転校生の真理子に気に入られたことで一転クラスの人気者に。真理子はミカに「ふたりでクラスメイトたちの秘密を集めて共有しよう」と持ちかけ、その秘密を巧みに利用することで彼女たちの地位はますます盤石になっていくものと思われたが……。
・また四季賞でごわすか!
・しょーがねーだろ、サブカルクソオタクベイビーなんだから。
・まじめに答えると、対象期間の登録作品の九割が四季賞・ちばてつや賞・モーニング月例賞で構成されているからほんとに不可抗力。
・特にミステリ部分の展開がかなり強引だったり、人物の出し入れがややモタっているところはあるものの、そんなことがどうでもよくなるくらいにパワフル。
・暗黒百合で大事なのはパワー。一にパワー、二にパワー。レゼ篇のラストでパワーが言ったセリフも「パパパパパパパパワー」。
・ではパワーはなにでできているのか。キャラの狂いぷり。画の迫力。顔相撲の角力。
・「『りぼん』とか『ちゃお』とかで連載したらおもしろいなって思いました」
「熊送り」大森センター (アフタヌーン四季賞2020夏・四季大賞)
・子どもに人間競馬をやらせる謎賭博が発展した街で、そのレースの競技者として生きる子どもたちの艱難辛苦と友情を描く。走れなくなったり、勝てない子どもは死にます。
・また四季賞でごわすか!(2) しかも2020年夏から三作目。
・文句なら幸村誠に言ってくれ。
・このままだと単なる四季賞作品紹介記事になってしまう。
・ところで「熊送り」はウマ娘です。
・人間競馬仕切っているヤクザのキャラがたいへんによい。顔はマスコット的でかわいいのに肩幅が広くてやたらゴツいという絶妙ないびつさ。悪意をもった悪役というよりはメフィストフェレス的と言うか、残酷な機械としての世を駆動させるパーツ的なポジションの酷薄さ、冷たさ。まどマギのきゅうべえみたいなものだと思えば、魔法少女ものであるともいえなくない。
・「ベスト、といったらこれじゃないですか?」
「草木を駆ける素足」蔦森つむぎ(モーニング月例賞2021年1月期・佳作)
・親戚の残した裏山に住んでいる姉にひさしぶりに会いにいったら山の神様と結婚してわけのわからない存在になっていた。
・また四季賞で……いや、モーニング月例賞だった。
・とにかくある場面の見開きがとてつもなくよい。人外描写として。
・姉まんがとしてはかなり典型的だが理想的でもある。
・姉という存在の不定さ、不可解さがそのまま「どんどんメタモルフォーゼしていく姉」という身体性に直結していて、そのビジュアルの不可思議が再帰的に姉という存在の不可解さについて内省させるという、まんが的な技巧。
・キャラデザもピッと、シュッとしてて、いいよね。
・作者には商売っ気皆無の twitterアカウントがあって、ツイート数も三個程度なのだが、そのファーストツイートがすばらしくよい。*7
「はじめてのおばけの飼い方・育て方」SUGINAMI(アフタヌーン四季賞2020春・佳作)
・両親を亡くした少女が通販でお化けを買って育てようとする。
・かわいらしい表面にひたすらウィアードでビザールで居心地の悪い感覚がつらなっていく。オチはややむりやりつけてしまった印象。
・きみたちがジャンプラがアフタっぽい、ジャンプラがアフタっぽい、ってなんどもいうからへそをまげちゃったアフタがくらげバンチみたいになっちゃったじゃないか。反省しなさい。*8
・作者のサイトを管見するかぎりにおいては、「はじめてのおばけ〜」は作者的にはイレギュラーなテイストっぽい。かなり意識してこっち系の技法をラーニングしたのでしょうか。がんばりがすごい。
・2020年にも四季賞(夏)で「プラネタリウムの花嫁」が準入選。こちらははじおばに比べて画的にも話的にもストレート寄り。作者が制作背景・意図をブログで縷縷語っている点はめずらしい。このひとのブログは全体的におもしろいです。
「福音」佐藤丈裕(アフタヌーン四季賞2020春・準入選)
・突然世界中の人間の魂が抜けたようになって、どこかへと去っていった。それと入れ替わるように変な生き物たちが跋扈するようになった。そんな世界で唯一正気でサバイブするアリカとミカの話。
・新人賞の人気ジャンル、ポストアポカリプスもの。
・クリーチャーと異質な世界の描写がべらぼうによい。
・緻密に描き込まれていた世界が文字通り「空白」になっていく演出はもうちょっと効果的な運びようがあったんじゃないのとはおもうが、それでもよい。
・これは専門在籍時の作品だろうか。少女ふたりの関係を軸にクリーチャー的な怪異で回していく作風は共通している。
「みんなニンゲン」春琉渡璃(モーニング月例賞2020年11月期奨励賞)
・自分に自信がなくつい周囲に合わせてしまい、そのせいで恋人ができないことに悩む男が占い師から紹介された幽霊のコンパニオンサービスで女の幽霊と契約。彼女と同居して楽しく過ごしはじめるが。
・「私が幽霊だからでしょ」「触れないから体関係の生々しい面倒事は起こらないし警戒もされない。現実世界のコミュニティとは無縁だから人間関係も気まずくなることはないし、好きな時に呼び出せて1時間経てば勝手に消えてくれる幽霊だからでしょ?」「人間(ヒト)は怖いもんね」
・インターネットの話ですか。わたしはインターネットの話はだいすきです。
・他人に対する距離感や怖れを見事に具現できている。対人恐怖症でインターネット大好きなら読むとよし。
「神さま、愛を救って下さい」菊屋あさひ(2020年12月期ヤングマガジン月間賞・入選)
・恋人がヤバそうな新興宗教にハマってしまった。心配になった主人公の男は教団にさぐりを入れるが、そこで教祖に祭り上げられている少女と出会ってしまったことから運命と愛が狂い始める。
・オメラスものというジャンルがあるとおもう。誰か(たいていは無力で無垢な存在)を犠牲にすることで最大多数の最大幸福がなりたっているような世界を扱ったお話。『天気の子』とかね。
・これもそのバリエーションのひとつなんですけれど、そこで義憤と愛を発揮して少女を救おうとする主人公が結構独善的に描かれるというのがおもしろくて、隣でもがき苦しんでいる身近な人より遠くのシンボリカルな少女を優先しようとするヒロイズムの歪みが出てくる。いじわるであると同時に切実なお話。
・絵も好き。
・作者の pixiv で過去作をいっぱい読める。サンデーうぇぶりにも掲載歴があるとか。コミティアにも精力的に出品している模様。
・村長からの評価はやや渋かった記憶。
「ボーイズ・ピー」たなまん(第84回ちばてつや賞ヤング部門・佳作)
・モテない男子二人組がモテるために奮闘するもののいざ片方がモテだすと簡単に友情が崩壊してしまい、罪悪感はおぼえたモテたほうは贖罪のために一計を案じる。
・日本版『スーパーバッド』。『スーパーバッド』ほどカラッとはしてないけれど。
・ただひたすらかなしくなる。
・友情と恋愛は本来対立する概念ではないんだけれど、極まったホモソ内では択一にされてしまう。その視野狭窄に気づけないのもまたいやにねっとりしたリアリティがあります。
・「twitterで有名人にクソリプしまくってフォロワーをふやす『クソリプの鬼』」などをギャグっぽく入れていることからも作者がそうした視点をちゃんと相対化して、ギリギリのバランスで綱渡りしているのが伺える。
・こういうギリギリの作品が”おもしろ”くなってしまうとこあるな〜〜〜。
・作者はヤンマガでも2020年8月期で期待賞。カメントツや窓ハルカを輩出?したトキワ荘プロジェクト出身でもある。
「昼花火」野火けーたろ(第84回ちばてつや賞ヤング部門・期待賞)
・乳首がめっちゃ伸びました、って話。
・出落ちの一発ギャグをロジカルに転がせてちゃんとテンション保てるのは貴重。
・全編(6ページとか特に)でかぎりなくしょーもないことに技巧を凝らしているのがよい。
・いいコメディというのは馬鹿らしさのなかにどこかかなしみを孕んでいる、と誰か有名なひとがいってましたね。だれだったかな。だれもいってなかったらわたしがいったってことにしておいてください。
・こちらもトキワ荘プロジェクト出身者。
「いいんちょ」伊毛野めそ子(モーニング月例賞2021年3月期・奨励賞)
・やたらハリキリまくっているものの誰にも相手にされてないクラス委員長。彼女は登校途中で母校を爆破しようとしているアブナいオッサンを目撃する。クラスメイトに危険を訴えるがびっくりするくらい相手にされない……そして思った。「こんな学校、爆破されればいいのよ」。
・最初テロリストを防ごうとしていた人間が闇落ちしてテロリストになる。
・「あいつの良さを知っているのはおれだけ」的なところから発して、「あなたはちゃんと世界に影響し関係しているんだよ」という話に終着したのはさりげなく快い。
・メントスコーラの絵面のしょーもなさもすき。
・空回りしてる委員長キャラっていいですよね。
・いい……。
・いま、あなたが思い浮かべたキャラをわたしも思い浮かべています。
・これが、メンタリズムです。
・Daysneoをはじめとした各種SNSや投稿サイトに痕跡を観測される。承認のテーマにめちゃ興味があるっぽい。
「ゆけ!日果さん」井戸畑机(第84回ちばてつや賞ヤング部門・準優秀新人賞)
・ルーチン化した日々のタスクをこなすことに多大なリソースをついやしている日果(ニチカ)さん。ところが「外の世界を見てこい」と勝手に母親が南極の郵便業務に日果さんを送り出し、未知の南極行が始まる。
・いまさら特にいえることって、ある?
・あらゆる面で高度に完成されている。ちばてつや賞の選評では「メッセージ性が見えにくい」というあやがつけられたものの、あんまりそういうのが前面にですぎるのも違う気がするし。*9雰囲気に反して、さらりと読むことを許さないコンデンスさみたいなのはあるもしれません。
・絵の独特のやわらかさみたいな感触(絵柄とかではない。あんまり自分にはまんがを語ることばがなくて、むつかしいな)は無二で、そこらへんの質感が全編通してのあったかさにつながっている。で、そのあったかさが発揮される舞台が南極というのもマッチするミスマッチ感があってよい。
・作者は「ゆりかごのアルバム」で2018年にもヤングマガジン月例賞佳作。このころから世界ができている。
・このひとの挙げてるベストまんがから由来を探れるかも。そうなんだよな。『りとる・けいおす』なんですよね。
「やすお」吉田博嗣(ヤングマガジン月間賞・入選)
・もうみんな読んでいるだろうからいまさらあらすじを説明する必要もないとおもうのだが、いちおういっておくと、やたら暴力的な女のもとに(ロボット相手とか関係なしにもともと暴の気にみちみちている)お手伝いロボット”的な存在”、「やすお」が姉から届く。女は「やすお」をしばきあげながら教育していくのだが、なんだかうまくいかず……。
・ネットでめちゃめちゃバズってインタビューまでされた。
・これもいまさら言うことない気がする。これとかヨメばよろし。
・それはまあさておきつ。
・寓話としての風刺性みたいなところばっかりクローズアップされがちけれど、まんが運びの手際みたいなものもけっこう好きというか、基本的には多動的なハイテンションギャグの文法で描かれてところがよいとおもいます。
・広義のオメラスもの。ただ、オメラスものは設定の適用される範囲を広げれば広げるほど説明づけに無理が出てくるもので、そういう点で小さなコミュニティに絞った「神さま、愛を救ってください」などに比べると破綻した印象を与えてしまう。読者の興味の比重は寓話部分にあるだろうし、別にいいんじゃないかなっておもいます。
・さっきもいったけれど、表情やアクションの豊かさでガンガン押していく読みごこちがとにかく楽しい。それがラストの転調における居心地のわるさにつながってくるのもうまい。テンポでストーリーテリングできるひとは希少なのではなかろうか。
・逆に画面のうるささが話の飲み込みを阻害するところはあるので、一長一短か。個人的には三長一短くらいだとおもう。
・ラストのコマで顔の上半分映さないことはひっじょ〜にいじわるだな〜〜〜〜って。
・人間のマテリアルさ加減を描くのがうまいっていうか、他の作品読んでるとそもそも人間をマテリアルとして捉えている感がある。
・スラップスティックギャグで見たいが、根がスラップスティックなのは他のジャンルとブレンドするくらいでちょうどよくなる気がする。
・次回作は8月公開だそうです。
「相思相殺」鷹野聖月(アフタヌーン四季賞2018夏・佳作)
・最果ての国の皇帝、その命運が侵略戦争によっていままさに断たれようとしていた。敵側の王は背中に箱を背負っており、そのなかに「傾国」という女性が入ってた。いったい、どういう経緯でかれらは出会い、最果ての国を、そして世界を滅ぼすにいたったのか?
・タイトルがアニメ『バジリスク〜甲賀忍法帖〜』の第一話。
・ナラティブから何からなにもかも強引で盛り盛りで放埒でめちゃくちゃなんだけれど、あらゆる欠点を覆すほどに愛さずにいられない魅力がある。こういうマンガはたまに出てくるものですね。
・この作家はこの後も四季賞に入選しまくり、2020年秋にはついに「他向け花」で大賞を射止めた。「他向け花」は「相思相殺」時点で原石だったものをアフタヌーン方面に極限まで鍛え抜かいた完成の美といった趣でヒストリーをかんじさせる。『ヒストリエ』はもうちょっとゆっくりでもいいんですよ、アフタヌーン。他には2019年春準入選の「イエスタデイレイトショウ」など。すでにして明日の『アフタヌーン』を担う人材であることは疑いがない。
「貸した漫画返してください!」西村たまじ(2021年4月期ヤングマガジン月間賞・奨励賞)
・陰キャの大学生のゲイが勇気をふりしぼって好きな男に告白しようとするも、出てきてセリフは「好きです」ではなく「貸した漫画返してください!」だった。甘酸っぱくて爽やかな恋物語。
・「月が綺麗ですね」式の言語的な奥ゆかしさがよいですね。このアイデア一発だけでも相当噛める。
・心理的な距離を縮めるきっかけになる一言がやや安易すぎるきらいはある。まあ、相手側もうすうす勘付いてたから出たセリフかもしれない。
・最後まで告白できないけどなんか勝った感出しているのもよい。ウジウジ陰キャにとっては目的地への到達ではなく、日々の前進こそ勝利なのである。
・これもTwitterでそこそこバズってた模様。気づかなかった。
・daysneoのページをつら読むかぎりではギャグ漫画志向なのかな。たしかにその方面で読んでみたいです。
「インスタントミュージック」伊藤拓登(第78回ちばてつや賞一般部門)
・AI作曲ソフトが普及した時代。主人公・神田はDJ兼トラックメイカーとしてそこそこ成功をおさめていた。しかし彼はどこかもやもやした気持ちを抱えているようで……。
・良くも悪くも話は非常にわかりやすい。でも、静謐な中心で主人公を取り巻く世界がにぎやかで豊かとでもいうのかな。なんかそういうのがいい。
・石野卓球が出てきてしゃべってるだけで超おもしろいみたいな。*10
・作者はdaysneoでも作品を公開していて、「無駄な才能」なんかは「インスタントミュージック」とわりと興味が近い。「できること」と「やりたいこと」が食い違ったときに発生する位置エネルギーで物語を駆動させる、みたいな。
・過去作はぎこちなさすぎるという意味で画が固いんだけれど、「インスタントミュージック」の固さはテイストとして機能していていい気がする。
・「絵とかコマ割りはクセがないんだけど、切り取りかたがおもしろいんだよな、このひとに関しては。他の作品を読んでみないとまだ評価が定まらないかな」
「幽霊とゆーれい」春日井さゆり(アフタヌーン四季賞2019冬・佳作)
・夫が引きこもりに陥る一方で、妻である主人公は弁当屋で働いて生活を支えていた。しかし、ストーカーめいたキモい若者につきまとわれるに至って日々のストレスが決壊。職場と夫の世話を放棄に「幽霊」になる。
・21世紀も1/5を過ぎようとしているころに、80年代90年代のはかないトレンディ感を琥珀のように封じ込めた才能が出てくるあたりも四季賞のおっとろしいところなのでありますよ。
・冒頭の弁当を作るシーンのメカニカルな画作りと運びはまさに、といったかんじ。
・作者はinstagram でナイスでしゃれたイラストを公開しておられます。グループ展とかにも出品してるし、美大出身っぽい。似顔絵でも活躍しているらしい。もっとまんがが読んでみたいところ。
・「このひとはいいですよ。『ニューウェーブ』とか言って売り出しておけば売れそうな予感はあります。圧倒的に絵作りが独特だから替えが効かないっていうか。実験的なコマ割りをしているんだけど、それを感じさせない読みやすさもあるし。ただ、完成されちゃいすぎてる」「西村ツチカ先生とおなじようなポジションになってくれたら」
【その他気になったもの】
「完璧な庭」小野未練
・さすがに「姉がとつぜん怪異な存在に変身するもの」系を三つもリストに入れるのもどうかなと思ってしまい、選に漏れてしまった。
・ラストがよい
「チタンのナイフ」竜丸
・青春ドロドロ三角関係。キックのシーンがたいへんすてき。
・こういう系の作家ってあとから変化していくものだし、作品自体もいろいろ試行錯誤してますって感じが出ていて、今後が楽しみ。
「いつか帰郷をくちずさんで」佐武原
・題材選びのニッチさと興味深さの絶妙なバランス、説得力のある細部。世界を作れる作家ってかんじ。
・めちゃくちゃバズった「宗教的プログラムの構造と解釈」にもいえるんですが、尺に対してややトゥーマッチな印象。
・とはいえ、まあそこは「セリフが多いSFまんがは苦手」という個人的な好き嫌いのせいではある。
・アフタエリートの四季大賞クラス作家を躊躇なくひっぱってくるのが今のジャンプラの暴力性。
「聖女失格」ふわとろおふとん
・ギャグのテンポがよい作品は貴重。
「こころよるやま」景山五月
・パラノーマルおねショタ。おねショタ?
・主人公の抱える鬱屈の落とし所として厳しくて優しい、みたいなバランスは好印象。どっちかに振ってしまうのは雰囲気に合わないとおもうので。
・調べたら2019年度のゲンロンまんが学校の受講生で、本作は同講座の大賞*11の最終選考に残った作品。同年の大賞が上に挙げた久保田かど。
・「いいですね。ショタのほうはどうかわからないけれど、おねのほうを描きたいというのは伝わってくる。それを描ききっているので、よいと思います」「根本的にショタの悩みを解決しきらないところもいいですね」「解決させて話を終えたくなる誘惑ってあるじゃないですか。そこを解決しきらないまま終えられるのは才能」
「隣のじゃま子」狙井
・年の差×恋のライバル関係から発展していくガール(ズ)フッド。
・なにかもがちょうどよい。
・Kiss WAVE という『KISS』主催の新人賞から。いわれてみれば、コマの構成が『KISS』っぽい。
「種を踏む者」前野温泉
・文化相対主義という異星ものにありがちな視点をうまくショッキングに料理している。
・「話としては好きだけど、デザインが既視感しかないので……(異文化SFの)おもしろさに欠ける。異文化接触ものだったら見たことも聞いたことない絵が見たい。その点で説得力が弱い。」
「変貌」光紡麦
・「非常に好きな話ではある。感性も合うんだけど、ただ、この路線はもうみんなやってるからやらないほうがいいぞって思います」「いじめてくるおばさんがいいですね」「通しで読んだときに一番印象に残るのはメタ表現ではなく、おばさんの顔ですね。平手打ちのときとかなかなか描けないいい顔をしている。おばさんがでてくるコマぜんぶおもしろい」
・村コメにつけくわえることがない。
「コズミック・リリイ」吉高直
・冷たい方程式百合SFというジャンルをぶったてやがった
「御蚕様育成記録」光秀日量
・ずばぬけてユニークなのだけれど、あらゆる面で情報の量がツメツメすぎる。
・カイコガがかわいい。
「stairway to heaven」澤一慶
・たしかな画作りとテンポコントロール
「神風お兄さんといっしょ」うづきあお
・連載の一話目みたいで舌足らずだが、元気がとにかくいい。
「小さな愛と素敵な日々を」甘木あずき
・『デザート』の新人賞からひとつ選ぶとなると、これでしょうか。ルックが完成されている。
「オオアタリ」オニムシ
・虫捕り百合。徐晃よ、ひとはなぜ虫で百合をやりたがるのであろうな。
【書いてわかったこと】
・めちゃめちゃ疲れるんで、今度やるとしたら挙げる数減らします。
・村長にまんがを読ませてコメントを引き出すのはおもしろいし勉強になるので今後もやりたい。
*1:『MONSTER』の最終巻ってそんな謎解き要素あったっけ?
*2:おおむね、雑誌の発売日に合わせている?
*3:同期の受賞者に『この愛を終わらせてくれないか』の筒井いつきや『KING BOTTOM』の樋野貴浩など。大賞は今月新潮社から初単行本『泥濘の食卓』が出た伊奈子
*4:京都芸術大学マンガ学科の公式サイトより。https://www.kyoto-art.ac.jp/production/?p=110600
*5:『忍者と極道』の近藤信輔や『恋するワンピース』の伊原大貴など、今となってはクセの強すぎる人気作家を輩出したことで知られる
*6:現在最終実作課題進行中の2020年度もひきつづき受講している模様
*7:開設が2020年10月なので、受賞が決まってから以前のツイートを消した可能性もある。そもそも別垢をもっている可能性が大いにあるのだが、ここではあまり深くほりさげない。
*8:作者のブログに寄るとある出版社から「この作品で商業は厳しい」と指摘されたそうで、まあ、マイナーっぽさという点でわからなくはない。
*9:絵の抑揚で語れみたいな話ならわからんくもない
*10:女性ミュージシャンのほうも元ネタいるんだろうか。音楽には詳しくないので
*11:SFのやつなどと同様、スクールの名前を冠する最終実作課題が出される。